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あの頃と同じ、欠けた月。  作者: じうかえで
第一章 君嶋友斗
2/6

2 ふたつでひとつ




 実家から歩いて五分もかからない場所にある公園は、幼い頃毎日遊んでいた場所だった。

 閑静な住宅街のひと区画をまるまる使った、だだっ広い公園だ。

 砂場に滑り台、アスレチックのようなもの、そしてブランコ。奥の広いグラウンドでは、週末になると町の少年達が野球をしていた。

 足を踏み入れると、今ではもうぼんやりとしか思い出せない思い出たちが、次々に蘇ってくる。


 昔は、木の上や足元の茂み、滑り台、藤棚の下の陰なんかが、キラキラしたお城のように見えていた。

 ブランコで靴飛ばしをするのが好きだった。ブランコを高く高く、一回転してしまいそうなくらい漕いで、靴を片方飛ばす。そして、誰が一番遠くまで飛ばせるかを競うのだ。僕はいつも、負けてばかりだった。

 鬼ごっこもした。かくれんぼもした。自分達でいろんなルールを追加して、毎日飽きもせず公園中を駆け回った。


 いつも二人で遊んでいた。たまに、クラスの奴が加わることはあったけれど、それでも僕達はいつも、二人組だった。



***



 僕達は、幼稚園が同じだった。

 僕の名前は君嶋友斗(きみしまゆうと)。彼の名前は角野友樹(かどのゆうき)

 名前順が前後で、下の名前が同じ字で始まる。二人とも、お母さんに『ゆうくん』と呼ばれている。家が近い。

 仲良くなったのは、そんな理由からだったと思う。


 僕達は、どこへ行くにも一緒だった。

 幼稚園では、二人で折り紙も塗り絵もパズルも二人でやった。かくれんぼをするときは同じ場所にくっつきあって隠れた。遠足の時は、二人でずっと手を繋いでいた。


 それは、小学生になっても変わらなかった。

 入学式では、同じクラスになれたことを喜んだ。二年生でクラスが離れても、僕達は一緒に登校し、一緒に帰った。誰もが認める仲良しだった。

 喧嘩など、一度もしたことがなかった。

 自分達が離れ離れになることなど、想像したこともなかった。



 僕らはふたつでひとつなのだと、心のどこかで思っていた。



 だから、その関係が壊れた時、僕達は何もできなかった。

 どうすればいいのかわからなかった。だって、初めての経験だったのだ。

 友樹と喧嘩するなんて。



 中学生になり、僕達は陸上部に入った。

 友樹が、陸上部がいいと言ったからだ。オリンピックの百メートル競走をテレビで見て、密かに憧れていたらしい。

 僕は本当はテニス部に入りたかった。けれど、友樹に「お前も陸上部に入るよな!」と笑顔で言われたら、頷くしかなかった。

 友樹が陸上部なら、僕も陸上部だ。なぜなら僕らは、ふたつでひとつなのだから。



 少々複雑な気持ちで入部を決めた陸上部は、思いの外楽しかった。

 僕達はもちろん短距離を選び、百メートル専門の選手になった。

 昔から、僕よりも友樹の方が、何事もよくできた。それは部活でもそう。彼の方が、少しだけ足が速かった。

 だから、僕は追いつけるようにと練習に打ち込んだ。

 友樹も、そんな僕の自主練に付き合ってくれた。


 毎日、放課後練が終わった後、公園で二人で自主練をした。

 お互いにお互いのフォームを見合って、アドバイスをし合った。

 疲れたら、ブランコを揺らした。たまに、薄暗い夕闇の中、ぽっかりと浮かぶ月に向かって靴を飛ばした。


 そんな日々も二年が過ぎ、僕達は三年生になって、夏の試合がやってきた。引退試合だ。


 

「友斗!」


 朝の集合の時、友樹は調子がよさそうに見えた。


「今日の百メートルの予選、お前が走るのって俺の次の組だよな!」

「うん、そうだけど」


 この時の僕は、友樹よりも自己ベストのタイムが遅かった。

 この日行われる大会は県大会の地方予選で、各種目七位までが県大会に進める。僕達の出場する百メートルは予選、準決勝、決勝が行われ、決勝に残った八人が地方入賞、というかたちだ。

 友樹は、自己ベストと同じタイムを出せば決勝確定だと言われている、チームのエースだった。

 それに対して僕は、準決勝止まりだと陰で言われているのも知っていた。僕だって決勝に行きたい。けれど、その座は友樹のものなのだと、心のどこかで思っていた。

 けれど友樹だけは、僕の可能性を信じてくれた。


「絶対、二人で決勝行こうな!」


 友樹は、朝も、ウォーミングアップの時も、スタートの前も、そう言って笑った。

 そんな彼を見ていると、僕も自信が湧いてきた。


「うん!」


 自分も決勝に行けるかもしれない。

 友樹と走りたい。できれば、隣のレーンで。ふたりでひとつになって走りたい。




 しかし、その願いが叶うことはなかった。

 百メートル予選。彼なら簡単に突破できると、誰もが口を揃えて言っていた。



 ――しかし、友樹はその予選を走らなかった。



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