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ソフィアの初めての調理が始まった。幸いな事に厨房には料理本があった。その中の『初めてのお料理』という題名の本に、クッキーのレシピを見付けると、ソフィアは本に書かれた通りにクッキーを作ろうとした。
「最初はバターに砂糖を沢山入れる。」
『砂糖を沢山入れたらダメ。』
料理本の通りに作ろうとしたソフィアは、慌てて砂糖の袋を抑える。モコは砂糖が多いのが食べれないのだ。それなのに砂糖を大量に入れては意味がない。砂糖がまだボールに入っていないのを確認して、ソフィアは安心する。
『砂糖はこれだけで良いの。』
モコがスプーンを使い砂糖をボールに移す。その砂糖の少なさにソフィアは驚く。ソフィアが最初に入れようとした砂糖の量の10分の1もない。料理をした事のないソフィアが言える立場ではないが、少なすぎるのではと不安を覚える。
『はい。』
「これは何?」
『すり鉢だよ。これで砂糖を細かくしてほしいの。僕はその間にバターの準備をするね。』
モコはすり鉢をソフィアに渡すと、バターの閉まってある冷蔵庫に向かった。一方のソフィアは、理由は分からないがモコの食事を作るのだ。モコのやりたいように作ろうと、すり鉢で砂糖を潰した。
「砂糖が細かくなったよ。」
『ありがとう。この中に入れて。』
「うん。」
ボールの中に砂糖を入れる。モコは口で泡立て器を持ち、器用に扱き混ぜる。こんなに混ぜる必要はあるのかと、不思議に思いながらソフィアはモコのお手伝いを続けた。
モコのクッキー作りは驚きの連続だった。モコは料理本に書かれていない事ばかりをソフィアにお願いしてきた。
『卵を混ぜておいて。』
「後で一緒にボールに入れるから混ぜる必要はなくない?」
『お願い。』
『次は牛乳を入れるの。』
「牛乳?かさ増しするなら水を使うんだよ。」
『お願い。』
この調子でクッキー作りは進んでいった。ソフィアの意見は、モコのお願いにより簡単に却下された。その内にモコの好きなようにしようと、ソフィアは何も言わずにモコを手伝った。
『もう少ししたら、冷蔵庫から生地を出してね。』
「うん。モコは次は何をするの。」
『オーブンを温めるの。』
オーブンを温める。相変わらずモコの行動の意味は分からないと思いながらも、ソフィアは冷蔵庫からクッキーの生地を取り出した。
「あれ?」
『どうしたの。』
「前に厨房に遊びに来た時に、ジェームズがクッキーを焼いてくれた事があるんだけど、こんな風に平べったくてキレイではなかったから不思議に思ったの。」
ソフィアはきおくを手繰る。思い出すのは少しひび割れていたり、色が所々変色していたクッキーの生地だ。目の前にある物よりキレイではなかったのは確実だ。
『それはきちんと混ぜてないからだよ。』
「なるほどね。モコが色々としていたのは見た目に差が出るからなんだ。」
ソフィアは納得したように頷く。モコに料理本に書かれてない事を頼まれた際は驚いたが、キレイに作れた事に満足する。
『見た目だけではないよ。』
「えっ。」
『楽しみにしてね。』
モコがオーブンのスイッチを入れる。話している間に、後は焼くだけになったようだ。ソフィアは完成を楽しみにしながら、近くにあった椅子に腰掛けた。
「戻ったぞ。何だか良い香りがするな。」
「モコに教わってクッキーを作っているんだ。」
「はあ!?嬢ちゃんが作ったのか。クリスに何て報告すればいいんだよ。」
チーン。ジェームズが叫ぶのとほぼ同時にクッキーが焼けた。
『出来た。』
「待て。取り出すのは俺がやる。万が一、火傷でもして怒られるのは勘弁してくれ。」
オーブンを開けようとしたソフィアを停止して、ジェームズがオーブンを開ける。そして、完成したクッキーを見てジェームズは呆然とする。
「凄い。ハートの形のクッキーだ。星の形もある。こんなの見たことないよ。」
横から覗いたソフィアが感嘆する。ジェームズがいつも作る丸い形のクッキーとは違い、様々な形があり、見ているだけで楽しい気分になった。
『凄いでしょう。型付きしたんだ。』
「これどうしたの。」
『調合で作ったの。』
モコが種明かしをするように、ハートや星の模様の型を見せる。これなら歪な形がなく、全てがキレイに作られているのも納得だ。ソフィアは型を色々な角度で視ながら感心する。
『ねえお腹がすいた。早く食べたい。』
「はい。どうぞ。」
ソフィアは放心状態のジェームズから、クッキーを奪うと皿に載せてモコに渡す。モコはかなりお腹が空いていたようで、夢中で食べている。
『ソフィアも食べて。それにジェームズも良かったら食べて。』
「そうだね。ジェームズも一緒に食べよう。」
「ああ。」
ソフィアは嬉しそうに、ジェームズは恐る恐るクッキーを口に入れる。
「美味しい。」
今までに食べたことのない味だ。砂糖が少ない筈なのに甘くて、舌触りも良い。ソフィアはもう1つもう1つというように、クッキーを食べ進めた。
ガタン。突然ジェームズがテーブルを叩いた。彼の目からは少しだが涙が溢れている。
「これだ。俺が求めていたのはこれだ。この見た目といい、味といい全てが俺の理想だ。頼む師匠、俺を弟子にして下さい。」
『良いよ。』
こうしてモコには弟子が出来た。まだ1日も過ぎていないのに、服の装飾や料理でソフィア達が見たことのない事を簡単にするモコは既にこの屋敷で必要不可欠な存在になっていた。
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<オマケ>クリスとジェームズ2
ク「ソフィアが使い魔と話せるだと!?」
ジェ(流石のクリスも直ぐには信じないか。)
ク「流石は私の天使だ。早速、ハンナにも教えよう。」
ジェ「簡単に信じた‼疑わないのか。使い魔と話せるんだぞ。ハンナ様にも不可能なんだぞ。」
ク「私の天使はどんな不可能も可能にするのだ。」
ジェ(親バカだ。)
意外と苦労人のジェームズだった。




