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第一話「ボーイミーツガール」

吉川兵保ヨシカワ ヘイホといいます。

オリジナルは初めてですが全力で書きますので、よろしくお願いします。




 第一話「ボーイミーツガール」





「……は?」


 学校からの帰り道。一月ももう終わりに近づいたある寒い日の事。

 中に黄色いパーカーを着こんだ学ラン姿の少年は、道の真ん中でポカンとした馬鹿面を晒していた。


「え? な、何だこれ?」


 無理も無い。

 普通の住宅街を歩いていた少年の目の前に、人間大の虹色に光るド派手な渦があるのだから。

 21世紀の現代日本。静岡の片隅でなんとなく生きていただけの少年は、何の脈絡も無く、唐突に未知と遭遇した。


「……………………」


 まあ、いきなり訳の分からんもんが目の前にあったら大抵の人間は思考が停止するだろう。

 少年も例に漏れず、口をハァ? の形にして全身が固まってしまっていた。


「ッ!!」


 が、しかし、そこで天啓。

 少年の脳天を稲妻の如き電流が貫く。

 知っている。これに似た状況を、少年はたしかに知っている。


 ──召喚魔法──


 それが、少年の頭脳が叩きだした結論。

 少年の父はガチオタだった。そして母はコスプレイヤーだった。

 その二人から英才教育を施された少年は、当たり前の様にサラブレットだったのだ。


「まままままさか……!? き、来たのか!? ついに来ちゃったのかコレ!?」


 世界に数多のオタクを生み出してきたJAPANのサブカルチャー。

 そして、そんな本場日本で幼い頃から高度な教育を受けてきた真性のエリート。

 召喚、転生、トリップ、逆行、憑依。それら、事が起こった時の対処法は既にシミュレート済みだ。

 興奮の声を上げた少年は、次の瞬間には電光石火で行動を開始した。


「うおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 裂帛の咆哮。

 少年は手に持っていた学生鞄の中身をその場でぶちまけ、ペンケースからシャープペンを取りだす。

 時間がない。


「急げええええええええええええええ!!」


 路上に散らばったノートを素早く拾い上げて、少年は猛烈な勢いでペンを走らせた。

 少年は焦っていたのだ。

 これが召喚魔法ならいつ消えるか分からない。

 召喚魔法の持続時間は何秒だ?

 鳥や犬が通過して消えでもしたらどうする?

 もしそんな事態になったら、きっと自分は便器の中に頭を突っ込み入水自殺を図るだろう。

 今すぐにでも目の前の不思議渦に飛び込みたい。

 しかし、今書いているのは両親への手紙なのだ。

 ここまで育ててくれた愛する父と母に、何としても別れの言葉を伝えなければ。


「よし!!」


 少年は書き終えたノートを投げ捨て、さらに胸ポケットから取り出した学生証を地面に叩きつけた。

 その学生証が手紙を確実に両親へ届けると信じて。

 そして少年は全力で走りだす。その顔にあるのは希望。

 が、それでも僅かな悔いが残る。

 本当ならもっと準備したかった。

 いつ異世界に行ってもいい様にと考えていたにも拘らず、現実は身一つで旅立つ事となっている。

 なぜ自分はボディアーマーに身を包んで生活していなかったのか。

 日本刀どころかサバイバルナイフ一つ携帯していない。

 ヤクザの事務所に忍び込んで、ダイナマイトの二、三本かっぱらっておけばよかった。

 父がマイホームを買うか戦車を買うか迷っていた時、なぜもっと強硬に戦車を推さなかったのか。

 クソッ何もかも政治が悪い! と内心毒づくも、やはりその口元からは笑みが零れてしまう。

 学ランの襟から出たフードをたなびかせながら、踊る少年の心は大冒険への期待に満ち溢れていた。

 不思議な渦を目撃してからここまで、実に十秒。

 幾通りもの召喚のされ方を脳内訓練していた少年は、渦に向かって頭からダイブした。

 そして叫ぶ。


「ツンデレよりもチョロインでーーーーーーーーーーーーーーー!!」


 それは魂の絶叫。

 まだキスすら未経験の少年は、すでに物語の主人公だった。

 物語にはヒロインが必要不可欠。

 恋愛経験皆無の少年が望むのは、笑顔一発で落ちてくれるちょろいヒロイン。つまりチョロイン。

 ただでさえ平凡な容姿なのに、オタクという重い業を背負う少年には現実の女性の気持ちなど解らなかった。

 流行りのドラマ以外にも少女漫画すら読んで研究したのに、告白した回数分キモイと言われてきた人生。

 それで心が折れる様な惰弱な精神ではなかったが、それでも痛い物は痛いのだ。

 つーかキモイは酷い。自殺でもしたらどうすんの?

 告白の返事がキモイとか、それ確実に殺しにかかってるよね? 少年はそう思う。

 故に、少年はチョロインが好きだった。

 たくさんのアニメ、マンガ、小説の中で、主人公が息をするだけで惚れてくれる女の子が大好きだったのだ。

 だから、祈る。

 己を喚び出した美少女(美少女である事は確定的に明らか)は、お願いだからチョロインであってくれと。

 出会った瞬間抱いてとアピールしてくるくらいのチョロさであれは尚良し。

 だらしない顔を隠しもせず、少年の全身は渦に吸い込まれていった。

 渦に飛び込んだ瞬間凄まじい激痛が全身を襲ったが、それでも少年は一心に祈る。

 チョロインを。チートを。そして出来ればハーレムを。

 激痛と闘いながら、少年は未来を想った。

 ビロンと伸びた鼻の下で夢想するのは、世界の危機に己を呼び出したチョロインと、勇者が如き力を奮う自身の姿。

 ニヒルな笑みを浮かべてモブをしばき倒し、何人もの美女美少女達に揉みくちゃにされる。

 日本のサブカルチャーにどっぷり漬かってしまった少年は、もうどうしようもない程欲望に塗れていた。

 いや、欲望と言うより、度が過ぎる程の妄想が好きな普通の少年なのだ。

 容姿も、学力も、運動能力も、実に平凡な高校一年生。

 あまり頭が良いとは言えない少年には、この現象が本当に召喚なのかという疑問は初めから無い。

 召喚だとして、そこが剣と魔法の世界なのかという疑問も当然無かった。

 召喚者が悪意に満ちていたらどうしよう等、デメリットなどこれっぽっちも考えていないのだ。

 だが、それでいい。

 それが彼という個なのだから。

 少年は平凡。しかし、妄想だけなら誰にも負けない。例えそれが世界相手でもだ。

 好きな子にキモイと言われて泣いた日も、眠りに就く頃にはその子の為に命を賭けて闇の眷属と闘えた。

 別の子に死ねキモオタと言われて泣いた日も、お風呂に入りながらテロリストの凶弾から庇ってやれた。

 クラスの女子全員から犯罪者予備軍扱いされた日でも、デスゲームに囚われた女子全員を一人残らず護り通す事が出来た。

 その在り方は、”勇者”。

 どれだけの絶望に出会っても決して折れぬその精神は、きっとそれこそが、勇者の資質。

 少年がたった一つだけ持っていく物、それは不屈の勇気。

 ただそれだけを持って、『野々宮一平』は冒険へと旅立つ。

 これは勇気の物語。

 艱難辛苦に真正面からぶつかっていく、勇者の物語である。

 ちなみに、一平が両親へ残した別れの言葉は以下の通り。

 

 ”しょうかんktkr! たぶんはーれむ じゃあね(´∀`)ノシ”









「……………………」


 部屋と言うにはやたらと巨大な空間。

 だだっ広いだけで調度品など一切ない室内の片隅で、小柄な人影が佇んでいた。

 縁に白いラインの入った黒いローブを頭から被り、その手には身の丈を超える長さのこれまた真っ黒い杖。

 かなり洗練されたそのテンプレ姿は、まさしくお伽噺の魔法使いだった。

 その人物は、床から光を発している巨大で複雑な紋様の塊──まあぶっちゃけ魔法陣を見詰めている。

 その額には玉の汗。

 膨大な魔力を注ぎ込みつつ、陣の制御に細心の注意を払っていた。

 そして、陣の起動から僅か数秒。

 

 ──来る


 間違いなく成功した手応えに、魔法使いはその身を緊張させた。

 何が現れても即対処出来るようにである。

 実は、召喚魔法は遥か昔に失われた魔法だった。

 理由は簡単。何が召喚されるのか分からなかったからである。

 強力な魔獣から何の役にも立たない小動物まで、しかも正邪の区別も出来なかった。

 召喚魔法のノウハウが充実していた当時はある程度の特定・制御が効いたのだが、その技術もとうに失伝してしまっていた。

 こんな昔話がある。

 500年ほど昔、とある戦争中の国が王家の秘儀である勇者召喚を行った。しかも隷属の首輪をはめるというおまけ付きで。

 本来ならば奴隷や重犯罪者に施すはずの処理を、勇者として喚び出された者に行う。胸糞の悪くなる話だった。

 しかし、この昔話は市井の民からは大変に人気の物語である。

 なぜなら、最後は勇者の勝ちで終わる物語だからだ。

 戦場の最前線に放り込まれた奴隷勇者は、その凄まじい戦闘力によって本当に勝利を導いてしまう。

 だがそれだけでは終わらず、なんと戦場を駆ける日々の中で隷属の呪縛を解く方法を編み出してしまったのだ。

 敵国が降伏した瞬間、最前線から全力で逆走する奴隷勇者。

 10万の自国の軍を中央突破し、後方にいた遠征軍総大将である第一王子の首を獲ると、己を辱めた国に宣戦布告した。

 瓦解する軍を尻目に、奴隷勇者は返す刀でそのまま王城へと一直線に斬り込んでいく。

 そして王都を護る近衛兵4000と宮廷魔法師200の戦力を正面から撃破し、遂に憎き王の首を獲ってしまうのだ。

 戦勝して僅か三日。それが勇者を奴隷として使役した王家の、その全員が奴隷落ちするまでに掛かった日数である。

 少々血生臭い復讐の物語。

 しかし、この分かりやすいオレTUEEEEE!! が大衆に受けた。

 また、卑劣な事をすれば王族であっても報いを受けるという教訓が、子を持つ親としては教育的に都合が良かったのだろう。

 まあだからこそ、召喚魔法が廃れてしまったわけだが。

 兵器は制御出来ねば意味がない。

 行使した力が行使した側に跳ね返ってくるなどアホらしいにも程がある。

 召喚者自身の思惑を反映できない魔法とは、欠陥魔法以外の何物でもなかったのだ。


「……………………」


 故に黒ローブの人物は、魔法陣の中心の空間が歪む様を固唾を飲んで見詰めていた。

 もはや何かが召喚されるのは止められない。

 遺失魔法の研究を始めて10年。

 自身は天才だ。魔法使いとして天才だからこそ、たった10年で召喚魔法を復活させる事ができたのだ。

 ならば、天才にとってはここからが本番。


「……………………」


 その人物は内心で自画自賛しつつも、最後まで気を抜く事はなかった。

 魔法陣には意思を疎通させる術式の他、万一の為に拘束・重圧・弱体、火・水・風・土の上位術式まで組み込まれている。

 最悪の場合は室内の空間を遮断して爆破するつもりだった。

 準備は万端のはずだ。

 そこらの火竜が召喚されたとしても、この身に傷一つ付ける事は叶うまい。


「……………………」


 しかし、何故か肌が粟立つ。

 過去にこの感覚を味わった時は大抵碌な事がなかった。

 嫌な予感がする。

 下手に古代龍なんぞ出てきた日には一目散に逃げるしかないなと、今さらながらに冷や汗が出てきた。

 その時、魔法使いは不意に天啓を受けた。

 

 ──たとえてんさいでも死ぬときは死ぬんじゃね?──


 さすが天才だった。

 この状況で天才は、また一つ真理を得たのだ。


「あわ、あわわわ……、な、なんで召喚魔法なんぞ研究しようと思ったんじゃ……ッ」


 アホッ、アホッ、私のアホウッと、黒ローブはいきなり後悔を吐く。

 だが、それも仕方なかったのだ。

 なんかすんごいモノが出てくる気配。

 別に何らかの魔力を感じたわけではない。しかし、何か巨大な物体が落ちてくるような圧迫感がある。


「あわ、あわ、あわ……ッ」


 黒ローブの魔法使いはテンパッた。自身の第六感がヤベェと告げている。

 その瞬間、魔法陣の中心の空間がバリンと裂けた。

 そして何かがこちらに向かって真っ直ぐ飛び出してくる。


「チョロインでーーーーーーーーーーーーーーー!!」

「あわーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?」


 空間の裂け目から吐きだされた何かの咆哮に、黒ローブは悲鳴を上げた。

 直後発動する拘束魔法。

 が、対象を封じる筈の魔法は空を切った。召喚された何かを捉える事は出来なかったのだ。

 原因は三つ。

 ビビッた術者が、広域に分散させた魔力の網では破られると思い、範囲指定した魔力の縄を使った事。

 さらに、想定よりも対象が遥かに小さくて、混乱した術者が目測を誤った事。


「ぐふぇっ!?」


 そして最後は、中空に飛び出した対象が顔面から床に落ちて、勝手に動きを止めたからである。

 その落下した何かは、床に叩きつけられるとピクリとも動かなくなった。


「……………………」


 黒ローブもまた、一緒になって動きが止まってしまっていた。

 あまりの緊張と恐怖、そして想像だにしなかった展開がその身を固まらせたのだ。

 しかし、心臓はヤバいくらいに全力疾走している。

 初撃を外した事で思考が停止してしまったのだが、それ以上に目の前で起きたマヌケな状況に呆然となってしまった。

 だが、まあ、いつまでも呆然としているわけにもいかない。

 とりあえず、対象固定で拘束魔法を発動させようとした。

 しかし──


「は、はじめまして! 俺の名前は野々宮一平! 一平って呼んで下さい! 16才です!」


 ガバリと勢いよく顔を上げた少年の声に遮られる。


「……は?」


 黒ローブの魔法使いは目を白黒させた。

 おそらくは落下の衝撃で痛むのだろう。召喚された物体は体をプルプルとさせながらも満面の笑顔を向けてくる。

 黒髪に全身黒装束。しかし、上着の前を止めていないので丸見えの黄色い衣装が、妙に軽薄さを強調させていた。

 やたらと友好的な笑顔を見せてくるのだが、とても16才には見えない。もっと幼く見える。

 顔立ちは……よくわからなかった。ダラダラと溢れ出ている鼻血で全てが台無しだったのだ。

 だが、黒ローブの魔法使いにとってはそんな事はどうでもよかった。

 何故人が召喚されているのだろうか。人を召喚する事は出来ない筈だ。術式自体がそういう風には出来ていない。

 魔法使いは鈍くなっていた頭が徐々に働いてきていた。それに伴い、狭くなっていた視野も元通りに開けていく。


「召喚してくれてありがとう!」


 そして理解した。どうやらなんらかのミスで、どこぞの子供を召喚してしまったんだと。

 これはまずい。普通に誘拐だ。

 下手をしなくても人攫いは犯罪である。

 召喚魔法を行ったらいつのまにか事件が発生していた。しかもその犯人は自分自身だった。

 しかも身なりがいい。見慣れない衣装だが、使われている生地がかなり上質に見える。

 考えたくないが、もしも他国の貴族とかだったりしたらヤバイなんてもんじゃない。最悪、戦争だ。

 なぜだ。己の人生は何かが激しく間違っている気がする。

 

「流派は黒聖魔光剣! 必殺技の”魔断の黒閃”には自信があります!」


 そんな、ダラダラ冷や汗を流していた魔法使いは、聞き流せない単語を聞いた。

 語感がやたらと物騒だ。

 必ず殺す技とか、そんなもんそこらの一般人が身につけている筈がない。


「こ、こくせいまこう剣、じゃと……? お、お主どこぞの騎士か?」


 ヤベエ、対応を誤ったら破滅する、と黒ローブは最悪な予想に身を震わせた。

 なんとかこの場を穏便に収め、相互理解に努めなければ。


「うはっ、ババア語ですか。いやいや、王女や皇女だって使う高貴な語尾ですよね。キャラ付けとしては悪くない」


 しかし、返ってきた言葉が理解出来ない。


「は、はあ……?」

「キミが召喚したでオッケー?」

「あ……う、うむ。大変申しわけな──」

「うっは! ヒロイン確定したわ!」

「……………………」


 もはや何が現実なのか。

 目の前の少年はあまりに意味不明だった。

 さっきから立ち上がる事も出来ずに震えているのは、顔面痛打によるものではなく召喚の副作用なのだろうか。

 本当に申し訳ない事をした。

 しかし、なぜ文句の一つも無いのだろう。

 アナタが私のマスターか?の方がキマったかな、とブツブツ呟いているのは宗教的な何かか?

 いやそれよりも、なぜこの少年はこの状況に動じていないのだ。

 こちらは混乱しまくりなのに、誘拐されたも同然の側がなぜ不安の一つも見せない。

 まさか、コヤツは──


「勇者……」


 ポロッと口から零れた単語。

 だが、勇者召喚は大昔に滅びた亡国の秘儀。

 いかな自身が天才だろうと、継ぎ接ぎだらけのほぼオリジナルとなった術式が国家の秘儀と並ぶはずがない。

 魔法とはそういった偶然とは対極に位置しているシロモノなのだから。

 500年前、単騎で国を落とした化物が如き存在を思い描き、黒ローブは反射的に少年の顔を凝視した。

 少年もまた、黒ローブを見詰めていた。

 目の前の魔法使いの呟きを拾ったのだろう。少年は鼻血まみれの顔を満面の笑みに変えて言う。


「そうだよ。俺は、君の勇者だ」

「ッ!?」


 ドクリと、心臓が弾んだ。

 魔法の天才。そう言われ続け、自身もまた魔法を極めんと一心に努力してきた。

 恋愛などした事は無い。そういった環境でなかったという事もあるが、諦めていた何かに火が付く感覚がある。

 有名な奴隷勇者の物語。最後はどういった結末だっただろうか。

 たしか、反逆された王族の中で唯一助かった者がいた。

 下級騎士を母に持つ、宮廷内で何の力も持たないみそっかすの第五王女。そして、奴隷勇者を召喚した娘。

 あの昔話は、二人の恋が実る物語でもあった。


「君の名前が知りたい。フードを外してくれないかな?」


 自身が乙女なのは、目の前の勇者に出会う為だったのだろうか?

 魔法使いは、少年の目に魅入られた様にフードに手を掛けた。

 そして、現れたのは、美しい銀。

 長く青みがかった銀髪を、女魔法使いは両手ですくい上げるように背中へと流す。

 少年よりも頭一つ分低い小柄な体の上には、とても愛嬌のある顔が乗っていた。

 しかし、その目は少々潤んでいる。

 微かに染まった肌は、やはり乙女的に気恥ずかったのだろう。

 美しく老成した樹木を連想させる両手で、同じく長い年月を刻みつけた皺だらけの頬を押さえて言った。

 

「リュリュ・シェンデルフェール。65才じゃ」

「ババアじゃねえかああああああああああああああああああああ!!」


 少年、野々宮一平は気絶した。

 互いに不幸だったのは、老魔法使いのフードが認識阻害を付与された高級ローブだった事である。


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