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『僕と遊ぼう。』
『お姉様は私と遊ぶの。』
『ねぇ、コイツらは無視してボクと遊んで。』
「お母様ぁ、助けて。」
「ソフィアは使い魔にモテモテね。」
『凄い人気者だね。』
使い魔触れ合いコーナーにやって来たソフィアは、使い魔達に囲まれていた。他にも人は居るのに、ソフィアにだけ使い魔が群がる光景は異常である。
しかも、使い魔達の周囲を貴族達が取り囲んでいる。その中には純粋に使い魔と触れ合いたいので、使い魔が大勢いるソフィアの近くに来た者もいるが、大半の者はソフィア達のドレスの入手ルートを知ろうとする者達だった。
使い魔から離れると今度は貴族達に囲まれる。ソフィアは完全にその場を動けなくなっていた。
「こんなに使い魔達に懐かれるなんて、ソフィアは使い魔に愛される体質なのね。」
使い魔と話せる事と関係しているのかしら。ハンナの言葉の裏に隠された意味を理解しながら、ソフィアは1番近くに居たイヌイヌ族の使い魔を撫でる。殆ど身動きの取れないソフィアは遊ぶのが難しいので、頭を撫でるだけで我慢して貰おうと考えたのだ。
『僕も撫でて。』
『私も。』
「順番に撫でるから少し待っていて。」
自分も撫でろと、頭をソフィアの方に向ける使い魔達に微笑みながら、順番に使い魔を撫でる。使い魔はそれに満足したようで、少しずつソフィアの元から離れて別の人の元に向かった。
「あの宜しければ、ご一緒にランチでもしませんか。」
だが使い魔が離れて身動きが取れるようになると、当然だが問題が起こる。ソフィア達を囲んでいた貴族の男性が話し掛けてきた。他の貴族はタイミングを逃したと、話し掛けてきた貴族を睨んでいる。
当のソフィアは貴族の男に話し掛けられた事により、忘れかけていた周囲の視線が自分に突き刺さるのを感じて、咄嗟に自分より目立つハンナの後ろに隠れる。
「ランチは家族だけで食べるので結構ですわ。」
「そうだ。ソフィアと一緒に食事をする男は私だけでいいんだ。」
「クリスは少し黙っていましょうね。」
穏便に断るハンナと違い、自分の願望が混ざった発言をするクリスにソフィアは呆れる。ハンナはクリスを静かにしようと、クリスの腕を掴まえて拘束する。
「ソフィアは誰にも渡さん。」
「良い子だから、動かないでね。エレナ早くロープで縛って。」
「了解です。」
「終わったら、馬車に閉まって置いてね。」
何処から登場した。何処から出した。エレナがハンナの指示に従いクリスをロープで縛る。そして、エレナの指示でクリスの護衛がクリスを荷物のように運んでいく。当主の威厳がクリスにはないようだ。
「お騒がせしました。」
「いえ、問題ありません。それより食事の件をもう一度考え直して頂けないでしょうか。自慢ではありませんが、私の家の料理長は『初めての料理』という本をはじめ、数々の料理本を出版する程の腕前なんですよ。」
若干声が上擦っているが、あの光景を見ただけで、ドレスの入手を諦める男ではなかった。自分とのランチがどれだけ素晴らしいかを、周囲に聞こえるように大声で話す。
「凄いわ。私の屋敷の料理長も彼の本を絶賛していたわ。」
「俺も聞いた事があるぞ。確か、王族にも料理を振る舞う程の実力なんだよな。」
「私も食べてみたいわ。」
貴族の男の言葉を合図に、ひとりの少し太った男性が現れて、ソフィアとハンナの前でお辞儀をする。男の顔は何処か自信満々で、余程料理の腕に自信があるのだろう。周囲の様子からもその事は伺えた。だが、彼にはソフィア達が満足する料理は作れないだろう。
『初めての料理』の本はソフィアが初めてクッキーを作る際に、全く参考にならなかった本の題名であった。彼の料理を美味しいという人が大勢いるのは事実だろう。実際に少し前の間までジェームズは彼の本のファンだった。だが、モコが来て本当に美味しい料理の味を知ったジェームズは彼の本を全て処分した。太った男の料理では、ソフィア達を満足するランチを作るのは無理なのである。
「お断りします。私達のランチは既に我が屋敷の料理長が作ってくれてあります。なのでランチは別の方を誘ってください。」
「失礼ですが、俺の料理は絶品です。食べないなんて、後悔をします。」
「そうですよ。こんな機会は滅多にないです。絶対に後悔しますよ。」
「そこまでにしろ。主人の迷惑だ。」
「クロード。」
『クロード。』
何度もハンナが断っても聞き入れない貴族の男と太った男を、どう切り抜けようかとハンナの後ろでソフィアが懸命に考えていると、背後から心地よいテノールの声が響き渡る。
「ここは任せて下さい。」
彼の名はクロード。先日雇ったソフィアの従者である。
閲覧ありがとうございます。
<オマケ>周囲の名前のない人々
人1「あの子がルリアミーナ家の娘か。噂通りの美少女だな。」
人2「本当に可愛らしい子だ。顔も広そうだし、息子の嫁に欲しいな。」
(商人からドレスを安く入手出来るかも知れない。)
人3「此処でその話をするのは止めろ。クリス様が本気で怒るぞ。」
人2「あはは、あんなの噂だろう。彼の娘に手を出した者は……ぎゃーっ。」
何が起こったかは想像にお任せします。ただ彼はクの言葉を聞くだけで、怯えるという噂が人々の間で流れ始めました。




