プロローグ‐2
ちょうど8時10分。
「あーダルいダルいダルい!!」
「俺」は、とある学校の卒業式というものに行って、俺が入っている組織の適性があるかどうか調べにきたんだが……
しっかしなんでリーダー自らが出歩かなきゃなんねえんだよ……。
「あー、着いちゃった」
俺は今日、この仕事をしていて、今着いたばっかのこの高校で3校目だ。どうせ、またゴミしかいないんだろうな……。
俺の組織に必要なのは、力でもなければ頭でもない。
自分より上の者に示す《敬意》なんだ。
といっても、さっき行ったところでは、礼儀すらもわきまえないゴミ共が無駄に多くいただけで、《敬意》をもって接してきた奴は1つたりともいなかった。
……ちゃんとどっちが上かを見してやってんのに、奴ら、足は震えるわ口からは悲鳴が出るわ、終いには目から大粒の涙を流してるゴミもいたぞ。
ったく、恐怖の感情を向けんじゃねえよ。俺が、いや、俺たちが見つけたいのは《敬意》を持った人間だけだ。
「えーっと。ここって確か8時20分がスタートだったよな」
言って、コートの内側から茶色の錆びれた懐中時計をみつめる。
「あと10分か。それなら、ちょっくら構内散歩でもしようかねぇ。」
校内はさっき言った2校よりも素晴らしい物だ。
何が素晴らしいといえば、清潔感が半端じゃない。隅々まで掃除が行き届いている事が、一目でわかる。しかも、あの頭の悪そうな声が聞こえない。
「おめーら式出るか?」
「行くわけねえだろギャハハ!」
前言撤回、この点に関しては全校共通なのか?
教室から1人出ていくが、声の主たちは一向に出てくる気配がない。ていうかまだうるさい。頭悪い。
「しゃーねえなあ」
おそらく、声が聞こえたのは、今俺がいる教室から4つ離れた教室。
そこには3-D、とかかれていた.
俺はD組の扉を無造作に開く…、いやそんなぬるい事ではダメだ、このゴミ共を卒業式に行かせるには、扉を蹴り飛ばすくらいのことをしなければ。
3、2、1、
ドーン!!!……喪黒福造かよ。
俺が放った前下痢は、扉を吹き飛ばす事こそは出来なかった、が、ずっぽりとドアに穴を開け、足が貫通している。
ヤベ、力を入れすぎて貫通しちまったよ……。失敗失敗。
ま、これでも都会生まれの坊ちゃん共を黙らせるには十分だろう。
さらにこっから、低く、そして深い声で相手に有無を言わせない迫力を出す。あれ?低くも深いも一緒か?
「おい……、君たち今、式に出ねえ、つったよな?若いやつがそんなんで、この先この国はどうなんだよ、ああ!?てめぇらみたいなゴミがいるから、いつまでたっても世の中はゴミなんだよ。俺の言いてえことが分かったよな?納得できたよな?理解できたよな?それじゃあ式に出ろよな。」
なんか遠回しの滅茶苦茶な事を言ったと思うが、流石にここまで言えばわかるよな?
要するに、ゴミは早いうちに捨てたほうがいい、ということである。
まあ、わかんなくてもまた後で会うことだしいっか。
そう自分の中で片づけると教室を出ていく。とすると壊してない扉からさっきのゴミが出て行ったのだろう。
「なんだったんだよ?ほんっと俺たちが好きでやってるんだから、大人が口出してんじゃねえよ!!」
うわ痛!あいつら俺の頭になんか投げやがったな、あの人間共。
ゴミのために俺、自ら出向くなんてえらすぎない?これもうボーナスもらわねえと割に合わねえっつーの。
さて、もうホールへ行くか?いや、正直顔を見られずにこの仕事を終えたい。さっきみてえなゴミが他にもいて、そいつらとノコノコ鉢合わせするかもしれないしな。
俺たちの組織に、チームの輪を乱す奴は邪魔者でしかない。それがたとえ、どんなに強い奴でも根性があるやつでもだ。
己を鍛えても個人のレベルじゃあやはり限界がある、個人では気づくことのできない欠点だってある。自分が、力を出し切っても無理なら、ためらう必要などなく、仲間を頼る。この事が分からないゴミたちは偽りの、信頼がティッシュのようにヤワなチームを作り、その円の中で全員が全員、道化を演じている。当の本人たちは、気づいていない様子だったが。
こいつらに限った話じゃねえけど。
ふと、今更気づいたように、懐中時計を見つめる。
「あれ、もう30分じゃん。こんくらい時間が経てば、鉢合わせ、なんて事はねえよな……うん、大丈夫大丈夫。んじゃ、行くか」
それから15分後、
「なんでこの建物はこんな複雑なんだよ……!」
かなり怒っていた。
俺は今まで方向オンチなどと言われた覚えはないし、方向を間違えた事もない。仕事上、迷ったら命取りだからな。
はっ?もしや迷宮結界が張られているのか?
初めて来た世界なんでない、とは言い切れないのが恐ろしい。
何はともあれ、一階のホールの扉の前まで来た。
しかし、ここでまた新たな問題が。
「ここって蹴破って登場したほうがいいのか……?」
また格好つけのためにアホなことを考えた。
けど、普通に手で押して入るのはダメだ。格好がわるい、そして自分と格が違うと思わせるには蹴て力を見せるのが良い。
だからと言って同じミスを犯すのは間抜けだしなああ……。
「!」
待てよ、この場合、扉から派手に登場するのが目的だ。つまり、扉を貫通させずに蹴り開けることが必要となる。
俺が注目したのは貫通、の点だ。
貫通した理由は簡単、元々、俺の力が強すぎただけ、しかしこれは弱めようがないのだ。
なら貫通しないためにはどうすればいいのか、それはゴミ共にでも分かること。扉の方に細工を施せばいい。
だが、残念なことに俺には対象の防御力を上げる「スカラ」も持っていないし、扉を強化させる鎧玉も持ち合わせていない。
結論、不可能。
「……」
……。
「……」
……。
「ええー……」
出てきたのは力のない脱力した声だけだった。
「なんで!?なんでこうなるんだよ!?っざけんなよ!この世界作った奴誰だよ!?今すぐ殺してやるから出て来いよ!」
と思ったら八つ当たりが始まった。(相手はこの世界の創造神とは)
やっぱ、スケールが違うな。俺。
などと考えていたらどんどん憎くなった。人間が。
「そうだ、全部人間が悪いんだ!!ゼッテー殺してやっからなこの種族!!ギャハハハハハハ!」
あ、これじゃさっきのゴミのような悪党じゃん。
『あの~……、隊長?』
ん、なにこの声?急に何?
ちょー怖いんだけど。
幽霊?幽霊なの?えええええええ!?ちょっと待って!?俺マジで怖いんだけど?解明されてない物は何よりも怖えよ。
『内ポケットっすよ。内ポケット。そん中に通信機あるんで』
「内ポケットには懐中時計しか入っていないはずだが……。お、あったあった。てかなんで君が知ってるの?幽霊以上に怖いことかもしんないんだけど。」
『監視してた、の一言でかたずけてもいいっすか?』
「わかった。お前が俺のことを性的に見てるって事が分かった。」
『さっきから色々突っ込みたい所あるんすけど』
「ああ、いいよいいよ。頼れる隊長の前で全ていってごらん?部下の心の中にあるわだかまりが無くなる、ってんだったら俺はとっても嬉しいよ?」
『長引きそうなんで遠慮しときますわ』
――――っと。紹介が遅れてしまった。
通信機で俺と話してるこいつこそが俺の組織にいる隊員である。
隊員とか言っちゃってるけど俺よりしっかりしてる気がする。今日この仕事に付き合ってくれるの俺とコイツ合わせて3人しかいないもん。
「けど、戦闘経験は俺のほうがあるし、強えもんなあ~!ドンマ~イ一生下っ端隊員人生送ってやがれ!」
『いきなり暴言吐くのやめてもらっていいっすかねえ。けっこー傷つくものなんすよ?』
「だって、お前の紹介してたら俺よりいいところが多いんだもん。だからいやがらせにわざわざ口で俺のほうが勝っていることを証明したんだよ。
『紹介って……。俺たちの物語がアニメ化でもするんですか?』
「いや、まずはノベル化からだな」
『あと、急に悪人になるのもやめてもらいたいんすけど。さっきも何か質問したと思ったら急に発狂しましたし。』
「あれ、聞こえてたの?」
『はい、パーフェクトと完璧は同じ意味ですよ?』
ああ、マジで恥ずかしいな。
いや、一人で発狂してる時点で恥ずかしいけど。
発狂してるところだけでも人から見れば恥ずかしいんだけれど。
「あのさあ、まず隊長に向かってその指摘するの、おかしくない?言っていい事と悪い事があるのくらい分かるっしょ?ていうか、話逸らすのやめて、とっとと本題に入ったら?」
『そんなに恥ずかしかったんすか……』
うるせえ。
『あ、いや違いますね。俺が隊長に連絡した理由は早く仕事してほしいからっすよ。』
仕事ったって、俺ちゃんと仕事してんじゃん。しかも今から3校目の予定だし。
『別に2校行った事は知ってるんで。それについてはご苦労様っす。でも俺が言いたいのは何故3校目が目の前にあるっていうのに行かないかって事ですよ。』
「じゃあさ、逆に聞くけどお前は人間の前で恥をかくことができるか?」
『その話関係あるんですか?』
――――こいつ呆れてきてるな。
「ああ、その通りだ。かなり重大な事だから時間をかけてゆっくりと考えるがよい。」
『時間ないんでさっと言わせてもらいますけどね、え~~~っと、突発的なことならなんかこう許せる、って感じっすけど、自分でわかっていて恥をかく選択をする事、つまり恥をかくって事以外に選択肢がないってのは少し苛立ちを覚えますね』
「おぉ~。お前もよくわかってんじゃん。それだよ。それ。今、俺が陥っているこの状況が正にそれなんだよ」
『具体的には?』
「ホールの扉を蹴り飛ばして登場してえんだけど、俺の力が強すぎて貫通しちまうんだよ」
『なんでそんな事がわかるんですか?』
何言ってるんだこの部下は。
ていうか声に怒気が含まれていたような気がするんだが、そんなに俺って鈍いの?
本当にどういう意味なんだよ。こっちが質問したいわ。何が『わかる』だ、俺もわかんねえよ。お前が何言いたいかを。
ああ~でも失望されたくないよぉ~。
だったら考えろ、俺!
思考を停止するな!
もしかしたらこいつも自分自身何を言っているかわかんなくて、上手く言葉がまとまってまいんじゃないの?
だからこそ!俺が考えないといけない――――。
『教室の扉は貫通したかもしんないけど、ホールの扉も一緒の事になるとは限らないでしょう?!試してもいないのに決めつけてんじゃねえよ!!』
「急に口悪くなんなよ。とりあえず落ち着け。落ち着けって。ごめんな?お前の言うこと理解できなくて。」
『どうでもいいんだよ、そんな話!!いいか?!教室のロビラとホールの扉じゃ何もかも違うんだよ!それくらい分かりやがれ!!』
……マジで、ごめん…………。
俺、頭悪いからさ……。
「あははは。今すぐやりまーす。また後で」
それだけしか言えなかった……。どんだけビビってんだ、俺。
やっぱり普段とは違う動作をすればその人の印象、変わっちまうもんだな。
それより仕事しないと。もしかしたらまだ監視されてるかもしれねえが。
そこからの俺の動きに澱みは無く。
然るべき動作で扉に足を蹴りこんだ。
「たしかに違ったな。何だ?素材の問題だったか?」
果たして扉は吹き飛んだ。
正直、半信半疑、いや、二信八疑くらいだったのだが、あいつの迫力のおかげで何とか踏み切れたな。ほとんど信用してなかったな。
さぁ、仕事の再開だ。
必要な物は、得体の知れない不気味な笑み。そして圧倒的な力。
OK、準備は整った。
まずは一歩。ホールの中へと入っていく。
「おい、てめぇらゴミ共!今からこのホール内は俺の仕事場だ!この中で俺の言うことを聞けなかった奴は殺す!ちなみに、さっきの扉を吹き飛ばしたのは俺だ。俺はてめえらゴミ共より力があることは証明した。逆らうのは最善策じゃあねえって事くらいわかるよな。……って、やっぱりうるさくなるわな。ここまで派手にやれば……。」
「とりあえずてめえら……黙れ……!!」