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「お待たせしました。」
「貴女は誰なの?」
「自己紹介が遅れました。私は魔法少女、ルナ仮面。友達にローズ様と使い魔バトルをして欲しいと頼まれて、ここに来ました。」
「…。」
「その沈黙は何ですか。」
ルナ仮面。これはクロードが付けた名前だ。ソフィアは余り深く考えなかったが、周囲からするとかなり斬新な名前だった。
しかもソフィアは仮面にモコの手作りドレスを着ていた。貴族の少女は絶対に着ない、ミニスカート(リボン&フリル付き)のドレス。これが注目を集めない筈がなかった。変だが、自分の知らないドレスを着る不思議な少女。それがソフィアに対しての周囲の印象だった。
しかし、貴族の令嬢が絶対にしない足を出したドレスを着たソフィアを、先程の少女と同一人物だと思う者はいない。皆が変装したソフィアを、先程の少女の屋敷で働く侍女見習いか何かだと、勝手に勘違いをしていた。正体がばれていないという意味ではソフィアの変装は成功していた。
「見たところその友達がいないようですが、可哀想に友達に売られたのね。」
変装して来たソフィアをローズが笑う。変な子が来たのはソフィアが試合を放棄したからだと解釈したのだ。
「さあ、勝負を始めましょう。ローズ様のパートナはその子かしら。」
「そうよ。上級使い魔なの。驚いたでしょう。」
自慢するように胸を張るローズを、ソフィアは愉快そうに見る。ソフィアは自分の隣に居る同じく変装したクロードを見る。
「では私のパートナを紹介します。頼んだわよ、クロード。」
「…ルナ仮面だっけ。貴女は何を考えているの。使い魔バトルよ。人間が使い魔バトルをするなんて話にならないわ。」
ローズが声を荒らげる。だが、そんな事はソフィアも百も承知である。寧ろ、変装をしたり偽名を使ってまでローズに使い魔バトルを申し込んだ理由は、クロードとリーフを戦わせる為であった。
「獣の力を目覚めさせなさい。そして、ローズに正義の裁きを下すのよ。」
「な、何なの!?」
ローズが腰を抜かしてその場に倒れ込む。ローズの気持ちもソフィアには分かる。ソフィアもクロードに最初に会った時は驚きで声が出なかった。
「ダークウルフ。私が契約した闇の最上級使い魔よ。」
「ウソでしょう。有り得ない、こんなの有り得ないわ。」
最上級使い魔。それぞれの属性のトップに立つ使い魔だけが慣れる選ばれた使い魔のことだ。だが、彼等は人間と滅多に契約を結ぶことはない。実際にこれまでの歴史の中でも、一人しか最上級使い魔と契約した人間はいない。その為に、最上級使い魔は伝説の使い魔と呼ばれる程、人間の間では崇められていた。そして、最上級使い魔には普通の使い魔にはない特別な力、人間化があった。
人間から使い魔になるのは最上級使い魔である証。なので、ローズが怯えるのは仕方がないことなのだ。ローズは自分が伝説の使い魔にケンカを売ったことを漸く理解したのだ。
「クロード、お願いね。」
『分かっている。』
「リーフ、早く私を助けなさい。貴女の主人がどうなっても良いの。」
ローズの言葉にリーフが慌てて、ローズを庇うように前に立つ。だけど、クロードを止める事は出来ない。
『拘束解除。これで、お前は自由に動ける。』
『身体が動く。どうして、呪いにより私は命令に逆らえないはずなのに。』
『私は最上級使い魔だ。自分より弱い使い魔の呪い位簡単に解除できる。』
「どうしたの。リーフ、命令よ。早くその狼を倒しなさい。」
リーフ達の言葉が分からないローズは、急に戦う気力を無くしたリーフを叱咤する。だが、リーフは従わない。涙を流してその場にしゃがみこんだ。
「リーフの主人を解放しなさい。偽者の上級使い魔使いさん。」
「違うわ。私は選ばれた人間なのよ。リーフ言うことを聞きなさい。リーフ。」
「いくら叫んでも無駄よ。彼女に掛けられた呪いは私が解除した。」
「…そんな。」
ローズの顔が青くなった。ローズはもうリーフが自分の使い魔では無くなった事を理解した。ソフィアはリーフの話を聞いた時から、彼女に呪いが掛けられていると睨んでいた。そうでなければ、リーフ程の力の持ち主が黙ってローズに従うはずがないからだ。
主人を人質にされたなら、リーフもローズを人質に捕ればいい。上級使い魔のリーフなら簡単に出来る事を彼女はしなかった。それがリーフが呪われていると気付いた所以だった。実際、リーフにはローズの命令に絶対服従する呪いが掛けられていた。リーフはローズの使い魔ではなく、ただの召し使い。ソフィアは黒い笑みを浮かべて、ローズの耳に囁いた。
「ローズの負けよ。リーフの主人を解放しなさい。でなければ、次は本気でローズを倒す。」
ローズはリーフの主人を解放すると約束した。ローズが偽者の上級使い魔使いだという事実は、瞬く間に周囲に広がり、リーフル公爵家はリーフル伯爵家へと名前を変えた。
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<オマケ>バトルを見守る使い魔達
使1「クロード様だよ。僕初めて見た。」
使2「本物なの。」
使3「そうよ。だって、あの顔、あの佇まい。間違えないわ。」
使2「あれが欲にまみれた人間が嫌いで、わざと近付いては、正体を明かして相手を恐怖に落とすのが大好きなクロード様か。」
使3「そうよ。笑顔の1つで全てを解決する腹黒のクロード様よ。」
使1「…ねえ、所で腹黒って何?」
使3「知らない。人間が話していたのを言っただけよ。」
使2「きっと、凄い強い闇の使い魔の事だよ。」
使1・3「そうか。」
彼等の会話は人間には届かない。よって訂正する人間はいない。この後、使い魔の間で腹黒という言葉が流行ったが誰も腹黒の意味を知ることはなかった。




