その甘党ジジイ、事件につき。
「……。」
「…………。」
「ダメですよ。」
元准将殿が、俺が持って来た土産に手を伸ばそうとしたところで、ペシッと払いのける。
普通なら持って来た土産なんて、是非とも喜んで食べてもらうものなのだろうが、このジジイ…いや、元准将殿は、既にロリポップキャンディを32本も食べた後。
…『甘いものが好き』と聞いて持って来た土産を今食べたら、確実に糖分過多で寿命を縮めてしまう。
絶対に食わせてなる物かと、失礼ながら土産は下げさせてもらった。
先ほど、互いに取っ組み合うというトンデモな失礼を働いたのだ、このぐらいの失礼は些細な事だろう。
俺は、重たいため息を吐き出しながら、前管理者からもらった資料をパラパラとめくり、元准将殿について再度確認する。
何度見ても人間に対する資料とは思えず、読み上げる前に2度目のため息が奥からせり上がりそうになった。
・桜木 敏之 【元准将】
・西暦2023年生まれ
・AB型
・肉体種可変数 4
……”肉体種可変数”。
これは、元准将殿にしか見られない表記だ。
まぁ、ざっくり言うと変えられる姿の数を表している。
Project.RE:GENE
30年ほど前に行われた実験の名称で、彼はその第一被験者だった。
当人の好物をトリガーに、肉体を一定の年齢に若返らせ”長期間戦える戦士”を作るという実験なのだが、実験開始当初は何もかもが手探り状態だった為、可能性を広げるためという最悪な大義名分で、かなり無茶な実験を行われたようだ。
詳細な事は伏せられているのだが、2年間という期間の中での実験試行回数が、明らかに常軌を逸している。
それだけで、どれほど無理な投薬や調整が行われ続けたのだろうと容易に想像がついた。
その上、前管理者から
「普通なら、変えられる姿なんて一つが限界なんだよ。体への負担も大きいし、そう何度も年齢を切り替えるもんじゃない。」
と、聞かされている。
現在との年齢差や違いが少なければ少ないほど体への負担は小さい為、若返った者は定期的に進んで好物を摂取し、そのままの状態を維持し続けるそうだ。
「彼はもう退役した身だ。年も七十三歳だし、無理はさせたくなかったんだけどね。
普並君も、ある程度は気を付けてあげて…」
そう付け加えた前管理者の言葉は、歯切れが悪く、妙なやりきれなさを滲ませていた。
…そんな状態で、目の前で何事もないような顔をして元の姿に戻って見せた元准将殿。
こんな悲惨な事実を知っている状態で、こんな事を考えるのは俺自身若干不快ではあるが「この爺さんバケモンか?」という言葉が頭を過る。
その上、可変後の姿の詳細に「少年化」「青年化:A」「青年化:B」。
そして…――「女性化」の文字。
正直本当に想像できない。
というよりも、したくない。マジで。
こんな髭面のジジイが…と、ちらりと顔を上げて元准将殿の様子をうかがうと、その手がキャンディの入った器に向かう事はないが、視線が釘付けになっていることに気づき
「あ、このジジイ。甘味狂いの ただのバケモンだ。」
と、俺は淡々と結論付けた。
「では、ここに書かれてあるのは事実なんですね。」
「あぁ。」
「キャンディで少年化、チョコレートで青年化:A、クッキーで青年化:B…。そしてホワイトチョコで…――。」
あ。今この爺さん凄い渋い顔した。
そうだよな、こんなガチムチマッチョで髭面の”漢!”って感じの姿を貫いてきた人からすると、真逆の姿になるのは違和感凄いだろうな。いや、女姿でもガチムチマッチョかもしれないが。
その証拠に、元准将殿の視線は、キャンディから天井のシミへと移っていた。
「…確認は以上です。ご協力ありがとうございます。」
「……うむ。」
……なんだろう。返事も心なしか弱く感じ…妙に……気まずい。
業務上必要な事なのだが、どうしても踏み込み過ぎた感が否めない。
重たい静寂の中、流石に謝罪しようかという思考を割くように、こちらに来る前に軍から渡された連絡用端末が着信音を激しく鳴らした。
「すみません、少し失礼します。」
その言葉を伝え、元准将殿から少し体を背ける。
若干「助かった」と思ってしまう自分に嫌気がしつつも通話をつづけた。
「――…新都各地でリジェネ被害?」
空気が変わる。
元准将殿の視線は、既にこちらに戻っていた。
しかし、この人は既に俺の目の前で年齢可変を行った後。
もう一度となると、体の負担も相当大きいだろう。
流石に現場に出すことは憚られる。
「A、B、C地区にて暴徒…いやしかし、その規模であれば他の兵を…って、あっ、ちょ…――!?」
「了解した。」
元准将殿に端末を奪われ、勝手に切られてしまった。
「ちょ、ちょ、ちょ、待ってくださいよ!!」
「…バイクの免許は?」
「持ってますけど!!待ってくださいよ、元准将殿!!」
「銃も携帯しているな。」
こっちの話なんて聞きやしない。元准将殿は、俺が銃を仕込んでいる胸元ポンと叩くと、勝手にズンズンと準備を始める。
前管理者にもこうだったのだろうと考えると、あのやつれようも頷けるってもんだ。
手にグローブをはめ、そのまま外へ出ようとする
「ストップ!ストップ!!元准将殿!!アナタ、もう既に一回可変してるんですよ!?流石に体に負担が…――」
言い終わる前に、鍵と黒いフルフェイスヘルメットをなげられる。
「一回しか姿を変えられんのなら、軍はもうとっくにワシを手放しとるわ。」
「はァ…!?」
『体への負担も大きいし。』前管理者の言葉が、何度も頭の中を駆け巡る。
いくらデカくて強い爺さんとは言え、73歳の爺さんだぞ?その上、俺はあの可変時の肉や骨がミシミシと恐ろしく鳴る様子を、この目で見ている。
正直このままでも十分に戦えるだろうが、それは相手がリジェネを使用していない場合ぐらいだろう。
しかしこの爺さん、いくら止めても、腕を引っ張っても、右足にしがみ付いても、歩みを止めやしない。
俺だって、制圧に関してはそこそこいい結果出してんだぞチクショー。
いや、取っ組み合いをしてこの人には敵わないってのは解ってるけど。
俺が必死こいてる間に、あっという間にガレージが開かれる。
そこには、二台の黒いバイクが並んでいた。
片方には赤いライン、もう片方には青いラインが刻まれている。
ふと渡された手元のヘルメットを見ると、バイクと同じ赤のラインが入っていた。
「エンジンをかけて、またがっておけば勝手についてくる。」
それだけ言うと、腰に何かのデバイスを下げ、元准将殿はさっさとバイクにまたがってしまう。
きっと、こうなってしまうと もうこの人が止まる事はないのだろう。俺は前管理者に何度目かの同情をした。
諦めて准将殿と同じようにバイクに乗り込み、俺もヘルメットをつける。
「右の側面。さっき使っていた連絡用端末を差し込むポートある。画面を内側にして入れておけ。」
「端末のポート…?」
あぁ、あった、これか。
そう思いながら、恐る恐る端末を縦長のポートに差し込む。
――Now Loading…――
「うわッ!?」
突然視界の中央に現れた、場違いなほどゲーム的な画面。
文字の下にはバーが表示されており、それが徐々に満たされて行くのが解る。
「な、なんですかこれ!!」
「ロードが終われば、軍から送られた情報がそこに全て出る。ポインターは視線で行う。うまく使え。」
「は、はぁ…。」
暫くすると、端末に送られた情報が一気に並べ立てられた。
あまりの情報量に若干目が回りそうになる。
だが、それぞれの情報が丁寧にまとめられている為、なんとか落ち着いて見る事が出来た。
左上には現場にピンが差された衛星からのマップも表示されているようで本当にありがたい。
ヘルメットの右側にはボタンがいくつか並べられており、PCのマウスのように使えばいいと元准将殿に教えられた。
そのおかげで必要な情報のみに絞る事ができ、目の前はかなりスッキリと周囲が見まわしやすくなる。
「すげぇ……あぁ、いや凄いですけど、なんでこれ軍は教えてくれなかったんです?こんなの絶対情報共有するでしょ…。」
「当たり前だろう。」
「え?」
「5日前に完成させたばかりだ。」
「…はァ???」
その瞬間、バイクはぶっ飛ぶように急発進した。
自分の意思とは関係なく、次々と周りの風景が過ぎ去っていく光景に、俺はとにかくバイクのハンドルを握りしめて叫ぶしかなかった。
「待って!!!死ぬ!!!!マジで!!!ダメ!!なんで!!??
5日前って何!!!??」
「コレについての軍への報告は?」とか「試験走行はしたのか」だとか「そもそも法律的に大丈夫なのか」など、様々な言葉が浮かんでくる。
だが、まず何より”ヘルメット一つだけで俺の意思で動かせないバイクが爆走している”という恐怖で全てがごちゃ混ぜになってしまう。
「落ち着け。試験走行では問題なかった。」
――…あーそうかぁ、問題なかったのかぁ…。
じゃあない!!
それはそうだけど、今はそういう問題では断じてない!
この勝手にぶっ飛んでいくバイクが怖…――。
元准将殿は少し離れた前方を走っているのにもかかわらず、すぐ耳元で声がする事実に気づく。
なるほど。どうやらヘルメットには通信機能も兼ね備えているらしい。
これは確かに使える、と前方の元准将に目をやると……野郎、ヘルメットをしていない。
左手を耳に当てるようなポーズをしてやがる。恐らくインカムでやり取りしているのだろう。
ヘルメットを使え。
法律はどうした。
事故っても知らんぞジジイ。
そんな言葉が頭に滑り込み、腹が立つことに少々冷静になった。
「で、状況は。」
「…現在出動要請が確認されているのはA、C地区。最も大きな規模の暴動起こっているB地区にはすでに対リジェネ兵が三名派遣されています。」
「なるほど。A、Cの被害状況は?」
「A地区には暴徒三人。住民の避難は済んでいるとの報告在り。現在は新都軍の一般戦闘兵が応戦中。C地区では暴徒は二人。ですが、まだ避難は完了できていないとの事。一般兵の負傷者も多数。」
「ならばCから沈める方が先か。」
「はい。C地区へは百メートル先、左方向に曲がればすぐです。」
「了解した。」
その言葉と共に、俺のバイクも減速する気配もなく、左へと車体を傾けた。
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「ぐァッ…!!」
「ヒャーーーーーーッハァ!!!!脆い脆い脆いィ!!
ェエ何ィ!?俺ら人間ってリジェネ入ってねーと、こんなに脆いかったっけェ!!??」
「こんなん腕試しにもなんないじゃんねぇ?」
……C地区。複数の路線が交差する巨大ターミナル。
地上、地下、さらには自動運行路線専用の高架もあり、昼夜を問わず人の流れが途切れる事はない。
その上、付近には地下の飲食街、デパートなども立ち並んでおり、それぞれの守備にあたらねばならず、兵も分散してしまっている。
自動運行路線の高架は一部分断され、未だ人が取り残される陸の孤島と化し、高架の上方や駅構内からの悲鳴が断続的に響いていた。
そんなC地区で、二人の男と新都の兵が交戦を続けている。
1人は荒々しく兵を次々となぎ倒し、もう一人は兵の持っていたライフルを手元で易々と折り曲げ、メキメキと音を立てながら、ただの鉄くずへと姿を変えるという異様な光景だ。
幸い民間人の負傷者は目立たない。
が、兵の負傷が多く見られ、かなり危機的状況だと言えるだろう。
「こんなん、首掴んでギュっとすれば、一発で骨コキーっと行けちゃうんじゃねぇ?」
先ほどライフルをへし折った男が、兵の首に片手をかけ持ち上げる。
兵は男の腕を引きはがすことが出来ず、足をバタつかせるのみであった。
「新都の兵ってこんなもんなんだねぇ。
じゃ、コイツも…――。」
――瞬間。醜悪に笑う男の声をかき消すようにエンジンの爆音がとどろく。
―――ッドンッ!!!
青いラインを描く黒い鉄の塊が、兵を掴む男の顔面へと勢いよく突っ込む。
あまりに重い衝撃に、耐え切る事の出来なかった男の体は、兵と共に宙を舞った。
「ァんのジジイ、ガチで轢きやがった…!!!」
…失礼、思わず口から素直にジジイと出てしまった。元准将殿が聞いてない事を祈りたい。
俺も一拍置き、現場へ。
投げ出された兵を回収し、ひとまず後方へ下がる。
「オォオイ!オイオイィ!!でーじょぶかよォ!!」
「ィってェ…!なんだよあれぇ…!!」
全ての視線が、元准将殿に向けられる。
そして、やたらとうるさい声のデカイ方の男が、飛び込んできた者が老人と判るや否や、急に調子づき始めた。
「ブッヒャヒャヒャ!!オイオイオォイ!!おっめぇさァ!!こんなジジイに轢かれてんなよォ!!!なっさけねェ~~~!!!」
おいおい。ちゃんと見ろ。ジジイだけどヤバい筋肉してんだろ、この人。
リジェネは認識までゆがめてしまうのだろうか。
「たとえ鍛えていようが、所詮はジジイだろォ!?サクーっと敵とってやっから見てろ見てろォ!?」
無事、元准将殿の筋肉は目に入っていたようだが、やかましい男は勢いを崩さない。
むしろ准将殿へ向かって単身突撃していく。
「ヒャーーーーッハァ!!!ジジイも消し飛べエエェッ!!!――
―――………ア?」
―――…ゴッッ!!!!―――
…一瞬だった。
男は、飛び込んだ勢いそのままで、アスファルトが砕ける音と共に踵から地面へとめり込む。
見ると、元准将殿が男の頭上から拳を振り下ろしていた。
その衝撃で、男の体ごと地面へとめり込んだのだと、遅れて理解する。
「バ、バ、バ……バケモンかよぉお…!!!」
もう一人の男は、その光景に少し怯んだらしく、若干後ずさった。
「軍が…新都軍がリジェネ使ってるジジイ出して良いのかよぉ!!!」
男は半狂乱になり、足元のアスファルトに両手をねじ込む。
恐らく接近戦では二の舞になる事を悟ったのだろう。ベキベキと音を立てながら、アスファルトを引っぺがし、巨大な一枚の板にした。
「おめーら…おめーら全員ぶっ潰してやるよぉ…!」
「ッ…!!元准将殿ッ!!!」
俺は咄嗟に、胸元に仕込んでいた小口径の銃を構える。
リジェネ使用者に対し小口径なんて意味がない、解っている。だが、あの距離では流石の元准将殿も間に合わない。
ならばせめて…――!!!
「普並ッ!!!!!!」
その元准将殿のバリバリと轟く声で、俺の動きは止まる。
「…ワシがやる。」
アスファルトの板は、元准将殿に向かって投げられた。
あまりにも大きなその板は空気抵抗を受けながらも、かなりのスピードで元准将殿に向かって行く。
その様子に居てもたってもいられず、俺は一歩踏み出していた。
が、
一閃。
中央に溶かし斬られたような線が入る。
それを皮切りに、次々と新たに溶断された跡を作り、いとも簡単にガラガラと崩れ落ちていく。
「な、なんだよ今のぉ…!?」
「なんだ、知らんのか。」
ザッと足音が鳴る。
崩れたアスファルトのかけらを足で除けながら、男の方へと白髪をなびかせながら向かって行く細身の影がある。
男はその陰に怯え、辺りの瓦礫を手当たり次第に投げ飛ばした。
「ただの直刀型のエネルギーブレードだ。
お前も”リジェネ”なんぞ使うほど裏社会に浸かっておるなら、この程度知っておるだろう。」
細身の男は、投げ飛ばされた瓦礫をブレードで焼き切りながら、前へ前へと進んでいく。
「ちがッ…!!そうじゃ…そうじゃねぇよぉ!!なんで…なんで…!!?」
男も、瓦礫を投げる手を止めない。瓦礫は弾丸のような速さで飛び続けている。
が、その瓦礫は むなしくブレードで溶断されて行くばかり。
白髪の男も歩みを止める気配はなく、指先でクッキーの食べカスを拭いながら、ずんずんと男に近づいていく。
「なんで…ッ!!若返ってんだよォーーーーーー!!!!!」
…―――桜木 敏之。青年化:B。
今この場を見て名付けるなら「ブレードスタイル」だろうか。
向かい来る瓦礫をブレードで切り崩しながら進む姿は、細身ながらも圧倒的な威圧感を放っている。
「来るなッ…来るな来るな来るなぁーーーーーーッ!!!!」
――ブレードの刃が消える。
その瞬間、元准将殿も姿を消した。
次に目に入ったのは、男の眼前。
腹部に刃を収束させたエネルギーブレードの峰をたたき込み、大きな弧を描いて宙へと舞わせる。
目の光が消えた男は、そのまま地面へと落ちて行った。
が、まだ終わらない。
先ほど元准将殿の一撃でアスファルトに埋められたはずの やかましい男が、あの穴から這い出てきたのだ。
まさに無我夢中といった様子で拳を振るう姿は、まるで猛獣のようであった。
「ほう、肉弾戦か。」
元准将殿は、光の無いブレードで拳を受け流し続ける。
冷静に対処はしているが、不規則に飛ぶ拳に防戦一方だった。
「まだ他の現場もある…――致し方なし、か。」
…ん?今、元准将殿 滅茶苦茶嫌そうな顔しなかったか?
元准将殿は一歩下がり、ブレードを腰につけなおす。
そして腰の辺りから何かを取り出し、カシャ、と音を立てながら白い何かを口元に放り込んだ。
「…あっ。」
出立前に共に情報整理した俺は、気が付けば口から声が出ていた。
元准将殿の背が、わずかに縮む。
その違和感に目を奪われる間に、細身だった腰回りはさらに細くなり、胸元は柔らかな球を描いた。
…何だろう、見ちゃいけないものを見た気分になって来た。
「な、なんだァ!!???こ、こいつッ…
”女”になりやがったァア!!???」
「…。」
…――女性化。
当人が一番なりたくなかったであろう姿。
…名付けるなら、ホワイトチョコでこの姿になる事から「ホワイトスタイル」だろう。多分。
「ギャアッハッハッハッハ!!!なんだァ!??その姿はよォ!!!
俺の強さを見て、ビビって可愛がって欲しくなったのかァア!!!??」
さっきアスファルトに埋められた身で、よくそんなイキれるな。
そう思いながら元准将殿に視線を向けると、「不快」といったオーラが全身からダダ漏れている。
正直、さっき見た細身の姿よりも恐ろしさは上がっている気がする。
そんな気配を一切感じ取らず、男は元准将殿に向かって突進していった。
「だったらよォ!!!!めいっぱい可愛がってやんぜェェエエエ!!!!」
男の拳が飛ぶ。
が、当たらない。
寸での所で体を捩じり、するりと躱す。
何度男が拳を振るおうとも、一切当たらない。
柔軟に、スルスルと滑るように拳を躱しながら、懐に入りこんで行く。
その姿はまるで踊っているように見えた。
「くっそォオ!!!なんでこんなに当たんねぇんだよォ!!!!」
当たらぬ拳に、男も憤り始め、だんだんと振りは大雑把になっていく。
その様子を、元准将殿は見逃さない。
一歩踏み込み、男の顎に勢いよくハイキックを叩き込む。
唐突な強い衝撃に男の脳は激しく揺れ、そのまま後ろへと倒れこんで行った。
……圧倒的な強者がつける決着など、あっけない物なのだと思い知らされる。
あまりのあっけなさに呆けている間もなく、そこで のびている二名のリジェネ使用者を回収するよう、俺は今動ける兵に指示を出した。
その間に、元准将殿が投げ出された自身のバイクを回収し、こちらへ戻って来る。
「あ…お疲れさまです。」
深呼吸をする元准将殿に、声をかける。
……落ち着いて近くで見てようやくわかったのだが…。
元准将殿、ホワイトスタイルだと滅茶苦茶スタイルが良い。胸もデカい。うわ、気づきたくなかった。
その上唇もつややかで、まつ毛も長い。正直滅茶苦茶カワ…―――。
――パァン!!!!!!――
俺は自分の両手で頬をぶっ叩き、正気をたもった。あっぶねー…マジで。
その横で、元准将殿は「はも」と飴を咥えて少年の姿になり、バイクに飛び乗る。
「普並。次だ。」
その言葉に答え、俺もバイクに乗り込む。
もう迷いはない。
この人なら、何だって解決できる。
「残りはA地区。国道沿いに出たほうが早く到着できるかと。」
「…あぁ。」
返事を返す声は幼い。が、妙に頼もしい。
見た目は変わるが、勇ましく戦うあの姿が脳裏に焼き付いているせいだろうか。
前管理者が「栄誉ある事」と言っていた意味が、少しわかったかもしれない。
俺はこの先、リジェネ撲滅の為、桜木殿をサポート…―――
「普並。」
「はい?」
「足、届かん。」
…バイクのステップに足が届かず、桜木殿はプルプルとしている。
やっぱダメかもしれない。そう思いながら、俺は2台のバイクを少しゆっくりめに走らせた。




