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危険物の紛失に部屋の中にいた1人を除いてさっきの様、いやさっきより深刻な顔をして硬直した。危険物の紛失に危機感を覚えないわけがない。
「きっちり管理してたつもりだったけど、人混みの中で落ちかけたときにでも盗られてたかもしれないです」
「いや、つもりだっただと? つもりでことを大きくしてしまったかも知れないのだぞ!」
「知っていますよ。と言ってもあれはちょっとやそっとじゃ開かないし、大型の魔物ぐらいの重さじゃないと壊れませんし」
慌てた様子もなくごそごそと懐を探っていたアルカが一枚の紙を取り出す。それを括っていた紐を解いて机の上に広げると中心から町の見取り図が書き記されて行く。見取り図が紙の全てに広がるとその上に手に持っていた試験管の中身を撒いた。
「ことをどう捕らえているのかわからないが、さっさと探しに行かないか!」
「ことは大変と考えてるし、いま探そうとしているじゃないか」
「お前のその態度は」
「え、ああ。大事に対して怒られるだろうからもう口調を緩めてもどうせ紛失に対してのと併せたら微々たる物になるんだからどうでもいいじゃないですか」
「お前……」
「それより」
呆れた様に首を振る支部長。
取り出された試験管から散った物は地図上を動いて様々な場所を行き来している。その中の何箇所、挙動不審な動きをするものが現れる。
「えーっと、たぶんこれは張り込みで、こっちは犬猫の小動物で……」
さらに試験管を取り出すと中身の液体、いやゲル状のものを垂らす。それは周囲を見回すように蠢くと一方にコロコロと転がりだした。そして机から落ちたそれを漏斗で受け止め試験管に戻す。
「おおっと」
「……今の落ちて行った物体の正体を聞いていいかな?」
「ただの探し物を探す物ですよ。んでこの方向に転がって行ったんですけどここから先はなにがあるんですか? って聞くよりわかりきったことですかね」
「そうだな、スラム……と言っても障りない場所だ」
「ああ、あの人間の掃き溜めですね。なら一回そこに集めるか、そこで取引するかだな」
支部長は顔を一瞬だけ歪める。
「なぜそう思うのかな?」
「いやなに、そこそこの素材で作ったから見た目で売れると思われるんだよ」
「であればなぜそんなものを完璧にしまっておかなかったんだ」
「手癖が悪い奴が“庭”の管理をしている奴で、どこに置いたって開けられるから困って頼みに来たんだ。一人旅の時は被害を抑えられるから今までは大丈夫だったんだよ」
「材質は?」
「白金と魔法合金。はあ、ここでは範囲外だな。ちょっと出てくる。それまでに封印師を予約しておいてほしい」
「……まあ、いいだろう。だが」
「金はきっちりと払うよ」
コートの裾を翻しながら立ち上がるアルカ。支部長の釘を刺す様子の視線をさも感じないように扉まで行き、軽く開いた状態で振り替えると。
「あ、私この町は初めてなものですので地理に疎く、ここまで案内をして貰いました受付嬢さん。お暇でしょうからお給金弾みますのでガイドをお願いしますね」
丁寧な口調に戻り悪びれもなくそう言い放った。