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1ー3

 スキップのように弾みながら前を先導する女性職員。その後ろをアルカはキョロキョロと建物を観察しながら歩く。黒みがかった柱とその間の漆喰は年期が入っていて古くからこの場にあるということを示している。


「ドシタノですか? どこにでもある建物だと思うのですが?」

「ああ、いえいえ。ただこういった空間を変化させる魔導具は高価だったと思っていたのです。だいたいは王都や帝都、聖都の近くのギルドくらいしか見たことがなかったもので」

「それはデスネ、昔ここのギルドの運営がチョックラあってネ。永久式の魔導具を借りて建てたみたいで、マアそのあとにいろいろバレタみたいでそのあとはポンポンとダネ」

「人間だからですね。納得しました」


 奥奥と進んだ先の突き当たり、堅固でありほどほどに装飾された扉の前で止まった。

 その扉に付いた獅子を象ったドアノッカーをガンガン鳴らし部屋の中の人物に届くように声を張り上げる。


「シャッチョー、研究の人連れてきたヨー」

「ギルド支部長に対してもそうなんだね君は……」


 返事を待たずに扉を開くとズイズイと中に入っていく。


「返事を待たなくてもいいのかな? 入るけど」

「扉が丈夫過ぎて声があまり通らないんだ。だからドアノッカーと、一応伝声管を配備したんだけどなメティルファナ」

「あのナンニモ通ってない配管ナラ、ドア開けるのに邪魔なんでブッコ抜いたヨー」

「必要なもの何だから壊さないでくれ。それで君が……何してるんだね?」


 扉の先には大きな部屋があり、様々な物が並ぶ棚に互いを向いた高級そうなソファー、扉の対面に仕事机が置かれそれほど年をとっていない支部長が書類に目を走らせていた。

 支部長と職員――メティルファナとの会話の途中から入ってから目についていた棚に配置された巨大な魔核と他方に分かれた一対の同じく巨大な角に目を向け観察を行っていた。


「お初にお目にかかります。生態保護研究のアルカ·ノアードです。この度は挨拶と私事で訪ねたところです。これ齢二十年のゲルトルーヒの物ですね。角の方一欠片貰えませんか?」

「これはご丁寧に。このルルベリア支部のギルド長をしているフェイスアード·クスィヒルトです。私事と仰られましたが今回はどのような要件ですか? それとそれは完全品なので少しも差し上げることはできません」

「はぁ……、残念だ。さて私事の方ですが実は封印師の情報が欲しいんです」

「封印師? 何か危険なものでも所持してるのですか? どこに――そういえばあなた方は“(ジオラマ)”を持っていましたね。そこに置いているのですか?」

「知っていましたか。その通り、“(ジオラマ)”の中に入れてます。それでも今回の物は他の専門家に預ける程の物じゃなかったので管理してたのですけど、まだそれようのスペースがなくてですね」

「なるほど。スペースを作る時間を欲するから封印師、ですね」

「はい」


 仕事から離れ応接用のソファーに座るとアルカに座るよう促した。それに応えてソファーに浅く腰を落とすといつの間にかメティルファナが用意していた飲み物を二人に出してきた。


「そいえば、ソノじおらま? ってワタシ耳に初めてを入れたネ」

「知らないのも当たり前です。一般には知れ渡ってないのは当たり前、各支部を任されている私みたいな者でも知ろうと思わなければ知る機会が滅多にないものなんです。彼らを除けば“(ジオラマ)”を知るものは本部の幹部連か知識を求めるものだけでしょう」

「そんなマイナー知識の元が何だって言うんデス?」

「彼らは生態系を調査するのが仕事であり、同時に保護するのが仕事なのだよ。そのような仕事に就いているからこそ“(ジオラマ)”が必要になってくる。生態系の中にあるある動物一つがその地域から消えたとしても他にもその役割をはたすものが出てくるが、生態系を脅かすほどに消えてしまえばその地域が消えてしまうこともあるし、固有種が絶滅してしまうこともある。それを防ぐために危惧種を繁殖させたり代わりの種を運ぶのに必要になって来るのが“(ジオラマ)”なんだ」

「ホウホウ、便利な物ですネ」


 説明を聞いていたメティルファナはアルカの前に置かれたカップを持ち上げ飲み始めた。そんなことをされたアルカは、されたことに気づいてないのか放っているのか懐を探ってなにかを探している。


「君の場合はそのコートが“(ジオラマ)”、で合っているかな?」

「そうです。他の人だったら鞄や宝石、魔導具なんかを使ってますけど」

「それで本題に戻そうか。今回は何を封印するために来たのかな? うちにいる封印師が役立てればいいのだけれど」

「大丈夫です。今回はきちんと対処してからの封印なので時間もかかりません」

「そうですか」

「封印してもらうのは運良く見つけたクラッジフォグの卵でして、観察すれば対処法や有効利用が生まれるかもしれないので慎重に行きたいのです」


 一瞬部屋の空気が詰まる。それだけ恐ろしい生き物だから。

 クラッジフォグは個体であり群体の闇状の魔物。その生態は謎に包まれ、判明していることは人から人へと移り行き、その時に人の精神を全て喰らう。そして中規模の町ならば一晩で住民を喰らい尽くす。そして、餌が無くなれば餌を探しに最後に移った肉体を操作して30日間さ迷い、見つからなければその肉体を繭に乾眠をする。


「それで、乾眠状態のクラッジフォグは卵と形状から呼ばれてそう呼ばれているのは知っていますね。そして空気に触れると活性化するので液体に入れて運んでましたが、うちのいたずらっ子が遊び導具にするので安全を図ろうかと」

「それはそれは、本当に危険で冷や冷やすることでしょう。今から動ける封印師を呼びますので、その卵の準備を……どうしましたか?」

「……非常に言いにくいのですが」


 バッサバッサと“(ジオラマ)”内を探していた手を止めて支部長を見つめる。


「なんかクラッジフォグの卵がどっか行っちゃったっ」

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