個別ルートは安全地帯
「それで、今日はいったい何に胃を痛めているんですか?(あーあ、マジだるい。俺は今すぐゲームがしたいのに)」
「ゲームしながらで良いですよ。あっ、お茶入れます?」
「じゃあ、お願いします(ラッキー! 待っててね由美ちゃん、お兄ちゃんが今すぐ行きますからね!)」
そんなやり取りをしているのは、仙道の住んでいる無駄に高級なマンションでのこと。
攻略対象故のハイスペック設定は住宅にまで及んでいるらしく、仙道は無駄に広いマンションに息子と二人で暮らしている。
設定状は早くに妻を亡くし、悲しみに暮れながら一人懸命に息子を育てているというものだが、残念ながら奴の本性は息子そっちのけで小学生女子を屈辱するゲームに明け暮れる変態である。
ちなみに、息子の信也にもそれはバレており。ルンルン気分で部屋に向かう父親を、信也は酷く冷たい目で見ている。
「……生徒にお茶を入れさせるなんてなんてオヤジだ」
そう怒る信也は13歳。父親にそっくりな眼鏡男子だが、変態的な趣味には目覚めていないようだ。
そして何より攻略対象ではないので心が読めない。まあ視線が胸に行きがちなので考えていることは何となくわかるが、年頃の男子の前に巨乳を置いていれば当然の反応であるため特に指摘はしない。
それに何より彼は私の身の上を知っているので、視線に気づく度「わるい」と謝る純情な子なのである。
なぜこういう子を攻略対象にしてくれなかったのかと、正直福の神を時々恨む。
「ってか、お茶なら俺が入れるよ」
「いいよいいよ。勝手にお邪魔してるのはこっちだし」
恋愛ゲーム生活が始まって以来、私は彼の家に入り浸っている。
何せ学校でも家でもことあるごとにときめきイベントが勃発し、イケメンが入れ替わり立ち替わりわたしの視界に現れるのだ。
けれどここにいると、不思議と他のキャラの乱入が殆ど無い。
たぶん、これはある種の個別ルートに入っている状況なのだろう。
つまり、『お目当てのイケメンキャラと二人っきりの恋愛イベント進行中!』 と言うゲームにありがちな展開だ。
これが真面目な恋愛ゲームだったら、イケメン先生のおうちで二人っきりの授業……的なあれである。
奴から好意を抱かれるという状況はありえないので色っぽいことは何も起きないが、個別ルートというのは何かと便利だと、私は常々思ってた。