花束はナミダ色
出張から戻るたびにデートを重ねる。
ラブラブな日々を送っている、うかれたアラフィフの前に。
事件は突然訪れる。
いや。これは事故である。
仕事の帰り道。薄い雨で路面が濡れている。
角を回ると、自宅近くの四つ角に止まる、赤色灯が回る救急車。
赤い灯の下に転がるバイク。
それは、娘2号の派手なバイクだった。
血の気が引く。走る。回り込む。
良かった!生きてる!声出てる!
「オカン。ごめん」
救急隊員にのそばで毛布をかけられて横たわる娘は、苦しげに顔を歪めた。
そのまま一緒に救急車に乗り込む。
受け入れ病院は隣町。退勤時間帯の幹線道路は混んでいて、救急車に道を譲る心の余裕がない。
クソっ!むかつきながら娘の手を握る。
「隊員のお兄ちゃんが良くしてくれてん。近所の人が毛布かけてくれてん。」
うんうん。大丈夫や。大丈夫やで。
注射も怖がるビビリな娘は、結局足と肩の骨折。
当分歩けそうにない。
痛い痛いと泣く。
すまん。オカンは何もできん。
でも、生きてて良かった。
それだけで、
今は良しにしとこうな。
切り裂かれた娘の服を抱えて、どっと疲れて家に帰る。
何も手につかず、ぼんやりと座り込む。
時計の秒針の音が、ヤケに耳につく。
インターホンが鳴った。
ひと抱えもある大きな花束。
私の大好きな百合とバラ。
カサブランカの香りが私を包む。
どうやら娘達は2人で出し合って送ってくれたようだ。
そうだ。
今日は私の誕生日。
涙が止まらない。
入院中の娘2号は
「オムツちゃんやねーん♪」と明るく笑う。
でも本当はどんなに苦しいか、母は知っている。
私も、20才の5ヶ月を病院で過ごした。
傷の痛みよりも、心の痛みは深くて苦しい。
自分を取り巻くすべてのものから取り残される不安と、焦燥。
でもね、自分で乗り越えるしかないのよ。
君なら大丈夫。絶対大丈夫。
ギプスの落書きが増えていく。
友達が訪れるたびに、足跡を残してくれる。
笑顔が増えて、そしてその後ろに、影が見え隠れしている。
でもね、君にはちゃんと、仲間がいる。
きっと大丈夫。
「お寿司が食べた〜い♪」
「ファブリーズ買ってきてー。臭いねん〜」
私は買いに走る。
そして白いベッドサイドで、頑張れ踊りを踊る。
手を振り、体を揺らし、歌う。精いっぱいおどけて、踊る。
車椅子が使えるようになって、やっと外泊許可が出た。
とはいえ車椅子。ちょっと手がかかる。
いい機会だ。彼とご対面だ。
迎えに行くと、娘はラーメン食べたい〜♥とはしゃいでいる。
彼はというと、まあほぼ無言。予想通りである。
でも娘はお構いなしでラーメンコール。
さすが我が娘、普通に受け入れている模様。
帰り道で最初に見つけたラーメン屋に入って、3人でラーメンをすする。
「うまうま〜♪」湯気の向こうで娘の笑顔が揺れる。
さあ、ご満悦の娘を連れて帰宅だ。
我が家はハイツの2階である。
駐車場に車を入れると、目の前に階段がそそり立つ。
廊下は車椅子を使えるが、階段なのだ、先ずは。
母は娘の前に背中を出す。よっしゃ!おんぶや!
想定外であった。母は昔ほどのパワーがなかった。
何とか立つも、足は出ない。一歩も。
娘の名誉のために言うが、彼女は決しておデブちゃんではない。
身長160センチの標準体型である。つまり母より一回り小さいのだ。
体育会系母の自信が、ガラガラと音を立てて崩れていく。
こんなはずではなかったのにぃー。焦る私。
そしてうなだれる私の前に黒い影。
「ん。」
彼は娘の前にその広い背中を差し出した。
軽々と娘をおぶって階段を登る彼。
その背中に、また私は恋をした。
そして娘も、きっと少しだけ惚れた。
2か月後、娘は無事退院した。
そして私の週末通いが始まる。
*おまけ*
ー頑張れ踊りのススメー
あなたの前の人が、ちょっと元気がない時は――
頑張れ踊りで笑顔にしよう。
♪基本は4拍子
①② で、
「がんばれ ◯◯!」(◯◯は名前)
③④ は、休符。
これをエンドレスリピート。
♪手の動き
顔の横で軽く握る。ネコのポーズ。
それを20センチ前に出して、セットOK!
①② 右に手首を2回振る。(がんばれ◯◯)
③④ 左に手首を2回振る。(無音)
エンドレスリピート。
♪ポイント
・顔ニッコリ・小首をコテン・目線は手の先に
・可愛く、思いっきりキュートに♪ (ここ、命。)
♪下半身も入れてみましょう
足は肩幅。軽く膝を曲げる。
①② 腰を左にひと振り
③④ 腰を右にひと振り
エンドレスリピート。
オッケー♪
そろそろ、お尻に尻尾が出てきたでしょう。
可愛く♪ キュートに♪ 延々と♪
笑顔が出るまでやり切ったら――頑張れ踊りのプロ認定




