目覚め?
「えっと、ここはどこだろう」
浅香蒼大は目を覚ますと、辺りを見渡した。
今いるのは病院のような殺風景な部屋だ。
どうやらベットに寝かされていたようだ。
「倒れて病院にでも運ばれたのかな」
枕元には何やら数字や波形を表示する禍々しい機械がいくつもあり、
蒼大の見方を裏付けていた。
このまま寝ていればいいのか?
でも病院ならまず看護士さんに目が覚めたことを知らせるべきだろう。
でもナースコールのボタンらしきものは見当たらないようだ。
「おーい、誰かいませんか」
そのとき、ドアが開いて一人の女性が入ってきた。
(外人さん? でも、か、かわいい)
蒼大は思わず見とれてしまった。
金髪、碧眼、白肌の典型的な西洋人の風貌だが、よくいるいかつい感じの顔立ち
ではなく、日本人好みの愛らしい顔立ちだ。
ちょっと小柄なことも相まって、まるで妖精のように見える。
ただ着ている物は白衣ではなく、何か軍服のようなものだ。
妖精さんに軍服とはミスマッチな感じだが、それはそれで魅力的だ。
思わずそんなことを考えていると……
「Hi」
妖精さんが話しかけてきた。
いきなりハイって、えらくフレンドリーな人だな。
「は、はろー」
「What's your name? 」
なぜに英語?
アメリカ兵も参加していたっけ?
「ソウタ・アサカといいます。ここはどこですか?」
蒼大も英語で返答する。
マスターというほどではないが、日常会話程度なら英語は話せるのだ。
妖精さんはあからさまにほっとした様子を見せた。
「よかった、言葉が通じて」
「えーと、何で英語なんです? 日本語はお話しになれないですか?」
「エイゴ? ニホンゴ?」
彼女は驚いた様子をみせた。
「だってここは日本ですよね。できれば英語よりも日本語のほうが
ありがたいんですけど」
「英語って、今話している標準語のことかしら? それにニホンって?
うーん……」
難しい顔をして考え込む。
そんなおかしなことを言っただろうか。
妖精さんはしばらく虚空を見つめていたが、思い切ったようにこう言った。
「分かりました。私が思うに、あなた……アサカ様にとっては思いもがけないこと
になっているようです。できるだけ説明したいと思いますが、まずは私の質問に
答えていただけますか?」
もちろん蒼大に否はない。
「私はユラといいます。よろしくお願いしますね」
ユラさん? 姓か名前かわからないが、珍しい名前だな。
それでは早速質問タイムだ。
「まず、今年は何年ですか?」
いきなり何でそんなことを聞かれるんだろうか。
あれだ、きっと頭を打ったとかして記憶の確認的な作業に違いない。
覚えていないが、やはり倒れたか何かしてしまったようだ。
「平成26年です」
「ヘイセイ?」
「あー、西暦2014年です」
「セイレキ……」
年を答えるだけでこんなに不思議そうな顔をされるとなんか不安になるんですが。
「アサカ様は地球人ですか?」
私は宇宙人ですと答える人がいるんだろうか。
もしかしておかしい人だと思われている? 何で?
「地球人っていうか、まあ日本人ですけど」
「日本人? ほんとうですか?」
ユラさんが驚いたように目を見張る。
いや、何でそこで驚かれるのか意味が分からないんですが。
「アサカ様はここで目が覚める前は何をしていましたか?」
「研修に参加していました。いっぱい走ったり何だりしましたから、
たぶん疲れて倒れてしまったんじゃないかと思ったんですが」
「走る研修ですか? その研修に参加していたアサカ様がどうして宇宙船に
乗り込んでいたのでしょう」
「宇宙船? 何のことです?」
俺は聞き間違えたのかと思った。
英語はそううまいわけではないからな。
「アサカ様は遺棄された宇宙船の中から救出されたのですよ」
宇宙船から救出だと? からかわれているのか?
それとも異常事態への対応をチェックされているのか?
いろんな疑問が渦巻くが、とりあえずまじめに返答することにする。
「確かに宇宙飛行士という職業はありますけれど、訓練を積んだわずかなエリート
だけがなれる職業ですよ。俺は一般人ですからそんな訓練を受けたことはないです
し、宇宙になんて関わったこともありません」
ユラさんはちょっと首を傾げたが、そのまま質問を続けるようにしたようだ。
「それではアサカ様のご職業は何でしたか?」
「会社員です」
「どんな会社にお勤めに?」
「商社です。いろんな物を仕入れて、それをクライアントに売ってました」
「商社では走る研修を課せられるのですか?」
ちょっと面白そうな顔をしている。この質問は純粋な興味のようだ。
確かに説明不足だったな。というか、説明する機会がなかったか。
「いえ、会社の研修ではありません。俺はいちおう予備自衛官だったんで、
その研修ですよ」
「予備自衛官とは何ですか?」
「名前の通りです。自衛隊っていうのは、他の国でいう軍隊なんですけど、
一般人が訓練を受けて予備役兵になる制度です」
「つまりアサカ様は軍人だということですか?」
「いや、軍人っていうか、予備役なんで、素人とそう変わんないんですけど。
って、あれ?」
いつの間にか、ユラさんは目に涙をためて、立ちつくしている。
「俺、何か悪いこと言いました?」
俺の言葉は耳に届いていないようだ。
と思うと、ユラさんはいきなり俺に抱きついてきて、とんでもないことを叫んだ。
「アサカ様、お願いです。どうか私たちをお救いください!」