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【第2話】この王城、なんか変

☆この漫画はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。


☆パロディ作品です。

 火の粉舞う王城の廊下を、剣を引きずる音が追ってくる。

 足取り重く、肩で息をするショウは、深い傷を右肩に負っていた。


「……ちっ、ここまで読まれていたか……」


 イッペの仕込みは周到だった。密偵、罠、買収した兵士たち。

 この城が落とされたのも、偶然ではない。内部から崩されていたのだ。


「さすが逃げ上手のショウ。しぶといな」


 背後から聞こえる、あの薄ら笑いの声。

 振り向けば、黒のマントを翻すイッペが、気軽に歩み寄ってきていた。手には短剣、腰には投げナイフが数本。


「そろそろ観念しようぜ? もう、この城にあんたの居場所なんて残ってないんだよ。認めちまえよ。正義は負けたんだってな」


 ショウは答えず、肩を押さえながら再び走り出した。

 薄暗い廊下の突き当たり、古びた木扉に飛び込む。


 ガチャリ。


 扉の向こうは、奇妙な静けさに満ちていた。


 大理石の床に、円形の柱が並ぶ。まるで王家の謁見室のような豪奢さだが、何かが決定的におかしい。……窓が、どこにもないのだ。


 数秒遅れて、イッペが部屋に飛び込んできた。


「へぇ、こんなとこに逃げ込むとはな。ま、どこに隠れても——」


 ピタリ、とイッペの動きが止まる。


「……ん?」


 眉をしかめ、部屋の空気を舐めるように観察する。


 空間に、微かな魔力のうねり。床の石材が微細に呼吸しているような、機械のような、不気味な気配——


「……なんだこの部屋……」


 その瞬間、床がわずかに沈んだ。


 ギンッ!


 天井から網が降り、床の隙間から魔力の鎖が噴き出す。イッペは即座に回避し、宙に身をひねるが、背中のマントが絡め取られる。


「ぐ、クリハラァァァアアアアア!!」


 思わず叫ぶイッペの声が王城に響く。


「罠の設計、マジで性格悪ぃなあの野郎! てかなんで窓ねぇんだよ! ……クリハラ!窓ねぇぞッ!!」


 部屋の名は“ブッコ・ロシゾーン”。

 設計士クリハラが王国防衛の切り札として残した密室罠部屋だった。


 爆音と共に天井が閉まり、しばしの沈黙——


 そして数秒後、床の隙間を蹴破って、イッペが脱出してきた。


「はぁっ、はぁっ……ッたく……なんとか逃げ出せたけどよ……!」


 半壊したマントを振り払い、イッペは睨んだ。その先に——


 傷だらけのショウが、静かに立っていた。


 右手には銀の長剣。左手には、小さなコインを掲げている。


「その部屋に誘ったのは……おまえの逃げ上手な性格を、俺が知っていたからだ」


 ショウが高らかに宣言した。


「……ポケポーケ王国に代々伝わる秘宝——“カスミのコイン”。この一投に、俺のすべてを賭ける」


 イッペの目が細められる。


「は? ギャンブルでも始めんのか?」


「表が出た数だけ、王国の守護獣が現れる。……俺の願いに応じて、今ここに!」


 ショウが空高くコインを投げる。


 コインはくるくると舞い、床に落ちた。


 カン……カン……カン。


 金属音が3回、はっきり響いた。


「……表が、三つ」


「三匹ってか。ふん、猫でも犬でも呼んでみな」


 その瞬間、部屋の空間が歪む。


「チピ! チピ! チャパ! チャパ!」


 「ドゥビ! ドゥビ! ダバ! ダバ!」


  「ハッピ! ハッピ! ハッピー!」


 突如、床下から飛び出したのは、三匹の奇妙な猫たち。

 ふわふわの毛並みに、王国の紋章を模した鈴。目が光り、鋭くイッペを睨んでいる。


「な、なんだこいつら……ッ」


 一匹がイッペの足元に飛びかかり、爪でガリガリと靴を削る。残りの二匹は背後に回り、しっぽで武器を絡め取ろうとする。


 「チピチピチャパチャパァ!」

 「ドゥビドゥビダバダバァ!」

 「ハッピハッピハッピィィ!」


「うるせえええええええええ!!!」


 イッペは猫たちを振り払い、全力で後退する。


「やってらんねえっての……チビどもめ……!」


 そう吐き捨てながら、イッペは腰のポーチから取り出したのは——


 閃光弾付きのナイフ型投擲武器。


「これで終わりだ、ショウ! 猫に夢中になってるあいだに——」


 シュッ、とナイフが宙を裂く。


 その瞬間——


 ピシュッ!


 横から走った矢が、イッペの投擲ナイフを弾き飛ばした。


「……っ!? 誰だ……!?」


 暗がりから一人の男が現れる。


 無骨な革鎧に、シンプルなロングボウ。

 禿げかけた頭、そして鋭い目。王国歴戦の射手、フルタ・ゲンゾウ——通称“無課金おじさん”。


「……無駄な投資だったな、イッペ。おまえのギャンブルは、ここまでだ」


「は、無課金おじさん……だと!?」


「課金はせん。だが腕は本物だ」


 そう言って二矢目を構える無課金おじさん。その弓先は、迷いなくイッペの額を捉えていた。


「……クソッタレが……!」


 猫に囲まれ、弓に狙われ、正面には宿敵ショウ。


 圧倒的不利の中、イッペの笑みが消える。


「これで……勝ったと思うなよ……ショウ」


 イッペは呟き、背後に煙玉を叩きつけた。


 煙が充満し、視界がかすむ——


 猫たちが鳴き、無課金おじさんが舌打ちする。


 だが、その場にショウは静かに立っていた。


「……逃げたか」


 コインが床を転がり、静かに止まる。


 騎士と盗賊。王国と帝国。

 すべてが終わるその日まで——まだ、戦いは終わらない。

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