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【受賞しました】裏山で拾ったのは、宇宙船のコアでした  作者: オテテヤワラカカニ(旧KEINO)


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6-9

 松本が受話器を置き、矢沢と共に現場指揮本部を出ようとした、まさにその時だった。


 遠くからけたたましいサイレンの音が急速に近づいてきたかと思うと、数台のパトカーが、まるで先導するかのように、一台の重厚な雰囲気の銀色のクラウンセダンを伴って、規制線を半ば強引に突破するような勢いで現場に乗り込んできた。


 その動きは、地元の茨城県警に対する配慮など微塵も感じさせない、傲慢なものだった。


 パトカーの側面には「警視庁」の大きな文字が誇らしげに描かれている。

 突然の闖入者に、現場の茨城県警の捜査員たちが何事かと動きを止め、訝しげな視線を向けた。


 銀色のクラウンの後部座席から、一人の男が、まるで舞台に登場する役者のように、威圧的な態度でゆっくりと降り立った。


 五十代半ばだろうか、誂えの良い高級そうなダークスーツに身を包み、一分の隙もない。


 その鋭い目つきは、爬虫類を思わせる冷たさで周囲を睥睨し、薄い唇は常に不機嫌そうに引き結ばれている。


 胸には、警視正の階級を示す金色の徽章が鈍い光を放っていた。


 刑事局捜査一課第九係を実質的に率いる、大場和馬室長。


 その名を知る者は、警察内部でも限られていたが、彼が関わる案件は、常に政治的な思惑が絡む腹黒いものばかりだと噂されていた。


 大場は、現場の指揮を執っていた茨城県警の恰幅の良い警部のもとへ、まるで検分でもするかのように大股で近づくと、一切の挨拶もなしに、開口一番、周囲に響き渡るような、腹の底から絞り出すような大声で怒鳴りつけた。


「この旧谷田部東パーキングエリアにおける一連の事案は、これより全権をもって我々、刑事局捜査一課第九係が取り仕切る! 所轄及び茨城県警の諸君は、現在までに収集した全ての捜査資料を速やかに当方に引き渡し、即刻、現場から撤収したまえ!」


 その声は、まるで鶴の一声ならぬ、有無を言わせぬ絶対者の命令だった。

 あまりに一方的で高圧的な物言いに、現場は一瞬にして騒然となった。

 規制線の内側で作業していた鑑識課員の手が止まり、制服警官たちは顔を見合わせる。

 茨城県警の捜査員たちからは、露骨な不満や戸惑いの声が、低いどよめきとなって上がり始めた。


「なんで本庁の室長が出張ってくるだ?」

「いくら本庁のエリート様でも、このやり方は横暴すぎるだろ!」

「こっちは夜通し捜査してんだぞ!」


 大場は、そんな現場の空気を意にも介さず、ギロリと爬虫類のような目で辺りを睨みつけ、さらに声を張り上げた。


「ん? 何か文句でもあるのかね? これは既に決定事項だ! 速やかに実行しろ!」


 彼はスーツの内ポケットから、大仰な仕草で一通の書類を取り出し、まるで印籠でも見せつけるかのように、茨城県警の警部の目の前に突きつけた。

 それは、警察庁長官官房からの正式な通達であり、この事件に関する捜査指揮権を、特例として刑事局捜査一課第九係に移管するという内容の命令書だった。


 その書面には、警察庁長官の赤い印章が、威圧的に押されている。


 それを見せつけられ、先程まで憤慨していた茨城県警の面々も、悔しそうに唇を噛み締め、言葉を失うしかなかった。

 国家権力という巨大な壁が、彼らの前に立ちはだかったのだ。


 松本警部補は、その一部始終を、苦虫を噛み潰したような、それでいてどこか冷めた表情で見ていた。


 第九係……やはり出てきたか。警察庁内部でも特に政治的な案件や、公安が手を出しにくいような特殊事案を専門に扱うと噂される、半ば治外法権のような部署だ。


 彼らがこれほど迅速に、そして強引に介入してきたということは、この事件の裏には、自分が想像している以上に国家レベルの、あるいはそれ以上の、決して表沙汰にできない何かが隠されている証拠だ。


(南川仁の通報が繋がらなかった一件と、この第九係の強引な現場介入……これらが無関係であるはずがない)


 松本は、パズルのピースが一つ、また一つと嵌っていくような、それでいて全体の絵はまだ見えないもどかしさを感じていた。


 矢沢が、若い正義感からか、憤慨したように松本に何か訴えようとしたが、松本はそれを無言の手振りで制した。


「命令書が出ている以上、我々横浜の人間が、ここに長居しても仕方があるまい。それに、我々には、先約がある」


 松本は、大場室長とその取り巻きたちに一瞥もくれることなく、静かに踵を返すと、矢沢を促して自分の車へと向かった。


 その背中には、決して権力に屈しない、一人の刑事としての矜持が滲んでいた。


「行くぞ、矢沢。千葉の南川除染技研だ。どうやら、本丸はそっちのようだな。あの第九係の連中が嗅ぎつける前に、我々でやれることをやる」


 大場室長の怒声と、それに反発しながらも撤収準備を始めざるを得ない現場の捜査員たちのざわめきを背に、松本の黒いセダンは、静かに旧谷田部東パーキングエリアを後にした。


 彼の目には、新たな謎への挑戦と、それを解き明かそうとする静かで、しかし熱い闘志が宿っていた。


 向かう千葉の空は、先ほどまでとは打って変わって、厚い雲に覆われ始めていた。

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― 新着の感想 ―
ロケットエンジンの設計をし、航宙機?を作って、放射能除染機械を開発し、ネット世界を蹂躙できるようなアーベルが第九係の動きがわからないはずがない だって、ゴーがかかっているんだから と思いたいんですけ…
アーベルが万能すぎて映像や通信記録やらカルトと癒着関係者を面白おかしく晒せば 燃料延々と燃やせそう
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