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「私ね。自分は悪くないって、自分の悪事を認めない人嫌いなの。貴女は心の中では悪いことをしたと理解している。けれど、自分は命令された被害者だと周囲に同情や助けを求める。そんな人は私が裁いてあげるね。」
この断罪の場に相応しくない白い光り輝く羽が舞い落ちる。その中心にいる少女は羽をひとつ摘まむと片手で握り潰した。
「エンジェル族様だ。」
「ルースがあの光の最上級使い魔!?」
「ソフィアより大物だと。」
エンジェル族の姿になったルースに、人々は膝をつく。最上級使い魔の中でもルースは人気が高かった。どんな病気も一瞬で癒して、幸せの加護を与えるとされるルースは、聖光教という宗教から神の使い魔と呼ばれるほどだった。
『真実の口』
ルースが微笑みながらミルクに魔法を発動させる。ミルクは自分が仕出かした事の重大さを理解した様子だが、少し遅かった。ミルクが逃げる暇がなくルースの魔法に包まれた。
『ねえ、今どんな気分?』
「そんなの最悪に決まっているでしょう。楽して、儲けられる筈がこんな大勢の前で断罪されて…、最悪以外に何があるのよ。」
「…ミルクちゃん?」
「ブスは黙ってて。」
ミルクと一緒にドレスを販売していた少女が心配したように、声を掛ける。しかし、ミルクは人が変わったように少女に向かって怒鳴る。少女はもう泣き出しそうだ。だが、それはミルクにとっても驚きの事態だった。
「同じ班じゃないと貴女みたいなブスと仲良くするわけ無いでしょう。というか、貴女がドレスをしっかり縫わないから、カワイイ私がひとり酷い目にあっているのよ。責任取りなさいよ。」
「そんなに言うならミルクちゃんだって手伝ってよ。私たちが一生懸命作っている中、ミルクちゃんはクラスの男の子と仲良くしていたじゃない。」
ミルクが必死で口を抑えるが、無駄だった。
「私は当日にルリアミーナ家の娘として、お客を惹き付ける役目があったのよ。それに貴女達の容姿では客は誰も来ないわよ。カワイイ私がいるだけで、感謝しなさいよ。」
「偽者の癖に。もう知らない。」
ミルクと一緒の班だった子が全員この場を離れる。ミルクは何が何だか分かっていないようだ。
『それは真実の口だよ。貴女にプレゼントするね。私は人の心が読めるの。本当の貴女がどんな人か大勢に知ってもらえて良かったね。』
ミルクはその場に項垂れた。彼女はもう嘘をつけない。見た目だけが取り柄の彼女は大勢の男を待たしていた。中には全然タイプではない男にも、お金の為に好きだと言ったりもした。
だが、もう今までの生活は送れないだろう。ミルクは壊れた人形のように乾いた笑いー続けた。
「相変わらず、ルースの魔法は凄いね。」
「魔力量だけで見れば、私達の中で最強ですからね。」
「そうなの。」
意外だ。あのドジなルースがクロードに最強と言われていることにソフィアは驚く。
「ルースは僕の何倍も凄い子だよ。だから、僕はルースに商会の会長を任せられたんだ。ソフィアは今のルースを見て何か気が付かない?」
ソフィアはルースに目を向ける。大勢の人に囲まれて、何かを話したり、プレゼントを貰っていた。ん?…話している?
「あっ、使い魔の姿なのに会話が成立している。」
「ルースの魔法だ。彼女が会長に向いている理由は分かったか。ルースは人の心が読める。だから、騙される心配がない。それにエンジェル族にはファンが多い。こちらの利益が大きい取引も相手は受け入れるだろう。そして…。」
スイレンはチラリとルースを見た。そして何か諦めたように吐いた。
「ルースの魔法は最強だよ。今日はこの位ですんだが、ルースを怒らすと僕でも手が出せない。」
『本当にルースは強いね。』
未だに壊れたように笑うミルクを見て、顔が引きつるソフィアだった。
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<オマケ>昔のルース
人1「きゃ~、エンジェル族様~。」
人2「美人だ。可憐だ。」
ル『わっ、転んじゃったよ。』
ク『なぜ歩く。飛べば転ばないでしょう。』
ル『そうか。飛べば良いんだ。』
人3「どじっ子だ。」
昔からドジなルースだった。




