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「絶対に食べ物系の方が、学園祭では売れます。」
「作るの大変だ。そんな暇あるなら、剣を振りたい。」
ソフィア達は現在、学園祭に出す商品について討論していた。だが、商品が中々決まらない。他の班は商品を決定して、先生に良い仕入先がないか尋ねている所もある。はっきり言ってソフィア達の班は、他と比べて圧倒的に進んでいなかった。
「それなら、私と勝負です。私に勝てたらイオくんの言う通り食べ物系は諦めます。」
「受けてたつ。」
「それは止めて。絶対に(イオが)怪我をする。」
最上級使い魔であるルースは、ドジで弱そうな外見だがかなり強いらしかった。らしいと言うのは、ソフィアはルースの戦いを見たことがなかった。だがルース以外の最上級使い魔の戦いはソフィアは1度だけ見たことがある。はっきり言って地獄だった。地面は盛り上がり、炎や水が辺り一面に降り注ぐ。庭の壊滅具合に失神しそうになったほどだ。ルースを戦わせてはいけない。ソフィアの本能が叫んでいた。
「よく分かっているね。イオにルースみたいなか弱い女の子が勝てる筈がないよ。」
「では、私の代わりにソフィアちゃんが勝負をしてください。」
「分かったよ。負けても文句は言わないでね。」
「僕の話を聞いてた。ソフィアもか弱い女の子だろう。勝てるわけないだろう。」
「リオは五月蝿い。勝負に口を出すな。」
ルースの代わりに誰かがイオと勝負する必要がある。理屈は分かる。だが、自分が男の子であるイオに勝てる筈がない。そう考えながらも、ルースのお願いを聞き入れ、ソフィアは試合会場になるグラウンドに向かった。
この時、背後でリオがイオは国内剣術大会、最年少の部の優勝者だと呟いていたが、前を歩いていたソフィアの耳には届いていなかった。
「剣を構えろ。」
「…なんかギャラリーが多くない。こんな人の前で試合なんて無理だよ。もう少し人が減ってからしよう。」
グラウンドに出たソフィアは驚いた。人が大勢集まっていたのだ。ソフィアは身を縮ませて、勝負の延期を訴える。
「それは無理だね。よく周囲の声を聞いてみなよ。」
「えっ。」
「イオ様ぁ、頑張って。」
「イオ様ステキです。」
「ここに集まっている子達は殆んどがイオのファンだもん。簡単には居なくならないよ。」
自分に注目が無くても、無理なものは無理。ソフィアは中々剣を取り出せずに居た。
「仕方がありません。こうなったら奥の手を使いましょう。モコちゃんお願いします。」
『任せて。ソフィア受け取って。』
「あれは何だ。」
モコが調合でルースのハンカチから仮面を作り、ソフィアに向かって投げた。ソフィアは仮面を受け取ると急いで装着する。
「さあ勝負の始まりよ。召喚、青龍剣。」
「ソフィアちゃん、格好良い。」
『頑張れ。』
「空間魔法。普通は使い魔と、使い魔使いの魔力の合成をしないと、使用が出来ない高度な魔法を簡単にするなんて、ソフィアって何者なの。」
「魔剣、青龍剣。最上級使い魔が認めた者にしか扱えない伝説の剣の1つ。」
ソフィアが剣を構える。ソフィアは顔を隠せば人前でも堂々とする事が出来た。それ故に仮面はソフィアには必需品になっていた。
そして、ソフィアは仮面を被ると少しだけハンナに近付く。空間魔法に魔剣。チートを連発する姿は正に女王様。誰もソフィアには逆らえないのだ。
「面白い。伝説の剣の力を俺に見せろ。」
イオが地面を蹴りあげ、ソフィアに突撃をする。風のように素早い動きで間合いを詰めて、剣を振りかざす。だが、誰もが攻撃が当たると思われた一撃はイオの空振りに終わった。
「イオの攻撃を交わした。」
「遅いよ。その程度の早さなら、私に攻撃は当たらない。」
『クリスの突撃に慣れてるからね。』
「日々の鍛練の成果だね。」
クリスの抱擁という名の突撃に慣れたソフィアにとって、イオの攻撃は遅すぎた。イオが風なら、クリスは疾風。レベルが違うのだ。
「水流切り。」
ソフィアはイオが体勢を立て直す前に、背後に回り込むと彼の背中に一撃を喰らわす。手加減はしたが、水の力が加えられた剣の威力に身体が耐えきれず、イオはその場に倒れた。
「約束は守ってもらうからね。」
その日初めて味わった同年代の少女からの完全敗北というプレゼントに、イオは静かに頷いた。
「ソフィアちゃんのお茶は私が淹れます。」
「ルースはお茶を溢す。俺がする。」
「楽しそうだな。間をとって僕が淹れようか?」
「「それはダメ。」」
あれ以来イオはソフィアに従えようとする。最初に比べれば、話しやすく仲良くなれたのは素直に嬉しい。だが、喧嘩は止めてほしいと切実に思うソフィアだった。
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<オマケ>勝負の後
イ「水流切り。カッコイイ。」
リ「また、イオの悪い癖だ。分かっていると思うけど、ソフィアは女の子だよ。何度も勝負を挑んで嫌われるなよ。」
イ「そ、そんなマネはしない。た、ただ、俺は水流切りをマスターしたいだけだ。」
リ(僕が止めなかったら、毎日ソフィアに勝負を挑んでいたな。)
「そうなのか。でも、それには先に最上級使い魔に認められて剣を入手しないと、不可能だぞ。ソフィアとの次の勝負は、魔剣を使えるようになってからだな。」
イ「そんな先まで待てるか。」
リ(イオの頭には剣と力しかないのか。)
「でも、先程の勝負でも力の差は歴然だよ。それに相手は女の子。そんなんだと嫌われるよ。」
イ「…。」
リ「もしかして、ソフィアに惚れた?」
イ「まだ違う。まだ惚れてない。ただ興味があるだけだ。」
リ「分かったよ。信じるよ。」
今後ほぼ100%ソフィアに惚れることを確信したリオだった。
※イオはソフィアの見た目と言うよりは、ソフィアの強さに惚れた感じです。




