理想と現実
ここ最近、私はイケメン達からの素敵な告白に悩まされている。
贅沢なことを言うなと怒られそうな悩みだが、残念ながら今私が置かれている状況は誰もが思い描く素敵なラブライフにはほど遠く、愚痴の一つも言いたくなる散々な毎日なのだ。
たしかに、客観的に見れば私にの日常は乙女の夢そのままだった。
朝から晩までひっきりなしにイケメンに遭遇し、合う度に甘い言葉を囁かれ、微笑まれ、お触り(といっても健全なレベルだが)までされる……。そんな毎日を私はここ一ヶ月ほど繰り返しているのである。
なんだその恋愛ゲームのような展開はと、正直自分でも思う。
思うけれどもだがしかし、私はゲームの主人公ではないのでそれを笑顔で享受することなどできはしない。
訳あって容姿は超絶美少女になっているが、私は三次元に生きる元地味で根暗なオタク女子である。
二次元は二次元だからこそイイ! を信条に生きてきた日陰者の女子高生なのである。
故に夢のような状況を楽しむ余裕などなく、何よりこの夢のような状況には、もの凄くいらないオプションがついていた。
私を取り囲むのは、様々な萌え要素を余すこと詰め込んだ乙女ゲー台詞を絶えず量産するイケメン達。
けれど彼らの甘い言葉には、とてつもなく残念で最低な心の声がくっついていたのだ。
「俺にはもう……君しかいないんだ!(だからおっぱいもませてくださいお願いします!!)」
「君の笑顔を見ていると、僕はようやく本当の僕になれる(だから君のおっぱいを僕にさらけ出しておくれ!)」
「先輩は、僕だけの先輩なんだからねっ!(だから先輩のおっぱいも僕の何だからねっ!!)」
「お、お前の事なんてこれっぽっちも好きじゃねぇんだからな!(でもお前のおっぱいはめっちゃ好みだ!!)」
このベタ過ぎる台詞と最低な下心を聞かされるようになったきっかけは、ちょっとした親切心とはた迷惑なお節介が招いた物だった。
おかげさまで私の胃は毎日しくしく痛み、軽く男性不信気味である。
……とはいえ、救いが何一つ無いわけではない。
たった一人だが、甘辛い台詞に胃を傷める私に手をさしのべてくれるイケメンがいることにはいるのだ。
「どうしました鈴木さん、なんだか辛そうな顔をしていますよ……(ったく、目立つところでため息なんてついてんじゃねぇよ。俺は早く帰ってエロゲしたいんだよ! 由美ちゃんに『おにいたん』って言われたいんだよ!)」
まあ本人は手をさしのべているつもりなどさっぱりないのだが、12才以上は恋愛対象外という彼の性癖が、私にとってはある種の救いとなっている。
とはいえ、彼の心の声が一番酷いのも事実だが。
「……先生、いつも言ってますが考えが透けてます」
「透けてるんじゃありません、あなたが勝手に読んでるだけです(ってかてめえに興味ねぇってわかってるなら、ならこれ見よがしにため息とかついてんじゃねぇよ! 教師として、放置出来ないだろクソが!)」
見かけは知的で紳士的な数学教師。しかし中身はロリしか愛せない変態。
という担任の本性も、言い寄ってくる男どもの思考の殆どがおっぱいに支配されていることも、本当ならば知りたくなかった。
けれどこの状況はある種の「幸運」らしく、逃げ出すことはかなわないのだという。
「なんで、よりにもよって乙女ゲームに読心機能とかつけるかなぁ」
そうこぼしながら思わず天を仰ぐと、青空の向こうですべての元凶がにっこり笑っている気がした。