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【受賞しました】裏山で拾ったのは、宇宙船のコアでした  作者: オテテヤワラカカニ(旧KEINO)


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6-5

 鈍色の分厚い壁が外界の喧騒を遮断し、千葉の南川除染技研第二工場の地下施設の一室は、不気味なほどの静寂に包まれていた。


 整然と配置された配管が壁や天井を走り、時折、換気システムが唸りを上げる以外は、自分たちの呼吸音だけがやけに大きく聞こえる。

 照明が白々とした光を投げかけ、床や壁のコンクリートの冷たさが、じわりと肌に伝わってくるようだった。


 弾痕がついたトランスポート・ユニットを地下へ隠蔽し、彼らはようやく一息つくことができた。


 仁は、壁に背を預け、ずるずるとその場に座り込んだ。

 強張っていた肩から力が抜け、どっと疲労が押し寄せる。


 先程までの銃弾の嵐、爆音、そして死の恐怖が、まだ鼓膜の奥で反響しているかのようだ。


 隣では、由美が涼子から渡された厚手のブランケットに全身をきつくくるんでいた。


 彼女の顔は蒼白で、小刻みな震えが止まらない。

 それは寒さだけが原因ではないことを、仁は痛いほど理解していた。


「涼子、翔太君、アーベル君……本当に、本当にありがとう。君たちがいなければ、私たちは……今頃どうなっていたか……」


 仁の声は掠れ、言葉の続きは安堵と恐怖がない交ぜになった深い溜息に変わった。

 その視線は、額の汗をタオルで拭っている翔太に向けられていた。


「ええ、翔太さん、アーベルちゃん……何度お礼を言っても足りないわ。あんな状況から、私たちを救い出してくれて、本当にありがとう」


 由美もか細い声で感謝を述べたが、その声の奥にはまだ恐怖の色が濃く残っている。

 翔太は静かに首を横に振った。


「いえ、お二人がご無事で何よりです。ですが、これで完全に安全が確保されたわけではありません。油断は禁物です」


 その言葉に呼応するように、翔太の足元にちょこんと座っていた黒毛の子猫が、小さな顎をくいと上げた。

 その愛らしい姿とは裏腹に、凛とした合成音声が響く。


「現状、追手の直接的な脅威は感知されていません。半径十キロメートル圏内に怪しい車両はありません。しかし、彼らが完全に諦めたと判断するのは早計です。より広範囲の索敵と情報収集を継続します」


 子猫の姿をしたアーベルは、そのクリクリとした大きな瞳でじっと空間の一点を見つめている。


 その姿と言葉のギャップに触れた仁と由美は、未だに戸惑いを隠せないでいたが、その分析能力と的確な判断力には信頼を寄せていた。

 仁はこわばった表情のまま、重々しく口を開いた。


「それにしても、一体何者だったんだ、奴らは? この日本で、アサルトライフルやロケットランチャーで武装し、あれほど統率の取れた動きをするなんて……ただの犯罪者集団の手口じゃない。なぜ、僕たちをあんなにも執拗に狙う必要があったんだ?」


 彼の言葉には、恐怖よりも純粋な疑問と、理解を超えた出来事への憤りが滲んでいた。

 由美もブランケットの端を握りしめながら頷く。


「そうよ……まるで何か金品を奪うため、というより、私たち自身を捕らえることが目的だったみたいだった。サービスエリアで休憩していたら突然……それに、あのリーダーらしき男が、最初に『聖遺物を渡せ』って……」


「それに通報した警察の対応も妙だったわ、その件は対応中ですって返答ばかりで、パトカーの一台も来やしないの」


 その言葉に、翔太も眉を寄せた


「確かに、尋常じゃなかった。彼らの装備、戦術、そしてあの執念。もしかしたら警察の一部も関わっているかもしれない。ここまでのことをするんだ、何か特別な目的があるはず」


 翔太はアーベルに視線を移した。


「アーベル、さっきの戦闘データ、特にトランスポート・ユニットの外部カメラやセンサーが記録した映像を詳細に解析できないか? どんな些細なことでもいい、奴らの正体に繋がる手がかりが残っているかもしれない」


「承知しました、翔太さん」


 アーベルは小さく頷くと、その猫の目が微かに光を帯びた。


「現在、記録された全映像データを時系列に沿って再スキャンし、敵性対象の識別可能な特徴、装備の細部、音声パターンなどをクロスリファレンスしています。特に、敵兵装やマーキングに注目して解析を行います」


 地下施設の一角に設置された大型モニターが起動し、数秒のノイズの後、先程の旧谷田部東パーキングエリアでの凄惨な戦闘シーンが映し出された。


 トランスポート・ユニットの多脚がアスファルトを蹴り、土煙を上げる様子。


 敵兵が放つ曳光弾が暗闇を鋭く切り裂き、ユニットの装甲に当たって激しい火花を散らす様。


 薬莢の飛び散る音、兵士たちの怒号、そして金属が軋む耳障りな音。


 それは、つい先程まで自分たちが体験していた悪夢の再現だった。

 仁と由美は息を飲み、無意識のうちに身を固くする。


 モニターに映し出される映像は、多角的なカメラアングルとセンサー情報を組み合わせ、再構成されたものだった。

 緊迫したBGMこそないものの、その生々しい戦闘記録は、どんな映画よりも強烈なリアリティをもって彼らに迫ってくる。


 アーベルはいくつかのシーンをスキップし、特定の場面をスローモーションで再生し始めた。


 それは、敵部隊のリーダーと思われる、ヘルメットに特殊なマーキングを施した男が、部下たちに激しく指示を飛ばしている場面だった。

 男の顔はゴーグルとマスクでほとんど隠れていたが、その全身から発せられる独特な雰囲気は画面越しにも伝わってくる。


「待って!」


 涼子が鋭い声を上げた。


「今のところ! もう一度、少し戻して止めてもらえる?」


 アーベルは即座に反応し、数フレーム映像を巻き戻して一時停止させた。

 モニターには、敵リーダーのヘルメットの右側面が大きく映し出されていた。

 そこには明らかに意図的に描かれたと思われる、複雑な幾何学模様のような黒いマーキングがはっきりと見て取れた。

 それは、鋭角的な線と曲線が絡み合った、どこか禍々しさを感じさせるデザインだった。


「これは……」


 仁が低い声で呟いた。


「何かのシンボルか……あるいは部隊章のようなものか?」


 翔太はモニターに身を乗り出し、目を凝らした。


「間違いありません。これほど特徴的なマーキングなら、組織的なものである可能性が高い。これが奴らの正体を暴く手がかりになるかもしれません」


「アーベル、このマーキングを解析できるか?」


「マーキングの画像を抽出、ノイズ除去および鮮明化処理を実行します」


 アーベルの瞳が一層強く輝き、モニター上では対象部分が瞬く間にデジタル処理され鮮明になっていった。



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― 新着の感想 ―
バトルものにテコ入れした感がある 初期に入った読者の現状の好みは別れそう
うーん……5章迄は現実準拠の世界観に、もたらされる超技術に産業スパイという無理のない構成だったのが良かったのですが…… 6章で急に御都合主義バトル路線へと変更され、リアリティの欠片もない悪の組織が現れ…
何かこう・・・頭にアルミホイル巻いてそうな集団だな もしくは昔のスパロボのディバインクルゼイターズとか。
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