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「今度は黄緑と緑の自然をイメージしたドレスはどうでしょう。」
「それよりも水色と青のドレスの方が、ソフィア様には似合うわ。」
「確かにソフィア様の瞳の色と同じ青色のドレスは、ソフィア様に似合いそうね。」
「もう終わりにしてよ。」
ソフィアは何度目かも分からない溜め息を吐いた。ソフィアが溜め息を吐く程げんなりしているのは、他でもないモコが原因だった。
ソフィアが何も知らずに呑気に朝食を食べている間に、モコの魔法が周りに伝達をされた。そして、「滅多にオシャレをしない、ソフィア様を着飾る絶好の機会よ。ソフィア様を国1番の美少女にするわよ。」と、変な執念に燃えている侍女達により、ソフィアは着せ替え人形になっていた。
「モコ様、次はこのドレスをアレンジして下さい。」
『良いよ。』
「きゃー、このドレスも凄いステキね。ソフィア様早く来てみて下さい。」
朝食を終えて3時間。ソフィアの元気が無くなるのに比例するように、侍女達のテンションは上がっていた。
「凄い似合っているわ。」
「うん、カワイイ。私の目に狂いは無かったわ。」
「そんなに見詰めないでよ。」
ソフィアはカワイイや似合っているという言葉を連呼されて、顔が赤くなっていた。それが恥ずかしくて見詰めないでと侍女達に言うが、その様子もカワイイと侍女達に言われて、ソフィアの顔は更に赤くなる。
『ぐぅぅ。ねぇ、モコお腹空いた。』
「それなら直ぐにご飯にしましょう。」
しかし、ソフィアの限界と侍女達のテンションがMAXを迎える前に、モコのお腹が鳴る。それを着せ替えの終了の合図と捉えたソフィアは侍女達の不満の声を無視して、モコを抱き抱えて厨房に向かった。
「モコのご飯を貰いに来ました。」
「待ってたぜ。見てみろ。これだけ種類が豊富なら、嬢ちゃんの使い魔の気に入る食事もあるだろう。」
「これだけの料理を作れるなんて、流石はジェームズだね。」
朝食の際はモコがお腹が空いていない事もあり、ソフィアは未だにモコが何を食べるのか知らなかった。そこで料理長のジェームズに頼み、色々な種類の料理を作って貰ったのだ。
テーブルに並べられた料理はどれも美味しそうで、モコの気に入る物もあるだろう。
「好きな物を食べて良いんだよ。」
『…いらない。』
モコはいくつか料理に顔を近付けはしたが、気に入る物がなく食べる事はなかった。これは困った事態になった。食事は生きていく故でも必要な行為である。食事を1回抜く位なら余り問題はないが、何度も続けばいずれモコが餓死してしまう。
とは言え、無理に食べさせるのもいけなかった。使い魔によっては野菜だけしか食べれない者もいる。それは彼等に肉を与えると身体に異常をもたらす。ソフィアには早急にモコに安心して食べさせられる食事を用意する必要があった。
「何か食べたい物はないの。」
『砂糖が控え目の甘いクッキーが食べたいな。』
「このクッキーではダメなの?」
ソフィアはテーブルの上に置かれたクッキーを指差す。だが、モコはそれを食べようとしない。どうやらモコは砂糖が多い食べ物を摂取したくないようだ。だが砂糖が控え目の甘いクッキーとは、どんなものだろう。
「質問なんだけど、ジェームズは砂糖が控え目の甘いクッキーって作れる?」
「そんなの無理に決まっているだろう。砂糖を使わずに、どう甘くしろと言うんだ。」
「だよね。でもモコが食べたいと言ったから、叶えてあげたいんだよね。」
モコの願いは叶えたい。だが、ジェームズに無理な事をソフィアが出来る訳はない。完全にお手上げ状態だ。だが無理な物は仕方がない。ジェームズに甘くなくてもいいので、砂糖を控え目にしたクッキーを作って貰おうと、ジェームズの方を向いたソフィアは自分の目を疑った。
「…ジェームズ、どうしたの?」
「ガハハ、な、何でもないぞ。」
ジェームズの様子が明らかに可笑しい。豪快に笑って誤魔化しているのがバレバレだ。ジェームズはソフィアが声を掛ける前、自分の目を擦ったり、何度も有り得ないと連呼していた。これで何もない筈がない。
「正直に答えなさい。」
「…分かったよ。」
ジェームズはソフィアが詰め寄ると、少し困った表情をして悩んでいたが、やがて諦めたように頭を掻いた。
「驚いたんだよ。」
「えっ。」
「だから契約したばかりのモコと、嬢ちゃんが会話しているのに驚いたんだ。ハンナ様でさえ使い魔との会話は出来ないと聞いたぜ。それを嬢ちゃんがしているんだ。驚くな。という方が無理なーー」
「ストープ。もしかして、普通の人は使い魔と会話出来ないの。」
「えっ。」
ソフィアの言葉に今度はジェームズが驚く。ソフィアはこの日初めて、使い魔との会話は普通は無理だという事実を知った。
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オマケ<侍女達の会話>
「ソフィア達凄い可愛くなったわね。」
「本当ね。クリス様が言う通り時々ソフィア様が天使に見えるわ。」
「天使ね。今度モコ様にお願いして天使の衣装を作らない。」
「凄い素敵なアイデアだわ。それなら、スイナールとお揃いで人魚族の衣装を作りたいわ。」
「良いわね。早速衣装部屋に行ってドレスの生地を選びに行きましょう。」
「「「賛成。」」」
ソフィアの知らない所で、侍女達の暴走が始まっていた。




