1-1
大きな門の横に付いた馬車が通れるほどの入り口に何人もの人間が並んで町の中に入るための検問をしている。ある人は人頭税の金額に頭を悩ませ、またある人は運んでいる品物に対してかかった税にどうにかやすくできないものか役人に交渉している。そんな中に赤いコートを纏った一人の男性が検問の一つに行く。
「こんにちは。ルルベリアの町にようこそ。身分を証明できるものはあるかな?」
「はい。これで良かったでしたね」
男性の懐から取り出されたカードを役人が確認して水晶にかざす。確認が取れたのか一つ頷くと男性へ返した。
「ギルドの直属生態研究のかたでしたか。お疲れ様です。今回も調査の関係でいらしたんですか?」
「まあそれもありますけど、だいたいは趣味と実益を兼ね備えてますから物見遊山ついでの調査ですよ」
ふと風もないのに男性のコートの裾が一瞬だけ翻る。
「おっと」
「どうなさいました?」
「……待て、出るなよ。ああ、いえ。内側のポケットに入れていたものがずれて」
「そうですか。気をつけてくださいね」
「ありがとうございます」
「それでは次へ進んでください」
地面に置いてあった荷物を持ち上げて次の検問の窓口に進む。そこにはボードを持った役人が立っておりその後ろには机が設置されていた。
「では荷物を拝見します。違法な物や盗品がないかチェックいたしますので」
「はい。どうぞ」
男性は手荷物のトランクケースを台に乗せて開き役人に見えるようにまわす。トランクの中身は着替えの服や多数のメモ帳にインク瓶が数個。空瓶と試験管、ペン先の換えが多数。その他生活用品や様々なものが整理されて入っていた。
「おかしなものは入ってはいませんね。では滞在許可証を発行します。一般銅貨十枚をお願いします」
「えっと……、纏まった数があるのはルーセリア銅貨とクルッカス聖別銅貨のどっちがいいですか?」
「今のレートですとルーセリア銅貨は十一枚、クルッカス聖別銅貨ですと十二枚ですね。どちらにしますか?」
「ではこれで」
「ルーセリア銅貨丁度ですね。では名前をお願いします」
「はい。アルカ・ノアードです」
「……。はい、ではアルカさんこれが許可証になります。滞在中はなくさないように気をつけてください」
男性――アルカ・ノアードは役人から差し出された許可証を受け取るとトランクの中にしまい込み鍵をかけた。そしてまた裾が翻ると黒い影が疾ると同時に裾がもう一度、何かを巻き取るように翻ると歩くタイミングで違和感なく揺れていく。