河童の皿はどこへ消えた?
「出町柳のデルタ近くに河童が住んでるんやけど」
放課後。
教室の窓から見える夕焼けをぼんやり眺めていた私に、稲荷さんがさらっと言った。
「待ってください。今、さらっとすごいこと言いませんでした?」
「何がや?」
「河童って“いる側”なんですね?」
「君、昨日なにを商売にしよう言うてたん?」
私は口を閉じた。
そうだった。
神様のお悩み相談で稼ぐ。そういう契約だった。
「で、その河童がどうしたんですか」
稲荷さんはスマホみたいな板を取り出した。
神様からの依頼が届くらしい。便利。
「皿なくしたらしい」
「致命傷じゃないですか」
「致命傷やね」
即答だった。
⸻
夕方の鴨川。
出町柳のデルタは、学生と観光客と犬で溢れていた。
私は橋の上から川を覗く。
「どこにいるんです?」
「おるやろ」
「いや分かりません」
「ほら、あそこ」
指差された先。
石の影。水の揺れ。
――いた。
緑色。くちばし。体育座り。
「ほんまにいる」
河童は私を見ると、泣き出した。
「うわあああああああん!!」
「えっ!?」
「皿がぁぁぁ!!」
「いや泣きすぎじゃない!?」
⸻
事情はこうだった。
・昼寝していた
・起きたら皿がない
・乾いて死にかけている
「死活問題やないか」
稲荷さんが腕を組む。
「皿って外れるんですか」
「外れるで」
「外れるんだ」
知らなかった。
河童は必死に訴える。
「皿がないと水が溜まらないんです!!」
「いやそりゃそう」
「皿がないと力が出ないんです!!」
「アンパンマン方式」
稲荷さんがため息をついた。
「君、ツッコミが軽い」
⸻
私はしゃがみこんだ。
「最後に見たのは?」
「昼寝する前です…」
「場所は?」
「この辺です…」
稲荷さんが川を見渡す。
「人間に拾われた可能性高いな」
「え?」
「珍しいもんやしな。持って帰ってまうやろ」
私は青ざめた。
「つまり今、人間の家に“河童の皿”が」
「あるかもしれへんな」
「ホラーじゃないですか」
⸻
稲荷さんがにやりと笑った。
「ほな、商売の時間や」
「初仕事ですね」
「せやね、相棒」
その言葉に、少しだけ胸が高鳴った。




