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ブリンクマン提督?

俺としてはそんな話し合いの模様など知る由もない。

俺にとっては、何もかも全く荒唐無稽で信じがたい話だった。

が、いたずらにしてもこんな手の込んだことをするはずもない。

あるいは何か医学の実験で、パニックになったときの反応を調べているとかかも

しれない。

とりあえず現状を把握することが優先だろう。


「いくつか質問してもいいですか」

「もちろんだ」


「まず、何で1000年前の人間である俺が生きているんでしょう?」

「それは我々にもわからん。わかっているのは遺棄されたと思われる宇宙船に

あなたが積まれていたということだけだ。不思議そうな顔をしているな?

そう、あなたは冷凍睡眠装置に入って宇宙船に積まれていたんだ」

「俺の時代には冷凍睡眠装置どころか宇宙船もなかったんですが、

何で俺がその中に?」


イブキさんは肩をすくめた。


「それもわからんな。あの宇宙船の航宙日誌でも残っていれば何か分かったん

だろうが、あいにくそういうものはまだ見つかっていない。そもそもあなたが

乗っていた船には船籍を示すような遺留品は一切なかったのだ。回航して詳しく

調査する必要があるだろうな」


「じゃあ次です。俺に艦隊を指揮してほしいということですが、

この艦隊に指揮官はいらっしゃらないんですか?」

「それを説明するのは長い話になる」


イブキさんは疲れたため息をついた。


「先ほども言ったとおり、我々は首都のコロンビアという星系からニューアメリカ

という星系に向かっていた宇宙艦隊だ。

ただ、正規の航路は通称‘鳥’と呼ばれている正体不明の敵に遭遇する恐れがある

ので、それを避けるための新たな迂回航路を試すことになっていた。

少なくともそのときの司令官ブリンクマン提督はそうおっしゃっていた。

当初は戦艦「ローマ」、重巡洋艦「イブキ」「アトランタ」「シュフラン」

軽巡洋艦「ユラ」駆逐艦「ミネユキ」「イソユキ」「カスミ」「アラレ」の

9隻編成だった。

シュフランはニューアメリカに駐留する艦隊に異動するためたまたま本艦隊に同行

していたが、その他はまあ標準的な編成だな。

ブリンクマン提督に率いられて出航したのが12月1日、約10ヶ月前のことだ。

予定では2ケ月で到着するはずだった」


そこでいったん言葉を切る。


「事件が起こったのは1月2日、4回のジャンプを終えた後のことだった。

ブリンクマン提督が突然、「ローマ」のみでの先行を宣言されたのだ。

私たちはその意図を質問したが、明確な答えはなかった。

そして、提督はそのまま「ローマ」とともに超空間航法に入り、

いなくなってしまったのだ」


イブキさんは言葉を継ぐ。


「私たちはこの場所に残る他はなかった。

なぜなら私たちへの最後の命令は、「別命があるまで、その場で待機せよ」

だったからだ」


イブキさんの表情は、怒りとも困惑ともつかないものだった。


「でも、今は代わりにイブキさんが指揮をしておられるんですよね。

そのままイブキさんが帰還なりジャンプなりの命令をされればよいのでは?」


「それができればよかったんですけど」

発言したのは、イブキさんの隣りに座っている女性だ。

怜悧な雰囲気を漂わせている。いわゆるクールビューティーってやつだな。

俺に向けている視線がやや温かみに欠けるように感じるのは気のせいか。


「ああ、私は重巡「シュフラン」と申しますわ。よろしくお願いしますわね。

実は、私たちの姿は地球の方によく似ていますが、地球の方にはフェアリーと

呼ばれている別種族なのです」

「えっ、そうなんですか?」

俺は驚いてシュフランさんを見つめる。

別種族って、宇宙人ってことか?全くそんな風には見えなかったが。

てか、宇宙人って本当にいたんだ。


「すいません。いろいろお知りになりたいと思いますが、先に話を進めさせて

いただきますわね。

いろいろな経緯があって、航宙軍においてはフェアリーは地球の方のみが

任命される提督の命令には絶対に従わなければなりません。

もちろん提督が戦死されたりしてフェアリーが指揮権を継承することはあります。

でもブリンクマン提督は戦死したわけでも錯乱していたわけでもなく、明確な命令

を残していかれました。ですから、そのとおりに待機し続けるしかなかったのです」

「……」


「そこで、このままじゃ飢え死にするしかないってところにユラがあんたを拾った

わけだよ」

今度はシュフランさんの逆側に座る女性が発言した。

長身のきりっとした女性だ。

何よりその胸部装甲の大きさは他を圧倒しており、こんな状況でありながら

俺は目線を逸らすのにかなりの努力を必要とした。

ようやく視線を戻すと、彼女は不愉快そうな顔をしつつも自己紹介した。

「あたしは重巡のアトランタだ」

「アトランタって軽巡じゃありませんでしたっけ?」

俺の不用意な一言に、アトランタさんは表情を険しくした。

「ほう、人が重巡だと言っているのに軽巡呼わばりとはいい度胸をしているな。

いくらフェアリーが地球人の命令を聞かなければいけないといったって、

侮辱をそのまま受け取らなけりゃいかんって法はないんだぞ」

アトランタさんは凄惨な笑みを浮かべた。

まずい。怒らせるつもりじゃなかったが、確かに不愉快な発言だったかも

しれないな。

「すいません。俺の時代のアトランタは軽巡だったと言いたかっただけで、

アトランタさんを馬鹿にするつもりはありませんでした。ご気分を悪くさせて

しまってほんとうに申し訳ありません」

俺があっさり謝ったことが意外だったのが、アトランタさんは矛を収めることに

したようだった。


「まあいい。ブリンクマンは確かに待機を命令したし、あたしたちはその命令を

守らなきゃならない。それはそのとおりだ。

でも貴重な戦力を10か月も何の戦略的意味もない星系に置いておくなんて

あり得ない。もし何かの作戦の一環だっていうのなら、少なくとも提督の出発の

時点で先任艦長のイブキにだけは説明があるはずだ。

それもないってことは明らかにおかしな命令だってことだよ。

あたしはそんな命令に従わなければならないとは思わない」


「ブリンクマン提督はなぜそんな命令を?」


俺の問いに、イブキさんはまた疲れた表情をした。


「わからん。私たちの航宙日誌を見てもらえれば、私たちが何度も命令の意図や

待機期間について問いただしているのが確認できるはずだ。それでも提督は命令だ

の一点張りで、最後には通信を一方的に切って出発されてしまったのだ」


ふむ、彼女たちの話を信じるならば、移動中の艦隊が提督の不可思議な命令に

よって辺境星系に置き去りにされてしまったと。

でも彼女たちはフェアリーという種族なので、自分で動くことができない。

そこで地球人である俺が提督になって、新たに艦隊の指揮を執ることを望んでいる

ということになるが……


仮に彼女たちの希望を叶えるにしろ、

そもそも一般人(しかも1000年前の)である俺に提督になる資格があるのか?それと、

ブリンクマン提督の命令がほんとうに不当な命令なのか?

ということがひっかかるな。


さて、俺はどう動くべきだろうか。


その前に、果たしてこんな話を信じるべきなんだろうか。

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