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「こちらは私の使い魔のモコだよ。」
『モコだよ。よろしく。』
腕の中に居るモコを紹介をする。ソフィアは椅子に座らされていた。周囲を屋敷の人が全員で取り囲んでおり、ソフィアは罪を犯した犯罪者の気分だ。ソフィアはモコに顔を近付けて、周囲の人の顔を見ないようにする。
「ソフィア様はモコと契約したのは、説明がなくても分かります。ですが、太陽すら昇っていない早い時間に、ソフィア様は庭にいらしゃったのですか。」
やはり問題はそこですか。ソフィアは冷や汗をかく。ここで皆が納得する説明をしないと、24時間体制で護衛が付く。そんなのは、ごめんだ。だが、上手い言い訳が思い浮かばず「えっと、あの」と、挙動不審になりエレナ達に怪しまれる。
そこには、エレナ達の後方で椅子に腰掛けるクリスが、今までに見たことがないほど、険しい顔をしており、並大抵の言い訳では無理なことも関係していた。
『ソフィアは週に2・3回、僕のところに遊びに来るーー。』
「こら、モコは余計なことを言わない。」
「ソ・フィ・ア。」
慌ててモコの口を抑えたソフィアだが、完全に遅かった。ハンナがソフィアの前に立ち黒い笑顔で見下ろしている。
ソフィアはもう観念するしかなかった。
「じ、実は――。」
ソフィアは早朝に内緒で庭を散歩していたこと。そこで、たまごを見つけたこと。たまごからモコが産まれて、自分の使い魔として契約したこと。モコと契約するまでの出来事の全てを包み隠さず話した。
「事情は分かりました。よく頑張りましたね。」
「ソフィア達がご立派に成長されて、エレナはとても嬉しいですわ。」
「旦那様に内緒で外に出るなんて、本当に成長したな。」
どういう事だ。怒られると思っていたソフィアの目が点になる。ハンナやエレナに続くように、ソフィアを褒める声が使用人のあちこちで上がる。
「ソフィアのことだから、お父様達にばれたら24時間体制で護衛が付く。と、考えていたんでしょう。」
「どうして、分かるの!?」
「クリスの溺愛っぷりを間近で見ていれば、誰でも想像は出来ますよ。」
エレナの声に周囲が一斉に頷く。ソフィアの考えは全員にお見通しだったようだ。
「クリスのことは私に任せなさい。ソフィアに護衛は必要ないわ。だって、今日からモコが貴方を守ってくれるからね。」
『守るよ。』
「ありがとう。」
最初からハンナに相談すれば良かった。ソフィアが安心するようにハンナがソフィアとモコの頭を撫でる。モコはたまごの時と同じで撫でられるのが好きなようで、気持ち良さそうにしている。
「許さんぞ。私は許していないからな。」
「召喚、カメルン。」
『は~い。渦巻き。』
この部屋の中でソフィアが勝手に外に出たのを怒っているのは、やはりクリスだけのようだ。だが、クリスがどんなに怒ろうが、家の中で最強のハンナをソフィアが味方にした時点で、勝負は決まっていた。
クリスは大きな渦に呑み込まれている。見ている此方が目を回しそうだ。
「絶対に許さんぞ。私は絶対にソフィアと使い魔園に行くんだ。」
「えっ。」
クリスの言葉を理解する為にソフィアは頭を働かせる。ソフィアは使い魔と契約する為にクリスと使い魔園に行くことに決めた。だが、モコと契約を結んだことにより、使い魔園に行く必要がなくなった。娘とのお出掛けを楽しみにしていたクリスは、ソフィアとモコの契約を認めないと駄々を捏ねている。クリスの言動に納得したソフィアは頭を抱えた。
「分かりました。私も契約は抜きにしても、他の使い魔は見てみたいと思っていた所です。一緒に使い魔園に行くから、モコを私の使い魔として認めて下さい。」
「それなら良いぞ。モコのことも認めるぞ。」
「だから、お父様は復活早すぎです。」
ソフィアが頭を抱えている間に復活したクリスが笑いながらモコを見る。その様子にハンナを始めとする使用人全員が呆れていた。
「ですが、旦那様がソフィア様が勝手に外に出たのを、何も感じないなんて驚きです。」
エレナの言動は最もである。ソフィアを溺愛するクリスが、その事実を知って何も感じないのか。当然だがそんな事はあり得なかった。
「当たり前だ。ソフィアが庭でーー。」
「それ以上は話してはダメです。」
「そうです。ハンナ様に怒られます。」
クリスが何か発言をしようとした口を、クリスの護衛が塞いで部屋から出ていった。「そういう訳ね。」と、ハンナは分かった様子だが、ソフィアは理解出来ず首を傾げる。
「クリスの事は放って置きましょう。それより、ソフィアは契約おめでとう。」
「ありがとう。」
たまごの母親に、クリスが最後に残した謎の発言。色々な事が起こったけど、無事にモコと契約出来て良かったとソフィアは思うのだった。
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