河童の皿はどこへ消えた?(後編)
「昼寝してたら……イタズラ坊主が……」
河童はデルタの石の上で泣いていた。
「僕の皿を拾って走っていったんです……」
稲荷さんが腕を組む。
「子どもか」
「子どもですね」
「悪意がない分、厄介や」
私は嫌な予感がした。
⸻
数分後、稲荷さんの“神様ネットワーク端末”に表示された文字。
くら寿司 河原町店
私は二度見した。
「待ってください」
「なんや」
「嫌な予感がします」
稲荷さんはさらっと言った。
「皿、洗い場に流れとる」
「どういうことですか」
「寿司屋の皿は最終的にどこ行く思う?」
沈黙。
「洗い場ですね」
「せやね」
私は頭を抱えた。
⸻
店の前。
家族連れ。観光客。学生。
普通の夜。普通の回転寿司。
「どうやって回収するんですか」
「潜入やね」
数分後。
私は制服を着ていた。
「なんで私がバイト潜入なんですか」
「神様は履歴書通らへんから」
「納得したくない」
⸻
厨房の奥。
大量の皿。
無限に流れてくる皿。
「ここ地獄では?」
イヤホン越しに稲荷さん。
『その中に混ざってる』
「河童の皿、寿司皿と同化してません?」
『気張り』
⸻
皿を洗う。拭く。積む。
白。青。白。青。白。
そのとき。
一枚だけ、微妙に違う皿。
少しだけ丸い。
少しだけ光っている。
「絶対これ」
手に取った瞬間、ほんのり湿った気配。
「河童の皿!!」
イヤホン越しに笑い声。
『当たりやね』
⸻
裏口。
皿を河童に渡す。
頭に乗せた瞬間、水が跳ねた。
「力が戻ったぁぁ!!」
元気すぎる。
「ありがとうございます!!」
稲荷さんが手を差し出す。
「ほな、報酬」
差し出された小袋。
中には光る石。
「川底の宝石です!」
稲荷さんが満足そうに頷いた。
「ええ商いや」
⸻
帰り道。
夜の鴨川。
「初バイトどうやった?」
「労基案件です」
稲荷さんが笑った。
「でも君、楽しそうやったで」
少しだけ考える。
怖くて、疲れて、意味不明で。
でも。
「……ちょっとだけ」
稲荷さんは微笑んだ。
「ほな次も頼むで、相棒」
その言葉が、少しだけ嬉しかった。




