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腐女子探偵は見ました!   作者: ガルバンゾウ
書店のふたり
2/11

書店の人々

挿絵(By みてみん)



初めにお断りしておきますが私

真婦留まふるハンナは探偵ではありません。

そうです断じて探偵ではないのです!ですが


近頃私は、自分の人には言えない特殊な趣味が災いして

あらゆる事件に巻き込まれています。


そして恐ろしい事にそんな時

私は必ずその決定的な瞬間を目の当たりにしてしまうのです。

名だたる探偵達の特殊能力の様なものとは違い、これは全て私が趣味に没頭するあまりに

取った行動のせいなのですが


ただ、この趣味は生き甲斐ともいえる大事な行為ですので

辞めることは微塵も考えられません。


なので、これを続ける為には目の前で起きた事件や降りかかる火の粉は、すべて解決しておかなければいけないのです。


正義感?

いいえ

これは私の傲慢な好奇心と

ロマンの追求の為に

多少強引にでも事件を解決して見せます。



私の



婦(腐)女子の人生にかけて!





この事件の発端は、高校入学と共に勤め始めた書店に起因します。

私は来たる夏の大きなイベントの資金調達の為に、慣れない高校生活と

初めてのアルバイトの両立を目まぐるしくこなしていました。


駅近で学生の利用も多く、品揃えも良いので地元では評判の高いお店で通っています。おかげで新刊の買い逃しは少ないのですが

それ故にお金が堪らないのが悩みの種ですね。


本日の私のシフトは10時から15時の間です。日曜日なので来客が多い事に

少し気分が重くなります。


(本日はあの二人ともシフトが被っていませんし)


はーっとため息が出そうになるのを堪えて、書店への道を急ぎました。




AM09:45



IDカードをかざし短く電子音を立てた裏口の扉を押し開けると

見慣れた長机とパイプ椅の並んだ、休憩室が目に飛び込んで来ました。


奥の扉の向こうにあるロッカールームへ入り若草色のエプロンを付けるだけの


簡単な着替えを終えてお店に出ると、レジでお金を数えている店長と対面しました。


「おはようございます」

「おはよう」


少し疲れた顔をしてため息をつきながら


「昨日の夜またやられたんだよ…今日は日曜だし特に気をつけてね」

と悲しそうに言い、その後に怒気を込めて呟きました。


「……っち!絶対に捕まえてやる」


普段はもう少し余裕のある方なのですが、近頃多発している万引き犯に

頭と胃を悩ませているそうです。さらに、噂好きのフリーター紗倉さんの情報によると

近頃は夫婦仲も良好ではなく


『もう離婚は時間の問題ね!』


との事なので心労が絶えないみたいです。

店長と書かれたネームプレートが胸に光る、若草色のエプロンが彼の顔色を更にくすんでみせています。

「今日は見回りを多くしますね」と答えてから私もいそいそと開店準備に加わりました。



PM12:00



「真婦留ちゃん、おはよう~」

正午になり、12時からのシフトの遠野さんが出勤してきました。


「あっ!おはようございます」

にやけそうな口元をぐっと引き締めて営業スマイル。

ふふふっ

いけない、フライング興奮する所でした。

彼の名前は、遠野(とおの) (みつる)大学2年生

スラリとした長身に人懐っこい笑顔、癖のある茶色い短髪が柴犬の様な雰囲気を持った優しいお兄さんタイプの方です。


ここで、誤解の無い様に説明しますが、私は彼のことを好きとか

あわよくば彼女にして欲しいなどと思っているわけではありません。

むしろ遠野さんの隣には女性よりもっと相応しいお相手がーー


すみません、話がズレましたね。


すっとぼけた風を装いつつ

「えっと~本日のシフトはこの後、紗倉さんと…誰が来るんでしたっけ?」

「友樹だよ!」


ニコッと楽しそうに遠野さんは微笑みながら

「ちょっと早く来るらしいから、休憩時間に一緒にゲームするんだ!あ…店長には内緒にしてといてね」


(ですって!

友樹…名前呼びですか……ふふ)


「あっ!も、もちろん内緒にしてますよっ!はい!」

確実に動揺してしまいましたが、セーフゾーンだと思うことにしましょう。

でも、にやけてしまうのは仕方ないですね


先程のお話にあった様に午後からのシフトは

14時、噂好きの紗倉(さくら)さん。25歳独女

16時、友樹さんこと、水無月(みなづき) 友樹(ゆうき)さん。


彼は結構な人見知り男子で、愛想が良い方では無いのですが

遠野さんとだけは微笑ましい程に相性が良く

休憩時間を合わせては対戦ゲームをしていたり、目配せして笑いあってたり

お二人で一緒に帰ったりしています。


私は、それを見ていると

眼福と、言いますか

いや、目の保養ともいえますね。

とにかく、とっても癒されるんです!


(ああ!早くお二人が並んだ所を見たい!)


ですが、残念ながら本日の私のシフトは水無月さんとは被っていないのです。


思わず深いため息が漏れました。




PM14:00



「おはよー♪」


いつもより巻いた髪をなびかせ、紗倉さんが鼻歌まじりに

にじり寄って来ました。


「ほらっ!見て見て。彼が指輪買ってくれたの!綺麗でしょ?」

突如左手を前に差し出しながら指輪とやらを私の視界にねじ込んできます。


あまりの女子力のテンションについて行けず、曖昧な返事をしつつおずおずと後ずさりしてると

こちらを二度見した店長がぎょっ!とした様子で足早に近づいてきました。


「ちょっ…紗倉さん!指輪禁止です」

「え~!そんな事言わないで下さいよー!記念すべき出来事なんだから♪」


赤いリップを尖らせながら、上目遣いで抗議しつつ、むしろもっと見てくれと言わんばかりに指輪の角度をきらきらと変えています。


「まったく……カバーに引っ掛けない様に、気をつけて下さい!」

「……はーい♪」


店長が離れて行ったのを確認し、紗倉さんがこそっと耳打ちしてきました


「店長機嫌悪くない?きっと噂の鬼嫁のせいよね!早く別れたら良いのに」

(……いやあなたの指輪せいでは…?)


言葉をぐっと飲み込みました。



PM14:45



棚の整理をしていると

見慣れた顔が目の前を横切って行きました!


疑問に思いこっそりと人影を追って行くと


「水無月さん…?」


はっ!と呼ばれた人物がこちらに振り返り、同時に持っていた本を

後ろに隠す動作をしました。


「あっ…お疲れ様」

「シフトより1時間以上も早いですね。どうしたんですか?」


なにやらソワソワしている水無月さんは、後ろ手に本をゲーム情報誌の平積みの山に置きました。


随分と挙動不審ですね。はっきり言って……怪しいです。


今朝の店長の言葉がふと頭をよぎりましたが、いやいや水無月さんに限ってそんな事は!


と考えなおそうとしていると、水無月さんが居心地の悪そうに口を開きました。


「えっと。充さ…遠野さんに俺がこの本読んでたって、言わないでくれる?」


必死な形相でヒソヒソ話をしながら近づいてくる水無月さん。

ちょっと怖いです。


「はぁ…なんででしょうか?」

「……っなんでも」


彼は先ほどから俯いているので表情がよく見えないのですが、さらさらの黒髪の隙間からほんのりと赤くなった耳が見えて、なにやら照れている様子です。なんでしょう、何かが引っかかりますね。考えてみましょう。


1時間以上も早くバイト先に現れ…ゲーム雑誌を隠れて読む…謎の赤面…15時半から遠野さんとゲームをする約束…ゲーム…約束…遠野さんとの……待ちきれない時間…?



(はっ!これって…まさか!)



「…もしかして、遠野さんとやるゲームの予習…ですか?!」

今度は首まで赤くなった水無月さんが、猫の様に目をまん丸に見開きました。

そうか!そうだったんですね。そんなに楽しみにしてたなんてっ!!


「あのっ内緒にしてて…欲しいっ……」

「もちろん!もちろんですよ。ふふふっ!」


(なんていじらしいんでしょう!私、思わず目頭が熱くなってきましたよ)


「あれ~?友樹じゃん。なんで真婦留ちゃん泣かしてるの?」

「えっ!充さん?!

あ、本当だ泣いてる…どうしたの?」


まさか実際に涙が出ていたとは。いけないですね。涙腺がゆるくなってるのかもしれないです。


「あ、えと、ちょっとコンタクトの調子が悪くて、その3(トイレ)行って来ます~!」

苦しい言い訳ですが、これで誤魔化されてくれる事を願います。

休憩室に向かうフリをし、本棚の影に身を隠した私は、そろ~りとお二人の方を伺いました。


「どうしたの~?こんな早くに、なんか探し物?」

「えっと…授業で使う本を探そう…かな?」

「あはは、なんで疑問形なの?じゃあ俺も探すの手伝うよ。

友樹はまだ、お客さんの時間だからね」

「ん…ありがと。充さん」


にこっと微笑んだ友樹さんは、普段見ることの無い柔らかい表情をしていて、彼にとても気を許している事が見て取れます。



友樹って、うちの猫に似てるかも

え、知らないし…どんな猫?

ロシアンブルーだよ。後で写真見せる

へー?なんか強そうだね

いや、そっけないけどちゃんと可愛いよ

かわっ…可愛いって…そう……



遠ざかるお二人の声を、超聴力で聞いてたら、ふふふ。うっかり萌え死にしそうになりました。そう、遠野さんの隣は水無月さんが並んで然るべきなのです!


(二人の会話一生聞いてたいですねぇ……)



この時の私はこんな慎ましやかな願いが

まさかあの様な事件によって破綻するとは、夢にも思わなかったのでした。



正に、一寸先は闇!です



****



PM15:00



時間なので皆さんに挨拶をしてからタイムカードを切った私は、あろうことか休憩室の掃除用具入れの中に佇んでいました。


ゴソゴソ

(ちょっと狭いけど……

体が小さいので余裕ですね。クレンザーの匂いは難点ですが)


パタン!と扉の出っ張りを持って内側から扉を閉めると掃除用具入れの中は

外から漏れる光と、私の呼吸の音だけが聞こえる完全に密封された個室と化しました。

空気穴がちょうど目の位置にあるので、ここから休憩室の机と、ついでに休憩室についている店内の監視カメラのモニターまでもちゃんと見ることができます。


(((ふふふ。スタンバイOKです。いつでも来て下さい)))


そう、私は今から、お二人の逢瀬を堪能する為にこうして掃除用具入れに一体化しているのです。

でも、普通に犯罪ですので、皆様はくれぐれも真似されませぬ様お願いします。



PM15:30


ピッ!ガチャッ

小さな電子音がして扉がゆっくりと開いたかと思うと、本日2回目に見る水無月さんが入って来ました。

それとほぼ同じタイミングで遠野さんが休憩室に入ってきました。



「おっ!来てた」

「お疲れ様……」

水無月さんが、軽く会釈をしながら自分の隣の椅子を引き着席を促しました。


「じゃあ、さっき言ってたうちの猫の写真な!」

「えー…ゲームしようよ」

「まぁまぁ、ちょっとだけ」


椅子に腰掛けながら嬉々として携帯を弄り写真を探す遠野さん。隣でペットボトルの蓋を弄りながらそれを見ている水無月さんは心なしか拗ねてるご様子ですが、携帯を手渡されるともくもくと写真を見始めました。


「ほら!この写真、特に友樹に似てない?」


突如そう言いながら身を乗り出してきた遠野さんに驚きつつ

水無月さんは目をまん丸に見開いて携帯を覗き込みました。


「……似てる?猫じゃん。似てないよ」

「いや、その目とか似てるよ~、ほら」

携帯をぱっと水無月さんの顔の隣に並べて見比べながら遠野さんは微笑んでいます。


「よしよし」

「…ちょっと、辞めてよ」


おもむろに頭を撫でながら、髪を梳かすと水無月さんがそれを避けようと身をよじります。


「ねぇ、いい加減にしてってば……」

「おー!すげぇ猫っ毛だな~!手触りも似てる。ん?なんか耳が赤いよ」

「くすぐったいってば!」


その様子を見た遠野さんは声をあげて笑うと、頭から手を離しました。


「ごめんごめん!それじゃゲームやるか!」


そう言うと二人は次第にゲームにのめり込んでいきました。


(ほ…なんですか、実にけしからんですよ!こんなっ…え、男子って二人きりの時は皆こうなんですか?!天国ですか…ここは)

頬を熱い液体がつぅーっと、、落ちて行きました。これだから辞められませんね。


ふふふ




PM16:00



「あれ?まだ二人とも居たの?早くお店出てよ」

楽園のような休憩室に、招かれざる客いや、紗倉さんが入ってきました。


「あ~!すみません」

「うわ…もうそんな時間?」

二人が勢い良く立ち上がりいそいそとゲーム機を仕舞いました。


「私、1時間休憩だから、店長と3人でよろしくね」


分かりましたの言葉と共に二人はお店の方に駆けて行きました。

(あ、あれ?これもしかして、出るタイミング逃したのではないですか?)


ため息をつきながら携帯を弄る紗倉さんを見て、私も危うくため息が出そうになりました。ここに1時間?きついですね。

やれる事といったら監視カメラのモニターをみて時間を潰すこと位です。

あぁ…さっき迄の至福の時間が嘘のよう、暗闇とクレンザーの匂いが一層増したような沈んだ気分になりました。



PM16:30



ガチャッとお店側の扉が開き、店長が入ってきました。


「あれー?どうしたんですか」

「あぁ、紗倉さん。俺の財布が無いんだ。知らない?」

「えー?奥さんに貰った黒革の長財布ですかぁ?」

知りませーん。と両手を広げて外人のようなジェスチャーをしています。

「でも…見つからなかったら私が新しいのプレゼントしますよ☆

この指輪のお礼に♪」

「……」

「ね?だって、古いのより新しい方が良いでしょ?」

席を立った紗倉さんが店長に、ギュッと抱きつきました。


しばらくの間、紗倉さんの一方的な抱擁が続きましたが店長が嫌そうな声が沈黙を破りました。


「離れて……お揃いの指輪買ってあげたら

別れてくれるんじゃ無かったのか?」

「え~!それって奥さんと別れるってことでしょ?」

赤いリップでにっこり笑います。

「せっかくエンゲージリング買って貰ったんだもーん」


ぼふっとそのまま店長の胸に顔を埋めると「別れてあげない♪」と囁きました。幸せそうな紗倉さんに対して、明らかに店長は怒りの表情をしています。


「はぁ…とりあえず…財布返して」

「だから、古い財布は知らないって」

額に青筋がみるみる浮かび、目が血走っていってます。


(まずいですよ!なんか嫌な予感がしますね…)


私の心配を他所に、店長が佐倉さんを乱暴に引き剥がしました。

きゃっ!と悲鳴をあげ、勢いで床に尻餅をついています。


「もぅ!なにすんのよ!」

「君とは結婚する気なんてないって言ってるだろ!」

「なによ!馬鹿にして!もう、いいわ。別れるならお店のみんなにも

奥さんにも言いふらしてやるから!」

「辞めなさい!」

「いや!触らないでよ!大声出すわよ!」

なによ!こんなもの!と指輪を店長に投げつけ、なおも暴れ続けています。


店長はどうにか取り押さえようと、紗倉さんに手を伸ばしました。

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