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裏山で拾ったのは、宇宙船のコアでした  作者: オテテヤワラカカニ(旧KEINO)
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1-7

 翔太は、古い木製の椅子にもたれながら天井を仰いだ。

 梁に刻まれた木目や、ところどころに残る虫食いの跡が目に入る。

 自分の家の中で、まさか宇宙規模の話をすることになるとは、昨日まで想像すらしていなかった。

 窓の外からは虫の声が微かに響き、夕暮れの薄闇が畳に長く伸びた影を落としている。

 冷蔵庫のモーターが低く唸り、静寂の中でその音が妙に大きく感じられた。指先に残る土の感触がまだ消えていない。


 目の前のダイニングテーブルに置かれたコア――アーベルは、依然として淡い光を脈打つように放っている。

 その光のリズムは一定で、まるで静かな心拍のように強弱を繰り返していた。

 不思議とその規則性が心を落ち着かせ、翔太の乱れた呼吸を少しずつ整えてくれるようだった。

 球体の表面には微細な紋様が刻まれ、光が流れるたびに複雑な模様が浮かび上がっては消える。

 まるで生きているかのようなその動きに、翔太は目を奪われていた。


 意を決して、彼は椅子に凭れたまま問いかけた。


「銀河連盟ってのは、一体どういう組織なんだ?」


 声が部屋に響き、少し掠れた音が自分の耳に戻ってきた。

 スマホがブルブルッと震え、画面に新たなメッセージが浮かび上がる。


『複数の高度文明が加盟する宇宙規模の共同体です』


『異なる種族同士が協力し、銀河全体での発展を目指すことを目的としています。その活動の一つとして、新たな惑星を調査し、もし生命がおらず入植可能な惑星があれば、生命の適応環境を整えることを目的としています』


銀河全体で発展を目指す――。


 翔太は腕を組んだまま、深く考え込んだ。

 頭の中で、星々が輝く広大な宇宙や、異なる姿形をした異星人たちが会議を開く光景がちらつく。

 映画や小説で見たようなイメージが浮かぶが、それが現実のものとして目の前に突きつけられると、どこか現実感が薄れる。

 もし宇宙にそんな規模の共同体が存在するのなら、なぜこれまで地球は接触を受けたことがないのか? それとも、知らないだけで、実はすでに人類は彼らと関わっていたのだろうか? UFOや宇宙人目撃談が頭をよぎり、半ば冗談めかしていたそれらが急に真実味を帯びてきた。


「……じゃあ、地球も調査対象だったのか?」


 眉を寄せて尋ねると、スマホに即座に返答が表示された。


『いいえ。この惑星は調査対象ではありません』


「え?」


 意外な答えに、翔太は目を丸くした。


「じゃあ、まったくの偶然で墜落したってことか?」


『その通りです』


 アーベルの返答は簡潔で、淡々としたものだった。

 しかし、その言葉にどこか引っかかるものを感じ、翔太は首を傾げた。

 本当に偶然なのか? 2,000年前に地球に墜落し、長い間眠っていたコアが、たまたま自分が掘り起こしたことで目覚めたというのか? 偶然にしては出来過ぎている気がして、胸の奥に小さな疑念が芽生えた。


『現在、最も重要なのは、この異常事態を銀河連盟へ報告することです』


「報告……?」


 翔太は眉をひそめ、アーベルの光を見つめた。


『はい。コア部分のみとなり墜落してしまったこと、および現地の知的生命体と接触してしまった状況を伝え、適切な対応を仰ぐ必要があります』


「現地の知的生命体って……俺のことか?」


内心で苦笑しながら、翔太はさらに質問を重ねた。


「……それは、どうやって? 今の状態じゃできないのか?」


『通信機器を作成する必要があります』


「特殊な……ってことか?」


『はい。この惑星の通信技術では、銀河連盟のネットワークに接続することはできません。そのため、最低限の基準を満たす通信装置を一から構築する必要があります。その製作を貴方に手伝って欲しいのです』


「待て待て、そんなの俺に作れるわけないだろ。」


 翔太は苦笑しながら肩をすくめ、椅子の背もたれに体重を預けた。

 いくらスマホやパソコンを使い慣れているとはいえ、宇宙規模の通信機器をゼロから作るなんて、想像すらできない。

 機械いじりは得意な方だが、せいぜいトラクターの応急処置やDIYの範囲だ。

 アーベルの提案は、あまりにも現実離れしているように思えた。


『大丈夫です。必要な知識や設計図は提供できます。あなたには作業のサポートをお願いしたいのです』


 まるで「少し手伝ってくれ」と気軽に頼むような言い方だが、問題はその「少し」がどの程度の規模なのかということだ。

 アーベルの言葉にはどこか楽観的な響きがあり、翔太は半信半疑のまま腕を組み、考え込んだ。

 未知の宇宙技術を扱うというのは、正直ワクワクする部分もある。

 子供の頃に読んだSF小説や、宇宙船のプラモデルを作った記憶が蘇り、胸が少し高鳴った。

 しかし、同時に不安が頭をもたげる。


――もし、これが地球にとって脅威となる可能性があったら?

――もし、これが侵略の第一歩だったら?


 胸の奥に小さな疑念が芽生え、冷たい汗が背中を伝った。

 アーベルが何者か分からない以上、その言葉を鵜呑みにしていいのか、慎重にならざるを得なかった。

 彼は目を細め、テーブルの上のコアをじっと見つめた。そして、意を決して口を開いた。


「……アーベルはさ、本当に地球に害を与えるつもりはないんだよな?」


 短い沈黙が流れた。

 部屋の中の空気が一瞬重くなり、冷蔵庫のモーター音さえ遠くに感じられた。

 スマホの画面が暗転し、次のメッセージがゆっくりと浮かび上がる。


『あなたの懸念は理解できます』


『しかし、私はあくまで惑星開拓船。軍事ユニットではありません』


『地球を侵略する意図はまったくありません。それに、仮にそのような意思があったとしても、私の現状では何もできません』


 翔太はテーブルの上のコアをじっと見つめた。

 確かに、今のアーベルに侵略を企てるような力があるとは思えない。

 ただの金属球にしか見えず、淡い光を放つ以外に目立った動きはない。

 洞窟で掘り出したときも、自己修復が限界だったと言っていたし、実際に機能が大きく損なわれているのは事実なのだろう。

 仮に攻撃的な意図があったとしても、今の状態では何もできないのは明らかだ。


「……まあ、それはそうか。」


 翔太は小さく呟き、疑念を抑え込むように深く息を吐いた。

 アーベルの言葉にはどこか誠実さのようなものがあり、それが彼の心を少しだけ軽くした。

 少なくとも今は、この存在を信じるしかない。


 彼は椅子の背もたれから体を起こし、アーベルの光を見つめながら決心した。


「分かった。じゃあ、協力するよ。」


 その一言を口にすると、スマホの画面に同じ言葉が反響するように表示され、同時にコアの光が僅かに明るくなった気がした。

 まるでアーベルが喜んでいるかのように、光の脈動が一瞬だけ速まり、部屋に柔らかな輝きが広がった。


 窓の外では、夜が深まり、星々が静かに瞬き始めていた。

 翔太の胸には、未知への不安と期待が混じり合いながら、新たな一歩を踏み出す覚悟が静かに芽生えていた。


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