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遊戯戦  作者: 太陽化身
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プロローグ

 今日は卒業式、とてもだるい。


 学校は8時を過ぎて登校すれば、遅刻とみなされる。僕は7時30分に家を出る。10分で学校に着く。

 つまり、HRまで20分の時間があるということだ。

 でも、今日は卒業式だから、早く行くと「こいつ張り切ってんの?」みたいに思われてしまうから7時50分に出ることにする。

 そりゃ、卒業式で何を張り切るか分からないけど、こういう奴ら、大体思ってるでしょ?

 さて、50分まで、何をしていよう。

 う~ん・・・・・・やっぱり読書かな?

 ・・・・・・あ、もう50分かあ。そろそろ行かないと。


 そこににぎやかな通学路も今日は誰一人といなかった。

 学校に着き、自分の教室が近づくにつれ、頭の悪そうな声が聞こえてくる。いつもなら表情に出さず、うんざりし、イヤホンを耳にはめ、音量を頭が痛くなるぐらいにするのだが、今日でその声を聞かなくても済むと思い、ほんの少しだけどうれしかった。

 教室に入るとやはりというか案の定というか、うるさかった。

 しかし、聞こえてくる話題はいつもとは違く、これからの事を話しているようだった。この学校は、大学に行くという選択肢がそもそも無い。就職か専門学校に入る(一部ニートになってやるぜとかほざいてるゴミもいた)ということになる。

 「俺が警察なったら、人殺ししても見逃してやるよ!ギャハハハハ!」

とか、

 「とりあえず銀行強盗して一生楽してあそぼーぜ!ヒャッハー!!」

とか、今まで高校という社会から比べればぬるま湯のような生活を送って来た者たちが就職はおろか、専門学校に入れる心構えをもっているはずがない。

 だから、この学校には元々、人生を捨てたゴミたちと、大学に入る必要のない天才、あるいは秀才たちが来る学校として有名なのだ。

 専門学校と言ったが、実際そっちへ行く人は極端に少ない。専門学校を目指しているのなら、わざわざこんな歪んだ高校に入る必要もなく、自分の身の丈にあった高校のほうが、よっぽど良いに決まってる。

それでもこちらに来る人はただ単純に、家が近いからという理由で来ている。

「おーい、お前ら、もう少しで卒業式始まるからホールに集まれよー」

 先生が最後に言い残して去ってしまった。

 この学校はとにかく自由だ。いや、生徒に信頼を寄せている、という言い方が正しいのか。

 卒業式は1階にあるホールに全員(3年生だけ、親は来れないようになっている。)集まらなければならない。集まらなけばならないが、別に来なくても怒られたりすることはない。

 一体なぜなのだろうか・・・・・・3年間この学校に通い続けてもついに卒業式まで答えが出ることはなかった。

 しかも、さっきの先生の言葉がなかったらただの集会だと思われても仕方がない位だったしな。

 ま、いいや。僕もトイレに行ってからホールに行くか。

 よく見てみると、教室には既に、就職予定の人たちはいなくなっており、ゴミ共しかいなかった。ここはゴミ箱かよ・・・・・・

 「おめーら式出るか?」

 「行くわけねーだろ ギャハハ!!」

 ああーうるせ。さっさと行こ。


 いつもは重く閉じられているホールの、これまたそこそこでかい扉は全開に開かれていた。

 ホールの扉は2つあり、ホールの東と西にそれぞれある。僕は自分の教室から近い西の扉に行き、ホールの中へと足を踏み入れる。ちなみに、席は自分の好きなところでいい、という指示だったので、ひとがいっぱいいる隅っこにはいかず、人がまばらに散っている真ん中のほうへ行き、イスに腰を掛ける。

 気が付けば、開始まで5分の時間になっていた。さすがにここで本やスマホをいじる度胸もなく、じっとだまって過ごす事にした。

――その時西の扉から、これから卒業式が始まるとは思えない態度で入ってきた生徒(ゴミ)連中がいた。

 あれ、さっきの人たち(ゴミ)だ。

 これで、ホールには3年生全員がそろった。

 やっぱ、ゴミたち、学校好きなんだな。


 校長先生のありがたい話、実際よく聴いてみると、俺みたいな凡人には難しい話を10分間も喋りっぱなしだったので、僕のバイタリティが半分以上も下がってるに違いない。おそらく卒業式が始まってからは律儀に沈黙を守っている奴ら(ゴミ)たちはK.O.されていてもおかしくはあるまい。単にボーっとしてるだけの可能性はありうるが。

 さて、こっからは卒業証書を授与する。といっても証書は後程、教室に戻ってから渡すので、式では一人ずつ名前を呼ばれ、それに応えるというもの。

 ほかの学校はわからないが、この学校では当たり前となっている。

 ホント、違う高校の卒業式も見てみたいな・・・・・・。

 「3年D組、一番・・・・・・」

気が付けばもう僕のクラスに入ってる。

 一見、なんともなさそうに見える返事だが、僕はどんな声量で言えばいいのか、全くわからない。大きすぎたら、「こいつ張り切ってんの?」とか思われるに違いないし、小さすぎたら、もう1度名前を呼ばれるという恥をさらすことになるかもしれない。

 ゴミ共はどうやって返事してんだ・・・・・・?

  「ハイッ!!」

  「ハイ!!」

 マジかよ・・・・・・。

 めっちゃでけえ声で返事してんじゃん。

 つまり、こいつらは張り切ってるって事か?

 てか、こんな所でだけマジメすぎんだろ・・・・・・

 はあ・・・・・・しょうがない。ゴミ共にならって・・・・・・ってダメだダメだ。

 ゴミと一緒の大きさで声出したら、「あいつら仲良かったっけ?」みたいに、ほかの生徒から思われてしまう。

 ゴミ共たちからも、「アイツ、俺たちと仲良くなりたいんじゃね?ヒャハハ!!」

と思われてしまうだろう。

 くそっ!こうなったらなんとも思われないですむ、中間ぐらいの声で返事をするしかないのか・・・・・・。

 僕のいる席は、舞台の正面後方にある。

 少々離れた、程度ではないこの距離から、舞台の先生に返事が果たして聞こえるのだろうか。

 いや、待て・・・・・・生徒の名を呼んでいる先生の歳は60歳手前の校長先生だ。そこから言えることは、

老化が少なからず進行している事だ。

これは痛い。舞台に声が届くようにするには、校長の耳に入る声量で返事をしなければ・・・・・・。

 この卒業式、恥をかく、という選択肢しか存在しないんだ。

 「22番 ・・・・・・」

 「はい」

 あと1人、そういや今思い出したが、この後もまだ長く卒業式は続くから、1人恥をかいてしまえば、逃げる場所はないんだ。

 「23番 ・・・・・・」

 「はい」

 さあ!覚悟を決めろ、俺!

 「24番―な、なにが起きた!?」

 先生がまさに僕の名前を呼ぶ瞬間、

ホールの扉が吹き飛んだ――――


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