表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
腐女子探偵は見ました!   作者: ガルバンゾウ
双子と家庭教師
9/11

本当の気持ち





双子の帰りを今か今かと待ちわびていた所に、かかってて来た一本の電話に

美枝さんはおそらく心臓が止まるほど驚いたのでしょう。待ち合わせ場所を指定すると

「すぐに行くからね!待っててね」と叫び直後に受話器を乱暴に置く音が聞こえました。


私の携帯電話を耳から離した蓮音君が、しばし通話画面を見て呆然としています。


「どうでした?お母さん来てくれますか?」


「う、うん……」

「本当にこれで良いの?」


「ええ、恐らく上手くいくでしょう」

後は誰も付いてこない様に弥乃伊ちゃんにメールで根回ししておきましょう。



数分前

私は蓮音君に非通知で美枝さんに電話を掛けて貰いました。

誘拐犯がお母さんとお話がしたいから、一人で電波塔に来るように、と言う内容です。


ふと気が付くと、鈴音君が青い顔をして震えていました。

「リオン、どうしたの?」

「ぼく……お母さんに、本当に要らないって言われるかもしれない」


「本当の事を聞くのが……怖くなって来た」


二人の肩におもむろに手を置くと、ちょっと厳しい声で言いました。

「こんなに大きな事件をおこす程、美枝さんの事が好きなら……君達はもう少しお母さんを信じるべきです!」


あと、犯罪行為はしてはいけません!と、付け足しました。

(よく覗きをしている、私が言えた事では無いですが)


時計を見ながら、そろそろ美枝さんが来る頃ですねと独り言を呟くと

すっかり忘れていましたが、身代金の存在を思い出しました。


「あ!お金は私が持ってた方がリアリティがありますね」

蓮音くんから三百万の入った包みを渡されると、初めて持った大金に

謎の武者震いがしました。



「お姉さん、本当にこんな事して大丈夫?」

「捕まらない?」


「え?!捕まりますかね??」

双子に指摘されて突如に変な汗をかいて来ました。


(た、確かに。もし弥乃伊ちゃんがメールを読んでいなくて警察を呼んでいたら

はたまた皆さんに一斉に飛びかかられて鎮圧されたらどうしましょう。)


そのまま独房に入れられて、家族に薄い本を差し入れしてもらう

未来の私を思い描くと思わず背筋が冷えます。


(で、ですが!私は決めたのです。二人の計画を最後まで遂行し目的を達成させると)


精一杯の苦笑いを浮かべ

「ふふふ、大丈夫ですよ」と双子に言うと

そうこうしている内に時間が差し迫って来た事に気付きました。


「さあさあ、君達は早く電波塔の裏に隠れていて下さい!

合図があるまで出てきてはいけませんよ」


不安がる二人を押しやり、私は電波塔の前で仁王立ちすると美枝さんが来るであろう

お屋敷の方向をキッと睨みつけながら、その時をひたすら待ちました。


しばらくして足音が聞こえると荒い息を吐きながら美枝さんが

森の中から姿を現しました。



「こんにちは!ちゃんとお1人で来ていただけましたか?」

緊張のあまり変な言葉づかいになってしまいましたが、そのまま含みを持った笑顔で美枝さんに声をかけました。


「ま、真婦留さん?何故貴女がここにいるのかしら?」

状況が理解できないといった様子で、美枝さんがあたりをきょろきょろと見回しながら。「鈴音?蓮音??どこにいるの?」と叫びました。


「まあまあ、落ち着いて下さい。

三百万円確認しましたよ、よく一晩で用意できましたね」

身代金の入った小包を、頭の横でひらひらとさせてアピールしました。


途端に美枝さんの目が鋭くなり、徐々に私を見る眼力が強くなっていきました。


「どういう事?もしかして貴女が……?」

「……さあ、どうでしょうか」


ちょっとからかう様な言い方をすると、ますます美枝さんの顔が険しくなって行きます

(般若のような顔です!こんなに殺意を向けられたのは産まれて初めてですね)


「ご安心を!鈴音君と蓮音君は無事ですよ。彼らの誘拐は茶番でしかありません

私の本当の目的は……美枝さん貴女です!」


あまりの気迫に圧倒されたので、少しばかり弁明をしておく事にします。

美枝さんは怒りは全く収まっていないものの、双子の安否を知ったからか

先程よりは幾分か眉間の皺が薄くなりました。


「……私?」

「ええ、そうです。お話聞かせて頂きますか?」


「それで、鈴音と蓮音を返してもらえるなら……なんでもお話します」

未だにこちらを睨みつけながら訝しげに美枝さんが了承しました。


「ありがとうございます。では、始めましょうか」


私は双子と約束した『お母さんの本当の気持ち』を聞き出すために

彼女に語り始めました。



「私、ここのお屋敷に初めて来た時に疑問に思った事があったんです。

なんで男の子が女の子のフリをしているのでしょうか?と」

驚いた顔をして私を見たかと思うと、またさっと目線を外しました。


「可笑しな事言わないで下さい……鈴音は女の子です」

「一言も鈴音ちゃんの事だとは言ってませんよ」

「?!……」

美枝さんは悔しそうに唇を噛んで俯いています。その顔はやはり双子にとても似ていました。


「その時はぼんやりとした疑問だったのですが、窓ガラスが割られた時に双子の部屋で見たある物で私は確信しました」

(実際は、暗くて部屋の中なんて全然見えませんでしたけど)


「水色のクマぬいぐるみに刺繍されていた。二人の名前です

そこにはレオン君の名前はありましたが、リンネちゃんの名前はありませんでしたね

かわりにそこにはリオンという名前が書かれていました」


依然俯きながら地面を睨みつけている美枝さんが、両手を固く握りしめました。

(あんなに一生懸命に周囲に女の子だとアピールしていたのに、処分していないなんて、あのぬいぐるみはよほど三人にとって大切なものだったのでしょう)


「わざわざ本名と違った名前を、鈴音ちゃんだけが名乗っているのは何故か?

そう考えると何を隠そうとしているのかは大体分かりました。

第一、あのぬぐるみのブランドは女の子用にピンク色も用意していますしね」


「……だからなんだって言うの?私を脅迫しているのかしら」

「いいえ!ただ聞きたい事があるだけです」

やっと口を開いたかと思うと、やはりかなり怒ってるようです。

もしかして、私が弥乃伊ちゃんにバラすと思っているのかもしれませんね。


「私は、貴女が何故、こんな大きな秘密を自分の息子達に科しているのかについて考えました。

少なくとも産まれたときには男の子の双子だと周囲に報告して、贈り物まで貰っていたのに、なぜ突然女の子のフリをさせなければいけなかったのか」


「ここからは推測ですが、もしかしてそれが再婚の条件なのではありませんか?」

弥乃伊ちゃんに聞いたとは言いたくなかったので、少し嘘をつきました。


しばし、美枝さんが答えるまでじーっと私達は睨み合っていましたが

やっと意を決めたのか絞り出すような声で

「そう貴女の言うと通りよ」と言いました。


「あ!一応断わっておきますが、私は弥乃伊ちゃんに二人の性別について

何も言っていませんし、貴女達の親子をお屋敷から追い出そうとも思ってません」


そのまま美枝さんの前まで歩いて行って、目を見ながら問いかけます。

「ここからが私が本当に聞きたい事です。美枝さん、貴女はいつまで鈴音君に

女の子のフリをさせるおつもりですか?」


「……え?」

私の言葉がよほど予想外だった様で、あっけにとられた顔でこちらを見ています。


「聞きたい事って?それなの?」

「正確にはまだありますが、私はこの件について少し怒っているんです」

そうです、美枝さんが知らず知らずに追い詰めていたせいで、鈴音君と蓮音君は

沢山の嘘をつかされ、実に多く心に傷を負ったのです。


「……私が彼らをすぐに見抜いたように、中学生、高校生へと成長するにつれ次第に女の子のフリをするのは難しくなります」

思わず高校生になった鈴音君と蓮音君が女装している所をイメージして

(悪くはないかも?いえ、むしろ良い!有りです)

等と脱線しかけましたが口元をぐっと引きしめて美枝さんに向き直りました。


「それならばいっその事、皆さんにバラしてしまってはいかがでしょうか?」

「いい加減なことを言わないでちょうだい!!」

今まで押し黙っていたのが嘘のように、もの凄い剣幕で美枝さんがまくし立てます


「女の子って事にしないと、どちらかは養子に出さないといけないのよ

何も知らない癖に!勝手な事言わないでよ」


「……私は弥乃伊ちゃんのお爺さん事は詳しく知りませんが、貴女が彼をとても苦手に思っている事は、以前お話した時に感じ取りました。」


それは電車が止まって、青井さんと民子さんを泊めても良いかと、弥乃伊ちゃんに聞きに部屋に来た時です。

美枝さんは旦那さんには連絡済みではありましたが、お爺さんへの連絡はわざわざ弥乃伊ちゃんにお願いしていましたからね。


「ですが、それは逃げですよ。バレるのは時間の問題だと断言します。

何より、この件について一番の被害を被っているのは鈴音君と蓮音君です。」

「……鈴音リオン蓮音レオンが?」

眉をひそめて私の方をじっと見つめています。


「特に鈴音君は、貴女に嘘を吐かされる事でとても傷ついています

いつまで女の子のフリをすれば良いのか

女の子のフリが出来なくなったら、貴女に嫌われるのではないか

本当は男の子である自分の事を不必要だと感じているのではないか」


「そんな!そんな事思っている訳が……」

「美枝さんが二人の事を思ってやっているという事は……外野の私から見れば分かります。ですが年頃のお二人にとって、別の性別を押し付けられる事は自分の存在をも否定された気分になるみたいですよ」


美枝さんは恐らく、怖い義父と慣れない山の中の生活で他に気を使う余裕が無かったのでしょう。何より一番の誤算は、言わずとも自分の意思は息子達に100%伝わっていると思っていた事です。

もしくは、未だ幼児のように男の子に女の子の格好をさせても何も思わないと考えていたのでしょうか?


「彼らはもう、貴女のお話をちゃんと理解できる年齢になりましたよ。

今一度、しっかりと言葉を交わし合って思いを伝えてみて下さい。」


そう言うと電波塔の後ろに隠れていた鈴音君と蓮音君を呼びました。

二人を見た美枝さんは弾かれたように駆け寄って行きます

「鈴音!蓮音!!大丈夫だった?!何所にいたの?」


焦り過ぎたのかふいに、ぬかるみに足を取られて美枝さんが盛大に転びました。


「あ!大丈夫ですか?!」

助け起こしていると後ろから双子も次々と走ってきました。


「「お母さん!大丈夫?」」


昨晩から始めて見た初めて見た鈴音君が、蓮音君と同じ男の子の格好をしている事に気づきはっと息を飲みました。そして、わずかに赤くなっている片頬を手でそっと触りました。


「これ……もしかして、昨晩の?」

二人とも俯いて押し黙っています。


「鈴音……貴方。女の子のフリするの……嫌だった?」

鈴音君がはっとしたように顔をあげて美枝さんの目を見つめていましたが

しばしの沈黙を破って小さく

「うん……」と呟きました。


「でも、女の子になった方がお母さんと一緒にいられるなら、ぼくそれでも良いよ」

「鈴音は本当は男の子に戻りたいんでしょ?」

それを聞いて今度は小さく頷きました。


「そうよね、ごめんなさい。お母さんどうかしてたね」

蓮音も来なさいと二人を呼び寄せると、ぎゅっと抱き寄せました。


「お母さん……ぼくが男の子のままでも嫌いにならない?」

「馬鹿ね…ならないわよ」

「今度はぼくが女の子のフリしようか?」

「……もう、いいのよ。…お母さんもう一度ちゃんとお義父様と話し合ってみる

もし駄目なら、三人でまたどこかで暮らしましょう」


誰からともなく泣き始めたかと思うと呼応するかのように三人は抱き合って大声で涙を流しはじめました。


(良かった。これで二人の当初の目的は達成ですね。)

三人に足りないのは言葉だった様です。親子といえども自我が芽生えてきた子供は一人の人間として、時には言葉で語り合う事が大切なのでしょう。

他人に自分の考えを100%伝えるのは難しいことですから。



「さて、皆さんも心配されてるでしょうし、お屋敷に戻りましょうか」

双子の肩をポンと触ると、怪訝そうな顔をして美枝さんにガードされました。


「ところで、真婦留さん。これはどういう事のなのかしら?誘拐事件は貴女が計画したの?」


「ぇえ!?違いますよっ。あ、これお返しします」

もはや手持無沙汰になっていた大金の包みを美枝さんに押しつけました。


「なんと言いますか……計画したのは私ではなくてですね。いや、この話し合いを設ける事を提案したのは私ですが……」


先程までの饒舌だった時が嘘のように、頭がまっしろになり思考がこんがらがっていくのが分かります。


「お母さん、お姉ちゃんは悪くないよ」

「ごめんなさい。ぼく達がお母さんを騙してたの」


「どういう事??」

二人の顔を交互に見比べて顔を強張らせている美枝さんに怒られながら

私達はお屋敷への道を戻りました。


もうすっかり台風は去ってしまい空には雲ひとつ無い青空が広がっています。



***** 




その後男の子の格好で帰って来た鈴音君と、蓮音君が誘拐事件の顛末について洗いざらい話してくれたので二人が男の子の双子である事は、あの日お屋敷に居た全員に知られてしまいました。


「ハンナ…貴女いつから分かっていたの?」

「え?!鈴音君の事ですか?た、類稀な洞察力で……」

「性別の話しじゃなくて誘拐が狂言だって事よ」

「……えーと、決め手は脅迫状の字が間違っていたので……」


何か良い言い訳を探して頭を捻っていると、リビングから青井さんと双子の話し声が聞こえて来ました。


「大和兄ちゃん…ぼく、本当は男の子だったんだ」

「……うん、知ってたよ」

「「えーーー!」」

「いつ?いつから知ってたの?」

「お屋敷に初めて来た時かな。奥様から他言無用の誓約書に判子を求められたんだ。

だから三人だけの時は女の子扱いはしないようにしてたんだけど……」

「なんだ…そうだったんだ」

「鈴音は大和兄ちゃんにバレるの恥ずかしがってたんだよ」

「そうなの?知らないフリしててごめんね」


「大和兄ちゃん…もしぼくが男の子でも結婚してくれる?」

「それならぼくだって結婚できるよね?ぼくとも結婚してよ」

「ふ、二人には僕なんかより素敵な人が現れるって……」

「「大和お兄ちゃんより素敵な人なんていないよ!!」」


ふふふ。二人ともいい感じですよ!

ぜひ5年後8年後も、その調子で青井さんを取りあっていて下さい。

(本当に!彼らの将来が楽しみですね!)



END


お疲れ様でした

面白かったら感想頂けると嬉しいです☆

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ