1話-6
第一回愛殺戯隊人生ゲーム大会が始まった。
なんて言ったら微笑ましいものがあるけれど、これはそんな子供がやっちゃいけない、生半可な気持ちでやってしまってはいけない。
やったら最後ーー泣く。
泣く理由? 知るか。泣く人生ゲームて初めて知ったわ。
彼ら五人もまた、このゲームの恐怖を知らない。
だからと言って恐怖に打ちのめされるかどうかもわからない。
彼らの目は、既に勝ち負けを気にする目ではなくっている。
人生ゲームという仮想の人生を必死に生きようとしている。
それでも結局、ルーレット次第だけどな。
「ヨォーシ、開幕直後に十出して一気に距離を開けてやるヨ」
「二百枚ある人生ゲームに十なんざ、大した差じゃねえよ」
二百枚ーーこの人生ゲームの枚数だ。ボード一枚ごとにマスが五十個ある。五十×二百ーー計一万マスの人生ゲーム。間違いなく、どの世界の中で一番大きい人生ゲームだろう。毎回十を出し続けていても、最低千回はルーレットを回さなければならない。
もう一つ、このゲームにおける特徴、それはマスが全て伏せられているのだ。
ルーレットで一を出せば一のマスに行き、一のマスの内容を見れる。単的に着いた場所のマス目の内容しか見れない。
これが意味すること、それは。 (((((初めの一回しか楽しめない…………))))) 言い方を変えれば、これは映画だ。どんな内容かもわからない映画。楽しみだとかはともかく、全員の人が期待や興味を持つ。だが、それは一回目だから味わえる感情。それ以降はどのようなキャラクターが登場し、どのような展開になるのか知ってしまっている。
だから彼らは楽しむ。
「エ……?マジで十出ちゃったよ……」
「フラグ立てたっすもんね、当然の結果っすよこれ」
「あれはフラグに入るんですか……?」
「マ、いいか。先は長え。最初どんなヘマしたって問題にはなんねえだろう……」
十マス目のシールをはがす。
『母さんが栄養のある物を食べてくれたおかげで中にいるあなたが元気に。身体ポイント+3』
「エ、そっから始まんの?」
もちろんのことだが、誰もこの人生ゲームについて一切わからなかった。持ってきた張本人のロリコンですらわからなかったらしい。何してんだよクソロリコンそんぐらい知っとけよ。
でたとこ勝負である。
「まさか、何百億も生きてるのに、また母親の腹からリスタートか……。人生何が起きるかわからんよのう、全く」
「言い方が酷えぞ、クソロリコン死ね。母親なんだと思っているんだクソロリコン死ね」(童貞)
「………………息子の童貞を奪ってくれる存在?」
「「「なるほど、その手があったか」」」
「いや、馬鹿かアンタら! ノーカンに決まっているでしょ!?」
続いて隊長の番。(隊長は自分が二番目にチ●コがでかいと強引に押し切った)
「うーし、さっさと出産してもらって童貞卒業すっか」
以前から童貞童貞言ってて気持ち悪いまであるのだが、実際童貞ではないことが一種のステータスと化している時代なのだ誰だそんなふざけたステータス追加した奴は。現実では出産=童貞卒業と言ったらマジで引かれるけど、この仮想の世界なら何をやっても精神的ダメージは来ないーー!
出産しただけで、童貞を名乗らなくていいーー!!
「ほれ五だ。十でた後だから低く見えちまうな……」
『母さんが煙草を吸いすぎたせいで腹の中で死んでしまった。新たな生命をもらいますか? はいの貴方はスタート地点へ戻り、いいえの貴方はゲームオーバーです』
…………………………。
「母親最っ低すぎんだろうがああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
虚しい、虚しすぎる……!
立ち上がった隊長がちゃぶ台に手を叩きつけ、そう、叫んだ……。
「う、嘘じゃろ……!? 五マス目で初めからって……!」
「これからも絶対どんどん出るっすよ、これ……」
「モシ二百枚目のボードで出てきたら……」
「普通にありえるような……そして、出たら……」
ーー立ち上がる気力が出ないって断言できる!!
全員の考えが一致したのだった。
「いや、ちょっと待つっすよ、皆さん」
ホモは五マス目の内容に指をさす。童貞たちもそこへ目をやる。
「『いいえ貴方はゲームオーバー』これって降りる選択肢があるってことっすよね。意外と良心的なゲームーーまぁ、そうなると思ってたっすよ。一応言ってみただけっす」
ホモのいうことを聞いた瞬間、童貞たちの顔に『どんなゲームでも諦めない』と書いてあることを察したホモは、『やっぱり』といった表情で試したかのような口ぶりだった。彼もまたこのゲームを楽しみ、クリアせんとするプレイヤーなのだ。途中でサジを投げるような奴じゃない。
「ま、いいさ。まだ序盤だしな。五マス下がると変わんねえよ。じゃ、次童貞な」
相変わらず切り替えが早い。
「五マス目は出るな五は出るな五は出るな五は出るなーー八っ! えーっと……」
『事故で母さんと腹の中にいる貴方は死んでしまった。新たな生命をもらいますか? はいの貴方はスタート地点へ戻り、いいえの貴方はゲームオーバーです』
…………………………。
「死因ををををををををおおおおおおおおおお教えろよおおおおおお!!!! 納得できねえよおおおおおおおお!!!!」
悲しい、悲しすぎる……!
立ち上がった童貞が頭を抱えながら、そう、叫んだ。
「さっきの話はーーフラグだった……?」
「も、もう犠牲者が二人に……無理ゲーの予感がしてきたっすよ……」
「ホモ野郎、後は任せましたよ!」
涙をこらえながら童貞はホモにバトンを渡す。
「え…………え、えぇ! 任されたっすよ、童貞!」
ホモは限界まで手首をひねり、ルーレットに手を置くーー
「解っ! 放ぅっ!」
ジュウイイイイイイン!! とルーレットが聞いたことがない音を出す。
「コ、こいつ……魔人の力を限界まで出したってのか!? テメェ! 正気かよ!?」
「ああ、正気だろうよ、あいつは」
「ッ!? ジャアどうしてホモは……!?」
「初めてできた後輩に任せたって言われたんだぜ、ホモの奴、そんなこと言われちまったら、誰だってやる気しか出て来ねえよ」
「ホモは……僕のために……」
一方で、
(やべえええ!? わし次、回しづらいんじゃけど!? あの空気の後に回すってKYもいいとこじゃよ!? ブチ壊せねええ!! 大体これ一枚目のはずじゃよ!? なんでこんな展開になってるの!? これ一九九回も続くの!?(続きません) その度にわし、皆から咎められんの!? なんなんじょよぉ……。こんなことになるなら、順番譲んなきゃよかった……)
机に突っ伏しているロリコンの姿がそこにあった。
ーー10分後。
ルーレットはまだ回っていた。
「自分で回しといて言うのも何すけど、とめていいっすか?」
「うん……そだね」
「あ、五だ。死んじゃった」
「そだね」
この人生ゲームがまだつづくのか誰にもわからない。