私とヒロインの推し
よろしくお願いします
「ミナミ、どうしたんだい」とあなたが問う。
「…いえ、なんでもないです」と私は笑う。
あの子があなたのルートを選ばなくて良かったと安堵しながら。
私は悪役令嬢でこの世界は前世でやっていた
乙女ゲームの中だと、九歳の時に思い出した。
私はこの乙女ゲームのストーリーが好きだった。
聖女のヒロインが攻略対象5人の誰かを攻略でき、
ハッピーエンドでは悪役令嬢が断罪され、国外追放などの罪に問われる。たしか最も軽い罪が自宅謹慎3ヶ月、最も重い罪は死刑。振り幅が大きい。
私は六歳の時に、亡くなった本物の公爵令嬢の代わりに孤児院から引き取られた。馬車の中で執事長に簡単な説明をされ、これからはシルヴィア・パケットと名乗るように言われた。
それから私は第二王子殿下、サイラス様の婚約者にならないように、はしたないといわれる園芸や料理を積極的にやったり、淑女の嗜みである手芸をわざとサボってみたりした。が、婚約は撤回されず私とサイラス殿下は貴族学院に入学する14歳になった。
おそらくおもしれー女枠に入っているんだと思う。
婚約者になって少し経ったあと、私は彼に前世のことを話したから。シルヴィアではなくミナミと二人の時は呼んで欲しいと頼んだ。
ヒロインは来年から入学してくるはずだから他の攻略対象とも仲良くしておかないと。と、何かのイベントの時には側近さんたちもどうぞと差し入れをし、騎士団の訓練を見学したり、我が家に何故か護衛として雇われている元凄腕暗殺者にこの人の素性と居場所を探してきてと頼んだりした。
そんなこんなして一年がたった。
殿下とはまぁまぁ仲がいいと言えるはずだ。
昼休みは一緒に食べているし。
いよいよ、ヒロインが学院にやってきた。
彼女が転生者かはわからないけど、
ルートは公爵子息狙いだろう。
できれば一番接点がない騎士団長ルートにして欲しかったんだけどな。とりあえず、2人の様子を観察しようかな。
「ユーリ様、こんにちは!」
「…ああ。」
「あの、きょうお昼ご一緒してもいいですか?」
「…今日は図書館に入り浸る予定だ。」
「そうなんですか。私もちょうど課題が残っていましたし、図書館にいこうかな。良かったら教えてくださいよ。」
「…先生方に聞いたらどうだ。」
「いえ、ユーリ様頭いいですし説明がわかりやすいんです。ぜひ教えて欲しいです。」
いい感じですね。ライナス様はあまり話さない人なんですよ。あの感じは少し戸惑ってますね。
「ミナミ、何やってるの?」
と上から声が降ってきた。
後ろを振り向くと、サイラス殿下がいた。
「ええっと、2人が気になってですね。
陰で応援しようかと。」
「ふーん。じゃあ俺も参加していい?」
「いいですけど。」
私たちは2人を陰から見守って応援するようになった。
サイラス様までいる必要はないと思うんだけど。
俺がミナミと居たいだけだからと断られた。
観察していてわかったのは、あの子も転生者ということ。乙女ゲームに出てきた学園内のベンチによく座っていたり、試験の結果を見て「ぴったり取れなかった。」と呟いていたり。
こっそり覗いたらゲーム内のヒロインが90点だった
テストで87点だった。
…それでもすごいんですよ?
クラスの平均点を超えていますし。
私ら貴族は小さい頃から家庭教師に習ってるのに
あの子は元々平民なのだから。
一番決定的なのは、
ユーリ様が私に相談してきた内容だ。
「シルヴィア嬢。…“推し”という言葉の意味を知らないか。アリア嬢が言っていたのを調べたんだが誰も知らなくてな。知り合いの中だともう君が最後なんだ。」
「アリア嬢とは最近あなたと話しているのを見かける編入生の方であってますか?」
「あぁ、推しが名詞らしいことはわかるんだが…」
「…そうですね。ではその前に私の質問に答えてもらいましょうか。」
「答えられるものなら。」
「ユーリ様はアリア嬢のことをどう思っていらっしゃるのですか?」
「…大切な友人だ。」
(まだそこまではいっていないですか。)
「そうなんですか。では質問の答えは秘密にしますが、ヒントを差し上げます。」
周りを見てから声をひそめて伝えると
「なるほど。礼を言う。」といって彼は去った。
「ミナミ、ユーリと何を話していたのかな。」
あら、笑顔に圧が込められています。
「殿下、私は何もしていないですわ。ただ彼に
情報を渡しただけです。」
「…君は俺の婚約者だろう。ユーリとはいえ他の
異性と2人で話すのは宜しくないよ。」
「まぁ。密室でも人気のない場所でもないのですからいいと思ったのですが…これからは気をつけますわね。」
「ね、最後に言ってたセリフ聞こえなかったから教えてよ。」
「…今言うのは気恥ずかしいのでイヤですわ。(前世をカミングした時ならともかく今更本人を前にして言うことではないですし)」
「うーん。じゃあ俺次の試験で学年トップでミナミより点が高かったら教えてくれる?」
「ええ。楽しみにしています。」
私と殿下はいつも満点のツートップである。
今度はどんな仕掛けを準備してくるんでしょう。
ー私に例えるなら、私の最推しはずっと前から殿下だけです。恋人とかいう意味ではないですからね。
誤字脱字あったら教えてください。