15
「貴様は誰だ。貴族の会話を邪魔するなんて、無礼だぞ。」
「会話?失礼、私には貴方が一方的に話しているようにしか見えませんでしたよ。私の勘違いでしたか。」
「そんな事無いわ。私も困っていた所だったの。」
無礼だと怒る貴族の男に動じることなく、クロードは会話を続ける。言葉の中には嫌味が含まれていてクロードはかなり怒っているようだ。
「いい加減にしないか。丹那様は俺の料理を食べれる価値を知らないあの女に、その価値を教えようとしているだけだ。」
「そうです。本当の価値を知らないとは可哀想な人達です。見る目がないとは悲しいですね。」
どちらが無礼だ。自分勝手な言い分はハンナを本気で怒らせた。ハンナはクロードに目線であれをやれと合図する。クロードはあれの意味を即座に理解する。
「それでは、貴方の料理にはこのクッキーより高い価値があるんですね。」
バスケットの中からクッキーを取り出すと、クロードは太った男の口にクッキーをねじ込む。男は最初はクッキーを無理矢理入れたことに反抗しようと顔を赤くしていたが、時間が経つにつれて顔が青くなっていく。その表情の変化は知らない者から見れば毒が入っていたのかと疑ってしまうほどだ。
「本当に楽しみだわ。私は今まで屋敷の料理より美味しいものを食べたことがないのよ。ソフィアも楽しみよね。」
「う、うん。」
肯定しろ。ハンナの視線に慌ててソフィアも返事をする。貴族の男は上機嫌になる。これでドレスの入手ルートが分かるという考えが丸分かりである。
この貴族の男は今までにも太った男の料理を食べさせる事を条件に、自分に有利な契約をもぎ取っていた。料理さえ食べさせれば此方のものだと考えていたのだ。
「考え直して頂けて良かったです。楽しみにしていて下さい。今まで味わったどの料理より美味しい料理を作らせよう。」
太った男の顔が青を通り越して真っ青になるが貴族の男は気が付かない。貴族の男の頭の長は既にドレスを売り捌くことしか考えていなかった。
「ひとつ忠告をしますが、万が一にでも私たちが満足しない料理を提供したら、その時はきちんと覚悟をして下さいね。」
「うわわわわわゎ。」
ハンナの最後の言葉が全ての決まりだった。あのクッキーには絶対に敵わないことを理解した太った男は、貴族達の間を走り抜ける。だが、足が遅いようで中々姿が小さくならない。
「おい何処へ行くんだ。早く戻って来ないか。折角の儲け話なんだぞ。」
太った男無しでは料理が作れない。貴族の男が太った男を慌てて追い掛ける。だが、貴族の男は太ってはいないが体力がないようで、すでに息を荒くして太った男の後を追う。2人を見ていると歩いた方が速いと思えるほど、彼等の体力はなかった。
『あの男はよく見ると髪の毛は薄くて、肌も脂っぽかった。多分太らない体質なんだね。痩せようという頭がないから、野菜を摂取しない。だから、体力がないんだよ。』
太った男の料理本はソフィアもモコと一緒に読んだことがある。モコ曰く、栄養バランスの偏りがありすぎるとの事だった。嫌いな食べ物でも食べないと身体は丈夫にならない。同じ物ばかりを食べてはいけない。
モコが作ったクッキーの影響でクッキー作りに嵌まったジェームズが、3食クッキーだけの生活をしている事実をモコが知った時に教えてくれたことだ。
「邪魔者も消えたので、あちらでランチにしましょう。」
「そうね。私もあの人達のせいでお腹が空いたわ。」
自由スペースという銀貨1枚払うと部屋を貸し切りに出来る場所に移動して、ソフィア達はランチを食べる。貴族の視線もなくランチの時間は平和に進んだ。
後日、ひとりの貴族と有名な少し太った料理人の男が騎士に捕らえられた。彼等は美味しい料理を餌に人の懐に入り込み、人の弱味を握り莫大なお金を手に入れていた。それが明るみに出たのだ。
「私はまだ貴女に料理を提供していない。だから、今まで通りの生活をさせてくれ。」
騎士に捕まる前、料理人がそう叫んでいるのをたまたま近くを通った人が聞いたそうだが、その噂は本当か嘘か。騎士の調査でも判明しませんでした。
閲覧ありがとうございます。
<オマケ>その頃のクリス
ク「早くここから出せ。」
エ「ダメです。」
ク「私はソフィアと食事をするという大切な約束があるんだ。約束は必ず守るものだろう。」
エ「そんな事を言っても、ダメです。それとハンナ様から伝言です。「罰として、今日はソフィアと食事はなし。(ハート)」だそうです。」
ク「イヤァァァァー。」
クリスの絶叫が響き渡った。
※オマケのネタを募集しています。少し遅いハロウィーンパーティー、このキャラとこのキャラの話しが見たい。何でもOKです。意見のある方は、感想にアイデアを送って下さい。




