森の仲間 きつつき少年のもやもや
自由であることは時として不安を伴う。
少しだけ先のお話。きつつき少年ときつね坊がもう少し大人になった頃のお話。
何かに不自由してる訳じゃない。食べる物も、眠る場所も、過ごす場所もある。まあ、たまに動物関係に疲れちゃったりするけど。生きていけるだけの要素は充分揃ってる筈なんだ。
なのに。それなのに。
「生きるってなんでこんなに難しいんだろ」
ぽつり、心の中で呟く。きつつき少年の思いとは裏腹に、それは言の葉に乗ってきつね坊の耳に届いた。
「えい!」
呟きを聞いた坊は、木の枝に留まっている少年に向かって手に持っていた松ぼっくりを投げた。からからに乾いてる筈の重さを伴わないそれは、不思議と少年のまるっこい後頭部にクリーンヒット。
「あいたっ!……坊、何するのさぁ!痛いじゃないか」
「えへへ、ないすしょっと!」
怒る少年のことを意に介さずに、満面の笑みを浮かべる坊。よじよじと木を登り、少し軋む木の枝も気にせずに少年の横に座る。
「ふふふ、きれーーい」
目線を高くした坊は言葉尻に音符をつけて、至極嬉しそうに笑う。
「ねえ、つっきー?」
なに、と答える間もなく坊は言う。
「おいら馬鹿だからよく分かんないけど、難しいのは、難しく考えるからじゃないかなぁ」
まんまるの瞳を真っ直ぐ少年に向けながら、耳をピコピコ動かす。
「生きるってさ、生きるだけじゃ、駄目? ご飯を食べることも、眠ることも、実はすごいことだと思うんだ。それってきっと、当たり前じゃなくて、……ええとね、ここら辺がほっこりするような、……あったかくてすごいことなんじゃないかなぁ」
そう言って坊はまるっこい手を心臓の上に持っていって、にへらと笑った。
ゆっくりと身ぶり手振りを加えて話す坊に、少年はじっと耳を傾ける。
「食べて、眠って、大切な存在のことを考えるでしょ。おいら、それだけでしあわせ」
「坊ってば、単純で困っちゃう」
言い切る坊に憎まれ口を吐きながらも、少年の目は眩しそうに細められていた。
「ねえ、つっきー、あっちの山の向こう側にね、綺麗なお花見つけたんだ!行こう!早く行こう!」
「しょうがないなぁ、行ってあげてもいいよ」
少年の返事を聞くや否や、坊は木から飛び降りてお山の方に走り出す。
「ちょっと坊!僕場所わかんないんだからね!」
少年も慌てて枝から飛び立つ。
森には賑やかな2匹の声が響いた。
2匹の毛玉と長寿の樹だけが知る、そんな秘密のお話。
少年の心が少しでも晴れればいい。