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資格?

俺が考え込んでいると、いつのまにかユラさんが湯気の立つ飲み物を運んできて

くれた。

どうやら紅茶のようだ。

「ありがとう」

礼を言うと、ユラさんはにっこりと微笑んだ。

(やっぱりかわいいな)


でもこのかわいいユラさんが、さっきは涙を流して、俺に救いを求めていたのだ。

もし彼女のために俺にできることがあるならば、それをするべきではないのか?

彼女たちの話の真偽は判断のしようがない。

だが、もし本当だとすれば、俺は1000年も前の生まれた身寄りのない

根無し草ということになる。

結果はどうであれ、彼女たちの望むようにしたほうがいいのではないのか?


俺は一呼吸すると、言葉を発した。

「俺の時代は宇宙に行くといっても月までで、それも厳しい訓練を積んだ宇宙飛行士だけができることでした。

そんな時代に生きていた自分が1000年後にまだ生きていて、しかも宇宙艦隊の指揮をするなんて、夢か冗談としか思えません」


「あなたには拒否権はありませんのよ」

シュフランさんが何か言いかけるが、イブキさんがそれを制した。

「確かにあなたが言うとおりなのだろう。信じられないのは無理もないことだ。

だが我々が窮地に陥っているのは事実だし、それを何とかできるのはあなただけなんだ」


ふむ、シュフランさんの物言いはひっかかるが、ひとまずそれはおいておこう。

「皆さんのお話を無碍にするのもどうかと思いますので、俺に何ができるか考えてみてもいいかなとは思います」

俺が言うと、ユラさんの顔にぱっと喜色が浮かんだ。

まだ決めたわけではないので心苦しい。

「仮にですよ、俺が皆さんの望むとおり艦隊の指揮を執るとします。しかしながら、俺は下士官で、しかも予備役に過ぎません。とても艦隊司令官の資格があるとは思えません」


「なるほどな。私たちの考えていたのはこういうことだ」

再びイブキさんが発言する。

「ざっと検索してみたが、あなたの時代の軍人は階級というものがあったそうだな。

あなたのいう下士官とはその階級でも下位のようだ。ただ、現在は提督という階級1つのみだ。従って、あなたが過去にどれだけ下位の階級であったとしても、現在では提督ということになる。で、提督は先任順位の高い者から順番に指揮を執ることになるのだが、1000年前の任官であればあなたが最先任だ。つまり、あなたがこの艦隊の指揮権を掌握すれば、遙かに後任のブリンクマン提督の命令を無効にできるというわけだな」

俺が最先任の提督だと?

ロジックは理解できないこともないが……


「それからアサカ様は予備役ということですが」

シュフランさんも言葉を継ぐ。

「100年前に軍務経験者召集法という法律が施行されました。これは名前のとおり軍務に就いたことがある者を全員一律強制的に召集する法律です。アサカ様はその時は冷凍睡眠状態だったわけですが、生存はしていた訳ですからその時点で召集されています。それを今までご存じなかっただけで」


なんちゅう無茶苦茶な法律だ。

この法律にかかるとおそらく1000年前に除籍されているであろう俺でもOBであるというだけで現役にされるらしい。


「でも、俺は宇宙にも行ったことがないど素人ですよ。艦隊の指揮が執れるとは思いませんが」

「別にアサカ様に艦隊の指揮など期待しておりませんわ。ただブリンクマン提督の命令を無効にして、我々をニューアメリカに連れていってくださるだけでよろしいのです」

確かに俺には艦隊の指揮能力はあるはずもないが、このシュフランさんの物言いにはちょっとカチンとくる。


「では、ニューアメリカに着いたら俺はどうなるんでしょう」

「それは分かりかねますわ」

シュフランさんは無関心そうに横を向く。

ちょっと、それはないだろう。

自分たちの都合だけを考えて俺のことは考えていないな。

「提督が嫌ならそのまま退役するという手もあるな」

俺の気持ちを察したのか、イブキさんが取り成すように言った。


「それしたら、私が提督を養って差しあげます!」

今まで黙っていたユラさんがいきなり爆弾発言をする。

「ほう、これはこれは」

「提督も隅にはおけないですわね」

「もう女を誑かしたのか?最低だなっ」

他の女性達の視線が痛い。

というか、ユラさんの中では、俺はもう提督確定なのな。


ユラさんがなぜここまで好意的なのかはわからないが、

好意を持ってくれている人がいるというだけで気持ちが温かくなる。

やはり彼女の希望に応えるべきか?


「でも、俺が提督になるには、俺が正真正銘名乗ったとおりの人物であると証明する必要がありますね」

「それは私たちも考えましたわ」

またシュフランさんが答える。

「さすがに私たちのデータベースには1000年も前のニホンの予備役兵のデータはありません。ですから、あなたが予備役兵だということを証明できる物を提示してもらって、それを元に身分を認証するしかありませんわね」

「ちなみに、あなたの時代の本人認証方法を教えてもらえるか」

「認証ってほど大げさなものじゃありませんが、入営の時は身分証明書の写真と照合ですかね」

その場に沈黙が降りる。

「ちょっ、本当にそんな原始的な方法で認証しているのか」

「あり得ないぜ」

「でも、彼の時代の認証方法がそうだったとすると、その認証方法を適用するしかないですわ」

「いちおう身分証の年代測定では1000年前とでています。また、本人と写真との適合率は99.99%です」

ユラさんがフォローする。


皆も顔を見合わせていたが、1000年前の予備自衛官が現役の提督であるというアクロバットな解釈は、何とかならなくもない、といった感じだろうか。

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