豆狸のままはどこ?
「次の依頼や」
放課後、校門の前。
私は帰ろうとしていたところだった。
「今回は平和ですか」
「子どもや」
「安心しました」
「迷子や」
私は立ち止まった。
「神様ビジネス、難易度調整壊れてません?」
稲荷さんはいつもの穏やかな顔で言う。
「京都御苑や」
⸻
夕方の京都御苑は、街の音が遠かった。
砂利を踏む音だけが続く。
「たぬき多いんですか」
「多いで」
「観光案内みたいに言わないでください」
そのときだった。
木の根元で、何かが動いた。
小さな茶色の塊。
私はしゃがみこむ。
「ぬいぐるみ?」
塊がびくっと震えた。
ころん、と転がる。
小さな狸。
手のひらに乗りそうなほど小さい。
「……ちっちゃ」
「君、思ったことそのまま言うな」
「稲荷さんも思いましたよね」
「思った」
⸻
まめ狸は震えていた。
「おかあちゃんが……」
かすれた声。
「はぐれた……」
私は目線を合わせる。
「名前は?」
「まめ……」
「そのまま」
「そのままやね」
稲荷さんが周囲を見渡した。
静かな声。
「匂いが薄い」
「匂い?」
「親の気配が残ってへん」
嫌な予感がした。
「最後に見たのは?」
まめ狸は震えながら言った。
「人間がいっぱい来て……」
私は息をのむ。
「観光客……」
稲荷さんが小さく頷いた。
「連れて行かれた可能性、高いな」
夕方の御苑に、静けさが落ちた。
私は思った。
神様ビジネスは、思っていたより重い。
まめ狸が小さな声で言った。
「びっくりして……ぬいぐるみに化けたら……」
嫌な予感が、確信に変わる。
「そのまま……連れていかれた」
私はゆっくり空を見上げた。
「それ、完全にお土産です」
稲荷さんが小さく言う。
「観光客のお土産に最適やね」
私は深くため息をついた。
「つまり次は、人間相手の交渉ですね」
稲荷さんが微笑む。
「せや。商売の時間や」




