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【受賞しました】裏山で拾ったのは、宇宙船のコアでした  作者: オテテヤワラカカニ(旧KEINO)


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6-1

突然ですが、第六章を大幅に改定することにしました。

読んでくださった方、コメントをくださった方には非常に申し訳なく思っています。

自分の表現力では取り扱ったがんという病症に対する様々な方の思い、それに対する取り組みを自分が納得する形で小説に落とし込むことができないと判断したため、改訂することを決めました。

以上、宜しくお願い致します。

 涼子の声が、地下施設に響いた。

 電話の向こうから聞こえてきたのは、水面下で激流が渦巻くような切迫感を帯びた南川仁の声だった。


 その声は、普段の彼からは想像もできないほど低く、緊張の色を隠せないでいた。


「涼子、怪我はないか? 今、どこにいるんだ?」


 いつもの仁らしい口調とはまるで異なる、刃物のような鋭い緊迫感が滲んでいる。

 涼子は一瞬、不安げに揺れる視線を翔太と、傍らで静かに佇むアーベルにちらりと向けた。

 二人もまた、彼女の強張った表情と、電話口から微かに漏れ聞こえる尋常でない雰囲気から、ただならぬ事態を瞬時に感じ取り、息を詰めてじっと耳を澄ませている。


 翔太は無意識のうちに眉間に深い皺を刻み、アーベルのエメラルド色の瞳は、獲物を捉えるかのように鋭く細められていた。


「う、うん……私は大丈夫。翔太さんと一緒に、今、アーベルの……その、隠れ家みたいな、施設にいるよ。兄貴、一体どうしたの? 声が……いつもと違うよ」


 涼子の声は、まるで冬の薄氷を踏むかのようにわずかに震えていた。

 兄からの突然の連絡、それもこんな緊迫した状況での電話に、冷たい霧のような嫌な予感が胸の奥から立ち昇り、心臓をじわじわと締め付ける。


 電話の向こうで、仁が一瞬、言葉を吸い込んだかのように沈黙した。


 まるで激流の中で掴むべき流木を選ぶかのような、あるいは、爆弾の処理をするかのように慎重な、短い、しかし永遠にも感じられる間。


 それだけで、翔太と涼子の間に張り詰めていた見えない糸が、さらに強く、今にも切れそうなくらいに緊張を高めた。


「……良かった、涼子が無事で。本当に……。実はな、ちょっと、いや、かなり厄介なことになってるんだ。僕と由美、今、何者かに追われてる」


「追われてる!?」


 涼子が思わず金切り声に近い声を上げ、スマートフォンを握る手に爪が食い込むほど力がこもる。

 指先が白く変色し、わなわなと震えている。


 翔太もその衝撃的な言葉に目を見開き、まるで時間が止まったかのように硬直した。

 アーベルは、その大きなエメラルドの瞳を驚きに見開いたように、コンマ数秒間フリーズさせた。


 そして、即座にアーベルは涼子のスマートフォンから発信される微弱な信号の波形を捉え、その発信源である仁の正確な位置情報を特定するための複雑な解析を、目にも留まらぬ速さで開始した。

 彼女の瞳の奥で、無数のデータが激しく明滅しているのが見て取れた。


「誰に!? 一体どこにいるの、兄貴!? 由美さんは無事なの!?」


 涼子の声に、焦りと恐怖がないまぜになった悲鳴のような響きが滲む中、仁の声は低く、冷静に続いた。

 その声は、まるで嵐の中心にいるかのように、不思議なほどの落ち着きを保っていた。


「それが……突然だったからな、追ってる相手の正体も、まだ何もわかっちゃいない。突然、サービスエリアで変な奴らに声を掛けられて……ただ、奴らの求めているものだけは、痛いほど分かる。あの除染装置だ」


 仁の言葉に、涼子の顔からサッと血の気が引いていくのが分かった。

 まるで冷水を浴びせられたかのように全身の毛穴が収縮し、唇がかすかに震え始めた。


 翔太は思わず一歩前に出て、彼女の震える肩にそっと、しかし力強く手を置いた。

 彼女を落ち着かせようとする無言の励ましだったが、彼自身の表情もまた、まるで石膏像のように硬く、内心の激しい動揺を隠しきれていなかった。

 額には、じっとりと脂汗が滲んでいる。


「また……あの装置を狙って……っ!」


 翔太が、奥歯を噛み締めるように小さく呟く。

 その声には、抑えきれない苛立ちと同時に、先の襲撃で味わった、肌を粟立たせるような恐怖の残滓が混じっていた。


 あの時の銃声が、彼の脳裏に鮮明に蘇ってくる。

 

 アーベルはエメラルドの目を鋭く光らせ、まるで未来を予見するかのように、即座に冷静な分析を口にする。


「南川仁さんと南川由美さんが追われているという情報に基づき、想定される敵性存在の戦術的行動パターンを複数予測し、リアルタイムで分析を更新します。私が現在位置を特定し、救援ルートを構築します。涼子さん、翔太さん、通話は継続してください」


 涼子はアーベルの淀みない言葉に、かろうじて小さく頷き、荒れ狂う感情を必死に抑えつけながら、スマートフォンのマイクに意識を戻した。


「兄貴、アーベルが今、兄貴たちの位置を確認してるって言ってる。だから、もう少しだけ……!」


「いや、警察に通報が先よ! 兄貴!」


 しかし、仁の声は一瞬、まるで言葉が喉に詰まったかのように、ためらうように途切れた。


「とっくにしてるけど! 何の音沙汰もない! こっちはカーチェイスしてるってのに!!」


 電話の向こうから、微かに風切り音と、何か硬いものがぶつかるような金属音が聞こえてくる。

 緊迫した状況が手に取るように伝わってきた。


「奴らの装備も動きも、尋常じゃない! まるでどこかの特殊部隊だ。お前たちがこっちに来たら、間違いなく巻き込まれるだけだ。翔太君や、アーベル君にまで、これ以上迷惑をかける訳にはいかない」


「そんなこと言わないで! 兄貴たちが危ないっていうのに、私だけ安全な場所にいるなんて絶対に嫌だよ! 私だって、少しは役に立てるはず!」


 涼子の声が悲痛な叫びとなって熱を帯び、大きな瞳にはみるみるうちに涙が溢れ、頬を伝って流れ落ちる。

 彼女の必死な訴えに、電話の向こうで仁が、万感の思いを込めたような、深く、そして短い息を吐く音が聞こえた。


「……ったく、本当に頑固な妹だな、お前は。昔からちっとも変わっちゃいない。……分かった。だが、約束するんだ、涼子。絶対に無茶はするな」


 翔太は即座に力強く頷き、涼子のスマートフォンにぐっと顔を近づけた。

 その瞳には、揺るぎない決意の光が宿っていた。


「もちろんです、仁さん。涼子さんは俺が必ず守ります。アーベルもいます。絶対に、任せてください」


 アーベルもまた、静かに力強く応じた。


「南川仁さん、了解しました。貴方と南川由美さんの救出プランを即座に実行します。現在、位置情報の最終特定シークエンスに移行」


 その頼もしい言葉に、仁の声にわずかながら安堵の色と、ほんの少しの疲労感が混じる。張り詰めていた彼の肩の力が、少しだけ抜けたのが声の調子から感じ取れた。


「頼むよ……本当に、頼む。実のところ、もう車のガソリンがほとんど残ってないんだ。メーターの針が、もうEラインを叩きそうだ」


「えええええ!! うそでしょ、兄貴!?」


 涼子が素っ頓狂な声を上げ、翔太とアーベルの視線が、先ほどよりもさらに鋭く、まるで研ぎ澄まされた刃のように交錯した。

 状況が、さらに悪化したのだ。


「分かった、兄貴。すぐに、本当にすぐに私たちが動くから、絶対に諦めないで、頑張って持ちこたえて!」


 涼子が半ば叫ぶように言うと、電話の向こうで仁が、乾いた、しかしどこか吹っ切れたような小さな笑い声を立てた。


「了解だ。じゃあ、後は頼んだぞ……気をつけ……」


 ブツリ、と無情に通話が切れる。

 おそらくトンネルに入ったのだろう。


 同時に、部屋のモニターにマップが表示され、アーベルが特定した仁たちの位置情報が赤い点で示された。

 数秒後、アーベルのエメラルドの目が、獲物を捕捉したかのように鋭く光った。

 その光は、まるで暗闇を切り裂く一条の希望のようにも見えた。


「位置情報を特定しました。南川仁さんと南川由美さんの現在地は、茨城県の日立南太田IC付近です」


「リアルタイム映像によると、彼らの車両を追跡しているのは、黒い大型のバンが三台。車間距離から見て、高度な連携訓練を受けている可能性があります。推定される追跡部隊の規模は、各車両に二名から四名搭乗と仮定し、合計で最小六名、最大で十二名と算出されます」


 翔太は音を立てて拳を握りしめた。


「アーベル、救援プランは? 一体どうやって、この状況から仁さんたちを助け出す?」


 アーベルは一瞬、まるで全ての計算を終え、最適解を導き出したかのようにピタリと動きを止め、そして極めて冷静に、しかし確信に満ちた声で答えた。


「追跡車両の行動パターン、仁さんの車両の燃料残量、そして我々の介入時間を考慮すると、最も成功率の高いプランは、どこか人目に付かない場所、例えば放棄されたパーキングエリアや、遮蔽物の多い側道へお二人を誘導し、そこで追跡部隊の注意を引きつけている隙に、仁さんと由美さんを迅速に回収するしかありません。そのためには、お二人の正確な状況判断と、我々との緊密な連携による協力が必要不可欠となります」


 涼子は不安げに揺れる瞳を床の一点に落としながらも、唇をきつく結び、やがて顔を上げて、しっかりと頷いた。

 その瞳の奥には、恐怖を乗り越えた強い意志の光が宿っていた。


「分かった……何があっても、兄貴と由美さんを、絶対に助け出すんだから!」


 翔太もまた、涼子の決意に応えるように、力強く、そして優しく頷く。


「アーベル、準備はできてるか? すぐにあのドローンで出られるか?」


 アーベルは、まるでその言葉を待っていたかのように、金属質の尻尾を軽く左右に振り、その仕草には、まるで百戦錬磨の戦士のような、決然とした気配が漂っていた。

 彼女の瞳は、既に戦場を見据えているかのようだった。


「全ての準備は完了しています。目標は、南川仁さんと南川由美さんの安全な救出です」


 新たな、そしておそらくこれまでにない戦いが、今、まさに始まろうとしていた。その先に何が待ち受けていようとも、彼らは進むしかない。


 大切な人を守るために。


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― 新着の感想 ―
サービスエリア なんで新技術公表したこの状況で護衛も付けずほいほい外出しているんだ(呆れ) そら襲われるわ。ああ、淡水化もやりましたね。いやなんで?
更新お疲れ様です。病気関係は色々こだわりのある人も多いですから、創作だからで済ませるのは難しいですね。超科学の証明しやすい分野でもあるのですが。  
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