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ようこそ、お嬢さん

 ――あれ、私どうしたんだっけ……。


 うまく回らない頭を必死に動かし自分の身に起こったことを思い出す。


 ――よくわかんないけどいきなり意識が遠のいて……。


 ――とりあえず猫、あの猫のせいだ。全てあいつが悪い。


 沈んでいくような浮くような奇妙な感覚。

 自分でも馬鹿みたいなこと考えてるなとは思ったが本当にそんな感じなのだ。


 ――寝てる、の……? 私……。


 それじゃあ起きないと。早く起きて逃げないと。


 ――……逃げるって何から?


 無意味な問いを自分に投げかける。

 わからない。そもそも私は何をしてたんだろう。猫? サーカス? 


 ――駄目だ、何も思い出せない、考えられないよ。


 すべてを投げ出してこのまま自分を止めてしまいたい。

 ふわふわと心地よく過ごせる今が今までになく安らぎを与えてくれる。


『――気持ちよくなってるところ悪いけどお嬢さん、そろそろ起きて』


 ――誰?


 突如頭に直接語りかけてくるような声が響き僅かに驚く。

 声の主は落ち着きのある優しそうな口調で言った。


『とりあえず起きればわかるさ。さあ、起きて』


 ――どうやって?


 起きろと言われてもそれすらわからない。まぶたを開く方法も腕を動かす方法もわからないのに。

 すると声の主は呆れたようにため息をついた。


『はぁ……仕方ない』


 その言葉と同時に鈴がなるような透き通った音が鳴り響いた。

 そして、私の意識も次第にはっきりしていき――。




「ん……あれ……?」

「あ、起きた」

 超至近距離に先ほどの銀髪の青年の顔があった。

 しばらく沈黙。

「ぎゃあああああああああああ!!」

「えっ、おわっ!?」

 私は思わず青年を思い切り殴ってしまった。

 予想だにしてなかったためか青年はよけることができずもろに喰らってしまった。

 頬をおさえ痛そうにしている青年をまじまじと見つめ気づいた。

 先ほどとは違う場所、テントの中のような場所だった。

 何やら体に違和感があるがそれが何なのか、それよりも今自分が置かれている状況が気になった。

「グーで殴ったよ、このお嬢さん……いったー……」

 少しだけ赤くなった頬がチラリと見えなぜか悪いと思ってしまった。

 そして僅かに抱いた違和感の正体に気づいてしまった。

 青年の手に握られた鎖。そしてその鎖の先は――


 枷がはめられた私の足だった。


「――っ!? ちょ、これ! 何ですか!?」

 足首にはめられた枷は青年が持っている鎖が繋がっている。

「ん? 足枷。鉄でできた拘束具で罪人などの動きを封じるもの。割と裏で回ってるやつは単価安いよ」

「そ、そういうことじゃなくて何でこんなことに……」


「お嬢さんが悪い子だから」


 満面の笑みでそう言われ愕然とする。悪いことなんてしていない。迷い込んだのは迷惑かもしれないけどここまでされるいわれはないはずだ。

 動くたびにじゃらっと鎖の音がして現実だということを実感させられる。

「本当は殺すのが手っ取り早いんだけどね。顔悪くないし今検討中。よかったね、お嬢さん」

「何言って……」

「おーい、モノ……って起きたんだ」

 テントの中に入ってきたまた別の男。青い髪に地味な服装。これといって目立つものはあまりない。年齢は二十代くらいだろう。少しあどけなさがあるが十分大人の雰囲気がある。

 男の人は私をじろじろと観察し納得がいった顔で言った。

「うん、まあ悪くないけど気強そうだし面倒そうだね。ああでもそういう趣味の奴はいくらでもいるし……」

「悩んでないでちゃっちゃと決めてくださいクラウン様」

「団長に口出しするなー。……うーん、てかしばらく売りにいけなさそうだから殺すしかないんだよな……ああ、でも」

 この人がルイン一座の団長!?と思わず場違いな驚きを隠せなかったがそれよりも驚かされることが起こる。

 いきなり顔を近づけてくると顎を掴み見つめ合うような感じにさせられた。

「君、死ぬか生きるか選べるならどっちがいい?」

 いきなり生き死にの選択を求められた。

 普通に死にたくないです。

「い、生きたいです」

「よし、今の言葉に二言は許されないよ」

 暗く嗤う男は背後から一枚の紙を取り出す。そこに書かれていた文字は私の読める字ではなく古い文字かなにかのようだった。

「『私はこのルイン一座に生涯奴隷として過ごすことを誓います。逃げも隠れもしません。』はい、契約完了」

 その言葉と同時に紙が淡く光る。

 超常現象にも驚いたがそれよりも契約とやらの内容に驚かされた。

「け、契約!? 奴隷!? な、なんで……!」

「理解力ないなぁ……生きたいんでしょ? 本来なら殺してるところなのに生かしてもらってるんだよ? だから生涯かけて恩義返すもんでしょ。まあ逃げられないようにってのもあるし。ちなみに契約を無視しようとしたら契約の掟によって罰がくだるから。痛いのやだよね?」

 早口で告げられる内容は絶望しかない。どうしてそうなったのだ。

「わ、私契約するなんて言ってません! そんな契約無効です!!」

「黙れ、ガキ」

 ドスのきいた声で詰め寄られ、殴られた。

 殴られたときのことがわからない。頬に残る痛みは間違いないがまったく見えなかった。


「ここに迷い込んだ自分を呪うんだな。破滅を意味するルイン一座、普通の人間が迷い込んだら最後、生きて出られない。それなのに生きれることに感謝をするんだな」


 それだけ言い残しその場から去った。

 いまいち現実を受け入れられない私に優しく声をかけてきたのは銀髪の青年だった。

「まあ、生きれるだけよかったと思っておきなよ」

「な、なんで……私、誰にも言いません……。何も変なの見てないし……」

「疑われることだけで十分罪なんだよ。運が悪かったと割り切るんだね」

 青年は私の頭を撫でるととても優しそうには見えない意地の悪い笑みを浮かべた。

 すると私はまたしても暗闇に落ちるような感覚に囚われまぶたを閉じてしまった。


「ルイン一座へようこそ、お嬢さん」


 最後に聞こえた青年の声は暗闇に飲まれ消えてしまった。



本格始動します!これから更新ペースどうなることやら……。応援お願いします!

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