【第4話(終)】生きてるだけで、皆優勝
☆この漫画はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
☆パロディ作品です。
「キンピラゴボーッ!!」
天空を裂くような咆哮が轟いた。
七色の翼を大きく広げ、白銀のうろこが朝日を反射してきらめく。
それは「スキナ・ソウザイ・ハッピョウ・ドラゴン」。三柱の神々のカードが導いた、王国最後の希望だ。
「来たな……ショウォォォッ!!」
地上では、鉄の巨人「フメバ・タスカルノニ・ロボ」が軋んだ音を立てながら振り向く。
巨大な両足が振り上げられ、城下町の家々を――夢も希望も――「ブリン!バン!バン!ボンッ!」という破壊音と共に踏みつぶしていく。
「はははは!おらぁッ!この街を踏めば踏むほど、俺の勝ちだあああッ!」
操縦席の中で、イッペは狂気にも似た笑みを浮かべていた。
かつての友、かつての騎士。正義感と愛に満ちたあのショウが、空の彼方から迫っているというのに、イッペの手は止まらない。
だが――
「イッペ、やめろ。それ以上、誰の夢も踏み潰すな!」
声が空から降りてきた。スキナ・ソウザイ・ハッピョウ・ドラゴンの背に立ち、風をまとった騎士ショウの姿があった。
両の手には、もうあの馴染み深い二刀流の剣はない。
握られていたのは、一本の細身の剣――輝くような白銀の刃。
「その構え……まさか……!」
イッペの表情が歪む。
「そうだ。これは一刀流。今年から密かに学んでいた、パワーとスピードを兼ね備えた俺の最終奥義……『フィフティ・フィフティ』!」
ショウが構えた瞬間、世界が静止したかのように空気が張りつめる。
風が止まり、雲が避け、ドラゴンの瞳が鋭く光った。
「いっけえええええええ!!」
空中で剣を構えたショウが、スキナ・ソウザイ・ハッピョウ・ドラゴンとともに一直線にフメバ・タスカルノニ・ロボへ突っ込む。
その瞬間、スキナ・ソウザイ・ハッピョウ・ドラゴンが再び咆哮する。
「キンピラゴボーッ!!」
突撃と共に、剣が閃いた。斬撃が空間ごと裂き、フメバ・タスカルノニ・ロボの脚部に刻み込まれる。
巨大な機体がよろめき、イッペの舵が狂う。
「このままでは……!」
フメバ・タスカルノニ・ロボは最後の悪あがきのように、ブレイクダンスのような奇妙な動きをはじめた。
回転しながら手足を振り回し、城の壁や街の瓦礫を次々と蹴り飛ばす。
「ぐぉぉぉぉぉぉぉ!踊ってやるよォォォッ!!ブレイキン・シゲキックス・フィーバァァァァァァァッ!!」
「止まれええええええええっ!!」
ショウの剣が再び空を裂く。今度は真っ直ぐ、フメバ・タスカルノニ・ロボの胸部を貫いた。
――ギィィィィィンッ!
異音とともに、フメバ・タスカルノニ・ロボの胴体がきしむ。数秒の静寂の後、爆発的な衝撃が辺りを包んだ。
ドォォォォォォン……!
鉄の巨体が崩れ落ち、王城の外郭の広場に巨大なクレーターを残して沈黙した。
「くそっ……動いてないのに……暑い……」
フメバ・タスカルノニ・ロボの瓦礫から、煤まみれのイッペがよろよろと出てきた。
片目を覆い、肩を上下させながら、なおも立ち上がる。
「まだ……終わっちゃ……いねえぞ……!」
剣を抜こうとするイッペ。その手に力が入らない。
そこに、スキナ・ソウザイ・ハッピョウ・ドラゴンから降りたショウがゆっくりと歩み寄った。
「もう、ええでしょう、イッペ」
その声は優しかった。どこまでも静かで、過去の思い出を包み込むような響きだった。
「……はっ、これでは……予選敗退だな……」
イッペが自嘲気味に呟く。
「生きてるだけで偉いから、皆優勝だよ」
ショウは剣を収め、イッペの前で膝をついた。
その目は、あの日と同じだった。
無欲で、真っすぐで、そしてあたたかい。
パルワール帝国軍は、フメバ・タスカルノニ・ロボの崩壊とともに戦意を喪失し、戦は終結。
ポケポーケ王国に平和が戻った。
数日後。処刑台ではなく、城の裏庭。
囚人服を着たイッペが、腰に鎖をつけながらも空を見上げていた。
「ほんっと、世の中って理不尽だな……」
その足元に、ぴょこんと跳ねる影があった。
「デコ……?」
ショウの愛犬・デコが、嬉しそうにイッペにじゃれついていた。
どこかの瓦礫から掘り出されたかのように、鼻先にまだ土がついている。
「ワンッ!」
「……お前も予選敗退か?」
「ワンッ!」
そこへ、ショウが歩いてくる。
「イッペ。お前は不器用だった。でも……それでも俺は、お前が生きていてくれて嬉しい」
「……まったく、お前は昔から変わんねぇな」
どこか照れたように顔を背けたイッペの口元には、わずかに笑みが浮かんでいた。
その日、ポケポーケ王国には新たな風が吹いた。
子どもたちの笑い声が響き、街の再建が始まる。
そして、広場を駆ける犬の姿――
「ワンッ!ワンワンッ!!」
愛犬デコが、青空の下を元気に走り回る姿で、物語は幕を閉じる。