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晴天・いつもの日差し

「次の街はどうなるだろうなー。楽しみだ」

 サーカスの長である彼は馬車に揺られながら呟いた。

 隣で丸まっている紫猫はそれに同意するかのようににゃーと一鳴きする。

 サーカス、それは見るものを娯楽へと導く。

 一時の夢に深入りしたら最後、二度と出ることは叶わない――。



「お前たち! 久々の開演だ! 張り切ってくぞ!」



 団長兼道化師の彼は高らかに笑う。これから起こる喜劇を予言するかのように――。




 ここ、エルレアトスは巨大な領地を保有する国家で良政を敷いていると評判だ。

 肥沃な土壌、過ごしやすい気候に恵まれ世界中の人間が集まる。

 最近では旅芸人や一座などが流行し娯楽の要にもなっていた。


 エルレアトスのある街、カーリエにも人気のサーカスが訪れようとしていた……。



「うーん、いい天気! 絶好の洗濯日和ね!」

 私は洗濯物を干しながら得意の歌を歌っていた。小さい頃から歌だけは評価されているのだがそれ以外は平凡。平凡な一般市民の私。

 それでもいい、幸せなのだから。

 長い茜色の髪をかきあげ空を見上げる。雲ひとつない晴天。

「レイラー? おっ、いたいた」

 私の名を呼ぶのは幼馴染のジーン・オリオール。絵に描いたような好青年で最近は女の子にモテモテだと聞いた。

 しかし、告白されても全部断っているそうで今のところ彼女なし。もったいないなぁといつも思ってしまう。

 短い黒髪に少し低めの背。どこか抜けている性格は母性本能をくすぐる。

「どうしたの、ジーン。何か用?」

「用っていうかさ、サーカスが来んだよ! あの有名なルイン一座!」

 ああ、と納得する。ルイン一座とは新しくできたサーカスらしく演目の出来や美男美女の団員で評価を高めている。一度は観てみたいと少し前にジーンやおばさんと話したものだ。

「お前……その、観たいって言ってたろ。だから……その」

「そうねー、でも料金高そうだし。そんな無駄遣いはできないわ」

「お、オフクロが金出してくれるってよ。お前いつもがんばってるし……」

「やぁね、おばさんにそんな迷惑かけられないわよ。それよりこれから私部屋の掃除しようと思って」

「お、俺が稼いだ金で連れてってやっても――」

「そんなことに大事なお給料使わないの。そうね……女の子とデートのときに使うとか! せっかくモテるんだから」

 するとジーンは打ちのめされたようにとぼとぼと家の中に入っていった。何かいけないことでも言ったのだろうか。

「俺が女とどっか行くわけないだろ……どんだけ鈍いんだ……」

 ブツブツと何か言いながらその場から去るジーンに少しだけ罪悪感を抱く。

 私は幼い頃に両親を事故でなくしている。ジーンのお母さんであるマリーおばさんが両親と親しかったらしくほかに身内がいない私はこの家に引き取られた。

 迷惑をかけないようバイトもしているし家事もできるだけ手伝っている。それでも後ろめたさは消えない。

 早めに自立して恩返しをしなければと常常思っているのだがいかんせん、男性優位なこの社会で女が就職するのはなかなか大変なのだ。

 基本、女性は結婚するのが当たり前でそれ以外は自ら商売をして成功するか体を売るかしない限り安定した収入は得られない。現在しているウエイトレスのバイトも賃金があまりよくないので安定のある稼ぎ方ではないのだ。

 体を売ろうものならジーンを初めとしたオリオール一家にお説教を食らってしまう。

 商売で成功するのも賭けに近いものだ。まず普通に自滅する。

 となると結婚なのだが正直、恩返しできるのか不安である。そもそも結婚できる自信がない。

 そんな先が思いやられることを考えながら一度部屋に戻ることにした。



 あまり物がない部屋とよく言われるがお世話になってる分際で必要以上に物を置くのもどうかと思い必要最低限にとどめている。

 落ちていた小物を小物入れに入れようとし蓋をあけると母親の形見であるペンダントが久しぶりに目に入った。

『レイラ、これはね、あなたのお父さんがあなたのお母さんに贈った思い出のペンダントなのよ。お母さん似のあなたならきっと似合うわ』

 先日の十七歳の誕生日のときにおばさんから渡されたのだがまだ一度も身に付けたことはない。

 だって似合うわけないもの。

 青い宝石は雫のような形で神秘的だ。私の髪はお父さん譲りの茜色。絶対に合わない。

 そんなことを考えていると美しい紫色の毛並みを持つ猫がいつの間にか窓辺にいた。

 見たこともない綺麗な猫だ。紫色という時点でありえないだろうが神秘的な雰囲気を漂わせており猫らしくないとすら思った。猫の頭をそっと撫でてやると嬉しそうにごろごろと鳴く。

「どこから来たの? そういえばルイン一座がきてるんだっけ。そこの子?」

 猫に人間の言葉なんて伝わるはずもないのに話しかけてみる。

 すると机の上に置いておいたペンダントに飛びつきそのままくわえて外に逃げていった。

「ちょっと……! 待ちなさい!」

 さすがに窓からは無理なので普通に階段を降りて猫の向かった方向にひたすら走る。

 目立つ猫なので見失うことはなかったが走ってる最中からあった違和感に気づいた。

 私が見失わない程度の距離を保ち時々止まったりしているのだ。

 なんて頭のいい猫だ。すごく舐められている感じがして思わずムカッとした。


 いつもと変わらない街並み。走る猫。追いかける私。

 普通の日常だとこの時までは当たり前のように思っていた。

逆ハーに挑戦してみたくて試しに。お気軽に感想などいただけると嬉しいです。ちなみにまだ逆ハーにはならないです(笑)

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