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「商会を作る?」
「実は使い魔園に行った後、屋敷にドレスを売って欲しい。という手紙が多くて困っているのよ。」
「朝から夕方まで商人や従者が屋敷の前に列を作っていて、本当に迷惑ですわ。」
ソフィアはカーテンを開けて窓の外を見る。そこにはアリアリ族の集団のように行列を作る人間達がいる。大勢の人間がドレスを売ってくれ。ドレスを見せてくれ。と、声を合わせて大合唱する様子は一種のホラーである。
「そうなのよ。もう五月蝿くて仕方が無いわ。だから、いっそ商会を作ることに決めたのよ。」
「本当ならあのドレスは、ソフィア様以外は来てほしくない。ですが、これ以上放置をするとソフィア様を誘拐しようとする輩が現れるかも知れない。」
「いや、そこはドレスだけ盗めば良くない。」
「何を言っているんですか。ドレスを着たソフィア様を見て、側に居たい。仲良くなりたい。と、思わない人が居るはずがありません!?」
エレナが舞台女優のように、動作を付け、声に抑揚を付けて力説する。その様子にソフィアは心の中で、エレナはクリスなの。これ以上の溺愛する人はいらないから勘弁して。と、絶叫する。
だがエレナの発言は強ち間違いではない。美形夫婦で有名なルリアミーナ伯爵家の娘。それだけで、ソフィアと息子を仲良くさせて、ルリアミーナ伯爵家の次期当主にさせようとする者がこれまでに何人か居た。当然そんな話はソフィアの耳に入る前に、クリスにより潰されたが未だに諦めていない者いる。
それに加えて、ドレスを譲って貰おうとソフィアに近付く者が現れると考えると、ソフィアの周囲に人が大勢集まるのは容易に想像が出来た。
「エレナは過保護なんだから。」
「そうです。ソフィアちゃんは大丈夫です。だから、商会なんていりません。」
鈴の音を転がすような可愛らしい声と供に、モコの手作り侍女服を着た少女が音もなく現れる。何処から現れたのか。そう聞こうとしたソフィアの声は、少女を目に写した瞬間に飲み込まれた。
「ルース!?その格好どうしたの。」
「またドジを踏んで、バケツを頭から被ったの。そんな事より、エレナちゃんを説得してよ。商会なんて作らなくて良いよね。」
「そんな汚ない格好で、ソフィア様に抱き付くなんて羨ま…、ではなく離れなさい。」
汚れた格好で抱き付くルースをエレナが物凄い形相で威嚇する。伸長差があり、ルースの胸にソフィアの顔が埋まっている姿を見るのが耐えられないのだ。
しかし、ソフィアの方はというと、汚れていて本来なら不快な筈なのに、ルースの場合は不快な感じはなくて逆に癒されるから不思議だな。と、ルースの行動を普通に受け入れていた。
「分かりました。」
「そうです。早く、ソフィア様から離れなさい。」
「はい。綺麗になってからにします。」
「えっ。」
次の瞬間、目の前には小さな羽と黄色いわっかを頭に乗せた、ソフィアの頭より少し大きい位の大きさのエンジェル族の使い魔が現れた。
『浄化。ソフィアちゃ~ん。』
「よしよし、どうしたの?」
「違う。違う。ちがーう。ソフィア様から離れなさい。」
ルースはソフィアと契約した使い魔である。屋敷に侍女として働くルースは、エレナと仲が悪かった。理由は簡単だ。ソフィアがルースを構うからだ。ルースが掃除中に頭にバケツを被っても、バナナの皮を踏んで転んでお皿を割るお約束とも言えるドジをする事は関係ないのだ。
ソフィア様の専属侍女である自分より仲が良い侍女がいる。それがエレナには我慢が出来なかったのだ。
「エレナは少し落ち着きなさい。それで、ルースはどうして商会を作るのが反対なの。」
「無理だからです。」
「何が無理なの?」
ハンナ達に言葉が伝わるように、人間の姿に変身して小さな声で無理だと話すルースに、ソフィアが尋ねる。ソフィアの質問にルースは黙る。その様子を心配して見ていると、今まで静かだったモコの口から爆弾が投下された。
『ルースが商会の会長をすることだよ。』
「えええええぇー。」
外に居る大勢の人間の声に負けない大声が部屋中に響き渡った。
閲覧ありがとうございます。
<オマケ>ババ抜き
ク「ルースはババを持っていますか。」
ル「も、持ってないよ。(汗)」
全(持っているな。)
ル「そういうクロードが持っているんじゃない。」
ク「何を言っているんですか。私がババなんて悪人面のガードを持つわけ無いでしょう。良いですか。悪人はババを惹き付ける。ですから、私がババを持つ可能性はゼロです。」
全(1番悪人が似合うクロードが言うと全然説得力がない‼)
その後ババ抜きが開始して、ルースの手元からババが離れることなく勝負は終わった。




