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「使い魔園?」
「そうだ。王国が経営する園で、初級使い魔達と遊んだり、ご飯をあげたり、その場で使い魔と契約が出来る場所だ。」
「使い魔と契約が出来るの。」
ハンナとの授業が終了して夕食を食べているとソフィアに、仕事から帰宅したばかりのクリスが1枚のチラシを渡してきた。
「この園は子供達に特別に使い魔を1体契約させてくれる場所なんだ。早い内から自分の使い魔を持たせて、使い魔の知識を持たせて将来立派な使い魔と契約して、国の為に役立ててほしいという国王の方針なんだ。」
「そうなんだ。」
そんな場所がある存在を知らなかったソフィアは、目を輝かせて貰ったばかりのチラシを見た。種類は多くないが、使い魔の絵や使い魔が得意とする魔法が記載されていた。
それでも、家族や家で働く使用人の使い魔しか接触したことのないソフィアにとって、どの使い魔も初めて見る使い魔だった。
「明日は仕事が休みだから一緒にソフィアの使い魔を見に行かないか。」
「行きたい。」
紙を見た時からソフィアは使い魔園に行きたくてウズウズしたが、明日連れて行ってくれるようだ。流石は娘に甘いクリスである。使い魔の勉強を始めた次の日にソフィアの未来の使い魔候補に会わせるのは、娘の溺愛っぷりがよく分かる。
「ダメよ。」
「どうしてだ。ソフィアがこんなに喜んでいるんだぞ。」
ハンナからの予期せぬ横槍にクリスが狼狽ながらも即座に反論する。ソフィアはハンナが反対する理由は知らない。だが、ハンナが背筋を凍らせる程の冷たいオーラを放出しており、使い魔園にクリスと明日行くことに問題があるのは分かった。
「使い魔園は月の終わりに使い魔について学びたい子供たちの為に開園される場所よね。ところでクリス、私の記憶が確かなら月の終わりまで1週間あるけど、私の勘違いかしら?」
「そんなの貸し切りにするから平気だ。一般公開の日にソフィアと使い魔園に行くより、貸し切りにした方がソフィアも沢山の使い魔に触れ合えて喜ぶからな。」
「貸し切りにするのは、クリスがソフィアに変な虫が付くのが嫌だからでしょう。」
「当然だろう。ソフィアは天使のように可愛いんだ。貴族の害虫共が群がるのは目に見えている。絶対に一般公開の日には行かせません。」
クリスの愛が重い。ソフィアはクリスが言うほど美少女ではない。胸まである少しウェーブし金色の長髪に、ハンナと同じ青色の瞳。顔は綺麗系ではなく可愛い系という分類に近いが、特別可愛いという程ではない。
瞳の色がハンナと同じではないのなら、本当に美形夫婦の血を引き継いでいるか周囲が疑問を抱いても可笑しくない。そうソフィアは自分の容姿を評価していた。
「ソフィアが可愛いのは分かるけど、貸し切りなんて周囲に迷惑を掛ける行為は私が許しません。ソフィアは私が使い魔園に連れていきます。ソフィアもそれで良いわよね。」
「はい。私もお母様と一緒に行きます。」
「ソフィアァァァァァー。」
この世の終わりとでも言いたげなクリスの絶叫が部屋中に響き渡った。いい加減自分の年を考えてほしい。ソフィアの体に抱き付いて、首を横に振るクリスの背中をソフィアが優しく叩く。
完全に父親と子供の立場が入れ替わっていた。
「私はお父様は嫌いではないわ。でも、お父様が私の為に周囲に迷惑を掛けるのは嫌なの。」
「分かった。明日行くのは諦めるから一緒に使い魔園に行ってくれるか?」
「もちろん。」
涙目になり、寄り添うクリスにソフィアは笑顔で接する。ソフィアはクリスを嫌ってはいない。寧ろ、こんなクリスもソフィアの大好きなのだ。
「仕方がないわね。でもクリスが少しでも変な行動をしたら強制的に帰ってもらうわよ。」
「分かったよ。」
なんだかんだでクリスを愛しているハンナの了承をもらえ、ソフィア達は家族全員で使い魔園に行くことに決まった。ちょっとした家族旅行だと少し胸を踊らせながら、既に冷めてしまった夕食を口にした。
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