プロローグ‐3
「黙れ……!!」
って言う風に聞こえた。
多分、9割そう言っているんだろうけど、とにかく、周りがうるさすぎる。
先生たちは「警察を呼べ!」とか言いながら実際それを行っていない。いきなり変な奴(他の奴らが邪魔で見えてはいない)が扉を吹き飛ばしてきたら確かにパニくるのは当然かもしれないが、正直、警察呼ぶのはどうかと思う。なんでそんなことしただけで警察呼ぶんだ?
ここはもっと穏便に行こうぜ。本当は大したことないのに早とちりして他の人に迷惑をかけたり自分が恥をかいちゃうってことはあるからな。
女子生徒たちは予想した通り……てか、予想もなにもしていないけど、こういう状況に陥った場合、安全の恐怖を絵に描いた表情を見せる。本当の恐怖はてめぇらのこのヒステリックさだよ。
あ、今思ったが、早とちりしてるのは女子のほうではないか、女子たちは扉が吹き飛んでから今に至るまで、ずっと叫び声をあげている。なんだよそれ、肺活量どんだけいいんだよ。こち亀の両さんといいレベルなんじゃないのか。僕にはわからないが、女子たちはテロリストが来た、とでも思っているのだろうか。
だとしたら、それは間違いなく早とちりではないのか。僕はまだ当事者の姿が見えないのに、僕の後ろ側で、叫んでる奴もいる。てめぇら、ゼッテー見えてねえだろ。
前の奴も前の奴だ。
普通テロリストだとしたら、銃火器やらを威嚇のために、1,2発は撃つものなんじゃないか、今んとこ当事者さんの声とゴミ共の声しか入ってこない。
しかも、黙れと言った矢先にこんなうるさくしているのだから、人1人は殺してもおかしくはあるまい。なのに、それもしないという事は銃火器やらは持っていない確率が高め……お、見えてきた、見えてきた。やっと見える位置に移動してくれたか。ほら、やっぱり手ぶらじゃないか。
僕は頭の中に保護者さんが、保護者の立ち入り禁止ということを知らないで来ちゃいましたー、てへっ説が脳裏によぎる。いや、ないわ。黙れの発言で否定材料はあるのだが、さらに可笑しいことに気づいた。
このホールに入った――侵入者の出で立ち明らかに子の卒業式を見に行こう、といった雰囲気ではないのだ。
上半身はフード付きの青いジャンパー。下半身はかなりダボダボのズボン。というよりはパジャマのほうが近いと思う。ファッションでやってんのか分からんけど。世間一般からしたら不健康で不規則な生活を送ってそうと思われると思う。しかし、その反面、足元だけは彼の中で違った。遠目からでも、見て取れる。あれは靴――しかも機動性を意識した物。
引きこもりのようなだらしない服装。
動くことを目的とした靴。
一体、侵入者さんは何がしたいのか、さっぱりわからん。別に俺がわざわざ知ろうとする意味もないんだけどね。
当の侵入者さんはさっきの黙れと言ったきり何も言っていない。
もしくは周りの奴がうるさすぎて聞こえないだけかもしればい……
ってあれ?脳内思考してて気が付かなかったけど、全く、あの厄介で毎日聞いても聞きなれない、青春をどうにか楽しまんとする者たちの、自分の居場所、存在、価値を証明するための、
――――、あの声が聞こえない。
応えは火を見るより明らか、周りを見れば明らかだ。
僕が、今向いてるこの向き、この席の位置。
つまりは、僕の真正面。
ホールの壇上。
警察、警察を喚いていた先生たち、だった物がなくなっており、赤黒い液体が壇上のほとんどを覆っていた。
さらに前、後、左、右全てにおいて。
もちろん僕の周りに、赤黒い液体は飛び散っている。
わざわざ花に意識を集中するまでもなく、漂ってくるこの悪臭。
――――血。
死んでしまった……のだろうか。
この状況で死んでいない、などと考えるのはゴミの考えだ。考えるのは常に最悪のケース。
――侵入者は一人で僕以外のホールにいた人間を一瞬で殺すことができる者次は僕の可能性も…・・背後、
「なあ、お前エってさ、なんで自分以外の奴らが死んでるのにそう冷静でいられるわけ?」
殺人鬼は突如、僕の前に現れた。
やっぱり本当に死んだんだ、あいつら。
この質問は単なる興味か、それとも、大事な問題があるのか。
「そんな、冷静ってわけじゃないですよ。かなり説明が不十分だとは思ってんすけど、その……自分には関係ないことだから別にいいや、と思ってただけです。ほら、見てみてくださいよ。実際、今から自分が殺されるのに対して、足とか手とか……てか全身震えているじゃないですか。僕にとっての一番は僕自身。付け加えると2番から下はありません。僕は僕のことしか見えてなかったとい事です」
さて、僕の人生もここまでか。あの世に行ったら、自前で作っておいた
『死んでからやりたいこと』のマニュアル通り死後を楽しもう。
なるべく痛くないように殺っていただけませんか、などと言いたかったのだが、さすがにこの状況ではこの要望を通してくれないであろうと思い、口にするのを止める。
したい(もう液体でしかないが)を見るに、体内に爆弾のような何かを投与させた、なんて殺し方をするのではないか。
ああ、早く殺してくれない物か。焦らしプレイが一番苦手なんですけど。
そう思ったところで殺人者が動く。
口だったが。
「何かさあ、今から自分殺されますよー、みたいな雰囲気作んなくていいからさ。もっと、こう、聞きたいことって無いの?どうやって殺したー、とかなんで殺した―、とか、そもそも貴方は誰なんですかー、とかさあ。あと、お前を殺したりしないから」
な、何を言い出すんだ、このヒトは。
僕を殺さないだって?じゃあ何故他の人たちを殺したりしたの?
何が――、したいんだ?
わからない。分からない分からない分からない。
でも、とにかく、僕を殺したりはしない、そうだ。
急速に肩の力が落ちていく。
あはは。どんだけ自分が一番なんだよ……。
「べ、別に聞きたいことはありません……。僕は細かい所は気にしないタイプなんで……」
っていうか、何か質問できる雰囲気でもないんで。
「え、ないの?……お前ってさあ、何か違うよな、他の奴らとは。こういうのを興味が沸いた、って言うんだろうな……そう!俺はお前に興味が沸いた!!だから、まあとりあえず俺についてこい!!今は何も聞くな!」
何言ってんのかもうわかんねえよ。
急に声がでかくなるし、一番、質問したいところを聞くなって言うし。
でも僕には選択肢が1つしかない。
僕はこのヒトに逆らうことができない。魅入ってしまった訳ではない。支配力的な理由でだ。
「それにしても死体は見てから数分もたってないのに、こんな展開になるなんてな……」
それでも、考えるのは常に最悪のケース。
それは――
このヒトが僕を裏切ってしまうことだ――――