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【第1話】裏切り、のこのこ、虎視眈々

☆この漫画はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。


☆パロディ作品です。

【王国暦2024年の戦い】


 城門は破られ、炎の柱が立ち昇る。

 ポケポーケ王国の誇り高き本城——その中庭に、二人の男が対峙していた。


 一人は銀の鎧に身を包み、腰に二本の剣を帯びた騎士——第三騎士団副団長、ショウ・アルディス。

 もう一人は黒のマントを羽織り、笑みを浮かべる青年——かつての旧友にして、今はパルワール帝国の密偵、イッペ・グラスト。


「……まさか、この城の中で、おまえと剣を交えることになるとはな」


 ショウの声は低く、怒りを秘めていた。しかし剣はまだ鞘に収まっている。目の前の男が、かつて信じた友であったという記憶が、彼の手を止めていた。


「まさか、ねぇ……。いや、鹿の子のように虎視眈々と狙ってたよ。あんたがこの城の守護者として立ってる姿を見るたびにさ。どこで裏をかけば、この“賭け”に勝てるか……ずっと考えてた」


 イッペは肩をすくめ、ポケットから金貨の詰まった小袋を放り投げた。袋は地面に落ち、じゃらりと鈍い音を立てる。


「見覚え、あるだろ? あんたが地下金庫に隠してたヤツさ。鍵は戻しといたから、心配すんなって」


 ショウの眉がぴくりと動く。だが、彼の口から怒声が飛ぶことはなかった。ただ静かに、双剣の柄に手をかける。


「イッペ……貴様が、ここまで堕ちたとはな。王国のために働いていたはずのおまえが……! 恥を知れ! 恥を!」


「王国のため? 俺は元々、拾われた身さ。語学が得意だから外交官として雇われただけ。でもさ、裏で何をしてようが、誰も気にしなかった。だったら、俺がどこへ行こうと自由ってもんだ」


 イッペの口元に、挑発的な笑みが浮かぶ。


「俺がパルワール帝国に情報を流した? 財産を送った? 事実だよ。そして、そのおかげで今、帝国の軍勢はこの城の門を破った。これが“勝ち”ってヤツじゃないの? ……帝国からは、“逃げ上手の若君”って呼ばれているよ」


 ショウの目が怒気に燃える。だがその怒りは、長年共に戦ってきた仲間を失った哀しみにも似ていた。


「おまえを、信じていた。誰よりも。和平を担うおまえなら、この戦争を終わらせてくれると……。なのに、おまえは……!」


「和平なんて、最初から無理だった。王国も帝国も、裏で汚いことばかりしてる。それを知ってる俺が、ただ黙って指示に従ってろって? 冗談じゃねぇよ」


 イッペの右手がナイフの柄に伸びる。その動きと同時に、左手の指輪が光り、彼の体に薄紫の魔力が纏わりつく。


 ショウは剣を抜いた。銀の長剣と黒の短剣。右手と左手にそれぞれ構えたその姿は、戦場の猛獣そのものだった。


「不適切にもほどがある貴様の言葉に、もう耳を貸すつもりはない。裏切り者には、それ相応の“罰”が必要だ」


「いいねぇ、それでこそショウだ。おまえはそうでなくっちゃな。……だが忘れるなよ。俺は“逃げ上手”だ。正面からじゃやられたって、裏からなら勝てるさ」


 イッペが地を蹴った。


 ギンッ!


 ナイフと剣がぶつかり、火花が散る。


 剣技に優れる騎士と、盗術と策略に長けた裏切り者。

 交差する刃の中に、過去の友情はもう残っていなかった。


 夜の帳が落ちるポケポーケ王国の城で、王国暦2024年の最も凄惨な戦いが始まろうとしていた。






---


【昨年の冬】


「マジかよ……俺たちが、あのドジャー部隊に?」


 ポケポーケ王国騎士団詰所の裏庭。沈みかけた夕陽が、二人の男の顔を金色に染めていた。


 イッペは驚き半分、喜び半分といった顔で報告書を握りしめていた。その横で、銀の鎧に身を包んだショウは、いつものように静かに頷いた。


「うん。国王の直々の命令だ。俺たちエンゼル部隊の働きが、ついに認められたってことさ」


 弱小と揶揄されてきたエンゼル部隊は、物資も乏しく任務も地味だった。だが、その中で誰よりも真面目に、ひたむきに剣を振るってきたのがショウだった。


「すげぇよな……ドジャー部隊っていえば、王国最強の精鋭部隊だぜ。給金も三倍、飯もうまいって話だ。心置きなくドカ食いできるってもんだぜ」


「贅沢には興味ないけど、兵舎が広くなるのはありがたいかな」


 ショウはそう言って、足元にじゃれついてきた犬の頭を優しく撫でた。


「……デコ、よかったな。おまえも大きな犬小屋に住めるぞ」


 尻尾をふる愛犬に目を細めながら、ショウは続ける。


「それと、マミと結婚することにしたんだ。来月には式を挙げる。……ようやく、言える立場になれたからな」


「……そっか」


 イッペは軽く笑ってみせたが、その胸の奥には、針のような棘がひとつ刺さった。


 マミは、かつてイッペも想いを寄せていた相手だった。だが、誠実なショウの隣にいる彼女は、誰よりも幸せそうだった。それを否定する資格が、イッペにはなかった。


 ドジャー部隊での任務は厳しかったが、その分報酬は破格だった。隊員の中には金で女を囲い、家を買い、絢爛たる装備を揃える者もいた。


 だがショウは違った。


「俺の給料は、戦災で困ってる村に送るつもりだ。あとは孤児院の拡張資金に」


「……自分のために使わなくて、いいのかよ?」


「戦って得た金だ。なら、守るべきものに使いたい」


 まるで物語の中の騎士のような言葉。だが、それを現実でやってのける男が目の前にいる。


 その日、イッペは初めて、「正しすぎる人間」を心の底から妬ましく思った。


 己が夜な夜なギャンブルに溺れ、借金に追われるようになったことは、まだ誰にも言っていない。


 正義の味方と称えられる男の隣で、自分だけが醜く沈んでいくような錯覚。


 その夜、イッペは初めて“裏切り”という二文字を、心の中で確かに噛み締めていた。


---






 そして今——王城の中庭で、かつての友と剣を交えている。

 始まりは、あの冬の日だった。

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