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最高の【勇者】になるために  作者: レイ
第1章 ラユグトス編
7/12

第7話 狩りの特訓

今日は戦闘回となっております!

 午前9時頃。

 俺は今日も今日とてギルド前まで足を運んでいた。

 明日は勇者試験だ。

 俺の顔にも少しの緊張と少なからずの興奮が押し寄せる。

 俺が満を持して扉を開けると、そこにはハイルとシャウィーさんの2人が椅子に座りながら佇んでいた。


「おう、きたか。それじゃあ今日の特訓内容を発表するぞ。」


 ハイルは俺を見るなり立ち上がって、そう言ったのだった。


――――――――――――――――――――――


「今日の特訓内容は、午前中に魔物狩りの練習に行った後、午後からは真剣白刃取りの練習をする。」


 ハイルが高々と宣言した特訓の内容はこんな感じのものだった。


「もちろん魔物狩りの時はシャウィー。お前にも手伝ってもらうからな?」


 するとシャウィーさんは呆れ顔でこう答える。


「はいはい。呼び付けられた時点で大体そんなことだろうってわかってましたよ。ちょっと待っていてくださいね?今ギルドに外出届出してきますので。」


「おう、頼んだ。」


 その会話の後すぐに、シャウィーさんはギルドの奥に引っ込んでいった。


「それで?昨日の魔法の特訓はどうだったんだ?」


 シャウィーからは上出来って報告をもらっているが。とハイルは俺を品定めするかのように質問してくる。


「まぁぼちぼちってところだよ。なんせ体力が魔法消費量に追いついてないんだ。細い雷1発打っただけで鼻血が出るんだぜ?」


 それを聞いたハイルは少し考えた、というより何かを思い出しながら返答する。

 自分の青い髪を触りながら。


「そうか。……俺の知り合いにも雷を使える奴がいたんだけどな……。確か奴は敵軍に広範囲の雷雲を作ってドカドカ落としてたぜ。模擬戦をしたら俺が勝ったんだけどな。」


「それはお前の知り合いの体力がバケモンなんだと思うし、それに勝つお前は本当になんなんだよ?」


 やっぱりこいつ過去に軍隊か何か入ってただろ……。

 俺は一歩後ずさったあと、改めてハイルを見つめ直し、そのバケモノ度合いを再認識する。

 もうこいつが主人公のなろう小説が書けそうだな……。

 そんな感じで俺とハイルがそんな話をしていると、ピンクの髪を振りながら、シャウィーさんが戻ってきたのだ。


「すみません。遅くなりました。」


 シャウィーさんはいつも通りのザ・受付嬢といったような服装で丁寧に謝罪をする。


「大丈夫だ。……それじゃあいくぞ。魔物退治へ。」


――――――――――――――――――――――


 ゴブリン。

 異世界に行ったらまず初めに思いつくであろうモンスターの1人に入る超がつくほどの有名モンスターだ。

 俺たちはそんな奴らの崖の窪みにできた巣の近くにある茂みにまで来ていた。

 この世界のゴブリンは、基本的に1世帯ごとに生息しているらしく、巣といっても2〜7匹くらいしかいないため、初心者にはうってつけだそうだ。(ハイル、シャウィーさんが2人同時に言っていた。)


「……えーと、この巣には大体……、3人ってところだな。ちょっと少ないが、まぁ問題ないだろう。」


 ハイルはシャウィーさんが持参してきてくれた片目望遠鏡を覗きながら数の詳細を割り出す。


「よくわかりますねハイルさん。普通だったら見分けなんてつかないのに……。」


「長年魔物退治してるんだ。ある程度は個体情報でわかるようになっちまってんだよ。ほら、人間にもあるだろう?1番特徴的な髪を除いても、鼻の位置、歯の並び具合、耳の形状、目が一重か二重か、などがな。俺はそれをゴブリンにあてはめてるだけだ。」


「「へぇ……」」


 俺とシャウィーさんは素直に感心する。


「俺、お前のことただシンプルな脳筋かと思ってたんだけど、評価を改めるよ……。」


 俺のそんなデリカシーのない発言に、ハイルは多少ムカついたような雰囲気で回答した。


「おい、確かに俺はある程度力任せなところがある。だがな、この世界は圧倒的な力があっても知恵がないとやっていけないんだよ。……あいつら以外は。」


「あいつら以外?」


「珍しいですね。ハイルさんがそんな言い方するなんて。

 

 ハイルの含みを持たせた発言に興味を持った俺とシャウィーさんはそれについても質問する。

 しかし、その答えははぐらかされてしまった。


「どうでもいいだろ?あいつらがどいつらだって。今の俺たちには何も関係がないんだ。」

 

「ちえっ。面白くねぇなぁ。」


「こっちの話なんだよ。また気が向いた時にでも話してやらぁ。」


「……了解したよ。」


 そうして俺たちはこの会話に終止符を打った。

 そうすると、調子を取り戻したらしいハイルが俺に口角を上げながら、こう言い放ってきた。


「じゃあヒカゲ。ここにいる三体のゴブリン、1人で全員倒してみろ。」


「……ハァ!?」


――――――――――――――――――――――


 俺はそう言われ、今は巣の真ん前に来ていた。

 当然ゴブリンたちには当たり前のように気づかれている。

 ハイル曰く、勇者試験にはサバイバル形式のものが多く、それには必ず魔物襲来がセットでついてくるのことが多いのだそう。

 さすがは数々の勇者文献を漁っている(らしい)男だ。

 情報収集量が違う。

 それに俺はまだオークリーダーに対して殺そうとしたこと自体はあるとは言え、まだちゃんと生き物に対して殺生をしたことはない。

 もし勇者試験の時に魔物襲来があり、俺が魔物を殺す決意を決めきれていなかったり、殺した後に動揺して錯乱してしまうと逆に魔物に殺されるから、ここで慣らしておく、という魂胆もあるのだとか。

 ちなみにシャウィーさんに勇者試験のネタバレを聞こうとハイルは奮闘していたらしいのだが、あえなく却下されまくったらしい。


「……んで、剣も持てない俺はどうすればいいんだ?」


 もし死にそうになったら助けに行く、とはハイルが言っていたが、まず俺は殺す手段が魔法しかないんじゃないのか?

 早速動揺する俺。

 もちろんその動揺を、それもゴブリンそっちのけで考えている俺を、ゴブリンたちは見逃すはずがなかった。


「ゴ!ゴ!ゴゴ!!」


 すぐさま棍棒を持ち、3人同時に俺に襲いかかってくる。


「!!」


 どうにか察知できた俺は、後方にジャンプしてことなきを得た。

 だが咄嗟のことすぎて着地地点でよろめき、尻餅をついてしまう。

 そこに最低限の胸当てと膝当てをつけた1匹のゴブリン(身長的には俺の二分の一くらいだろうか)の棍棒での追撃が俺を襲った。


「うがっ!!」


 命中したのは腹部だ。

 俺はここ数日で発達した腹筋によってダメージ自体は最小限に抑えられたものの、それでも体の中の臓器が悲鳴をあげているように痛んだ。

 真剣白刃取りで痛みには慣れているつもりだったが、それとはまたベクトルの痛みに俺は涙を浮かべる。

 ……あぁ、痛い痛い痛い!!

 

「ゴ!ゴ!」


 ゴブリンは再度俺の腹部に棍棒を叩きつけようとほくそ笑みながらジャンプする。


「!!」


 俺はどうにか横に転がってその攻撃をかわし、フラフラになりながらも立ち上がった。

 そのせいで俺のコートに砂がつくが、そんなことは今気にしている場合ではない。

 ふとみると、ゴブリンのうち前線に出てきているのは1匹で、残りの2匹は頭がいいのか悪いのか、後方で笑いながらその光景を見ていた。

 こいつらぁ……。

 するとまた前線のゴブリンは、


「ゴ、ゴ、ゴゴ!!」


 という気味の悪い言語を発しつつ、俺に向けて棍棒を振ってきたのだ。

 今度はジャンプせずに横振りで。


「くそ、が!!」

 

 俺は痛いという思考回路をどうにか押さえつけ、前線のゴブリンの攻撃をどうにかかわす。

 しかしながら、俺の顔には焦りの表情が出ていた。

 どうする!?どうすればこいつらを倒せる!?

 俺の最高火力である【雷】は範囲が狭いのみではなく、打てても1発、2発が限度だろう。

 しかも2発打てたと仮定しても俺はその後体力の限界を迎えておそらく気絶する。

 つまり、使えるのは、1発しかない!

 俺は前線のゴブリンの攻撃をかわすのに躍起になって、ほとんど思考のできない頭で考える。

 だとすると、ゴブリン全員が密集したところを狙うしか、方法はない!


「けどそんな方法、いい案があっても、今の頭じゃあ思いつかねぇよ!!」


 俺は絶叫する。

 その間にもゴブリンは攻撃を止めることはない。


「ゴ、ゴゴ!!」


 跳躍し、今度は俺の顔面を狙ってきたのだ。


「!!?」


 俺は咄嗟に腕を顔の前でクロスをして防御の姿勢を取る。

 が、思っていた数倍ゴブリンのパワーは強く、俺は少しだけだが後ずさってしまった。

 そこにすぐさまゴブリンは俺の足元に第二撃を浴びせようとしてくる。


「させるかぁ!!」


 その攻撃を俺はジャンプで上手にかわし、ぎこちない飛び蹴りをゴブリンに浴びせる。

 俺の攻撃はどうにか急所に入ったようで、ゴブリンは地面に叩きつけ、うめき声を上げた。

 後ろにいるゴブリンたちはしかめっ面をして俺の方を見てくる。

 

 ……考えるならあのゴブリンが動きを止めた今だ。

 俺が使えるのは己の拳と足、そして草、雷の制限付きの魔法だけ。

 それをどうにか工夫して、奴ら3匹を倒す必要がある。

 どうすれば……

 そこで、俺は昨日の魔法特訓を思い出す。

 確か俺があの時使ったのは単純な雷と、草を成長させる魔法、そして草を相手に絡めて動きを封じるものだ。

 この3つを使って何か……、何かできないか!?

 そんな時、俺の頭に天才的なアイディアが浮かんできた。


「そうだ、そうだ!!こうすりゃあいいんだ!!」


 俺はようやく起き上がってきた前線のゴブリンと、後ろのゴブリンを互いに見て、不適な笑みを浮かべる。


「ゴゴ、ゴゴ!!」


 ゴブリンは攻撃を受けた影響で怒り狂ったのか、突進しながら棍棒をヤケクソに俺に振ってくる。

 だが、もう俺は焦らない。


「行くぞ、【草の鎖(グラス・ザ・チェーン)】!!」


 俺は前線のゴブリンの足に、草を絡ませて、動けなくしたのだ。


「ゴ!?」


 ゴブリンは突進してきていたので、その勢いのまま倒れてしまう。

 思ったよりこの草の鎖は硬いのだ。


「よし、じゃあさらに!【草の鎖(グラス・ザ・チェーン)】!!」


 俺は次に、後ろで傍観しているだけのゴブリン2匹に視線を向けて、【草の鎖(グラス・ザ・チェーン)】を発生させたのだ。

 途端に2匹のゴブリンも、足に草が絡んで動けなくなる。

 俺も少し体力が持っていかれたが、関係ない。

 そして、俺の案はここからだ。


「ハァ……ハァ……【草の成長(グラス・グロース)】!!」


 と俺が唱えると、ゴブリンたちの草の鎖が俺の意のままに成長して、3匹が背中合わせになる格好で一箇所に集まったのだ。

 もう俺の体力はほとんどない。

 だが、もう準備は完了した。


「これで最後だ!!【(かみなり)】!!」


 俺はゴブリンたちが一箇所になったところにあの細い雷を打ち込んで、3人を一気に戦闘不能にしたのだった。


「よっしゃあぁ…………!」


 そして俺はゴブリンを倒した達成感と疲労感で、地面にぶっ倒れたのだった。

 その後、俺の両鼻から鼻血が一定時間出てきたのはまた別の話なのだが。


――――――――――――――――――――――


「ほうほう。まぁ初戦にしてはいい方なんじゃないのか?」


 というのが俺が例の茂みに帰ってきた時のハイルの感想だった。


「もうちょっと評価が高くてもいいんじゃないのかよ?」


 俺はハイルの辛口な評価に対して文句を言う。


「いやいや、後半のお前の機転の利かせ方に関しては高く評価している。だが、前半の避けてばかりの闘い。たまたま1体1だったから良かったが、3体1だとああはいかないぞ?」


 背後を突かれてのけぞったところを袋叩きだ。

 とハイルはジェスチャーをしながら説明する。


「まぁ奴らが1体1体出撃するパターンでほんと運が良かったって感じだな。」


「そうかよ……。」


 不貞腐れる俺。

 だがシャウィーさんはハイルとは真逆でかなり高評価だった。


「いやいや、最初に一撃を喰らっても、負けじと戦って最後に機転を利かせて勝利するのは、私としては初戦なのだとしたら高評価ですよ。初心者だと初撃を喰らってそのままの勢いで死んでしまうか、恐れおののいて逃亡するパターンもかなりありますから。」


「そ、そうですか。ありがとうございます!」


「ハイルさんも、もうちょっと褒めてやってもいいじゃないですか。さっきだって、ヒカゲさんが決めた時は我が子のように喜んでたくせに。」


 シャウィーさんからの突然の暴露に、ハイルは顔が赤くなった。


「お、おいシャウィー。何言ってんだ!?」


「ハイルー?お前、声裏返ってるぞ〜?」


「裏返ってねぇよ!!とっとと真剣白刃取りの稽古をしに行くぞ!!」


 感情を一切隠せてなくて恥ずかしがっているハイルは、いきなり俺を担いでおんぶの状態にすると、シャウィーさんと一緒にラグユトスへと帰ったのだった。


――――――――――――――――――――――


 午後6時。

 俺とハイルの真剣白刃取りの練習も、半ば終わり際になっていた。

 ちなみにシャウィーさんは明日の勇者試験のせいで立て込んでいるらしく、ギルドのカウンターの奥に早くから戻っていってしまっている。


「ほら、199本目!!」

 

「!!」


 ハイルの腕から片手斧が振り下ろされ、俺はすんでのところで両手を打ちつけるが惜しくも外れてしまい、斧は俺の頭に当たっていた。


「くそぉ……。」


 俺は頭をさすりながら悔しがる。


「いやいや、最初と比べるとかなり惜しいぞ?もう動体視力で俺の片手斧、見えてきてるんだろう?」


「あ、あぁ少しはな。」


 俺はいまだに掴むことはできないものの、今日になってようやくうっすらとではないほどにしっかりと、肉眼でハイルの斧を視認できるようになっていた。

 まだまだ掴むには至らないが。


「まぁ成長したってことだな。じゃあ、最後行くぞ。200本目!!」


 そう言ったハイルの斧はまた俺の手をすり抜けて、頭に直撃する。

 俺はこの日もハイルの斧を掴むことはできずに、終わったのだった。


「さて、今日の特訓は終わりだ。……そんで、明日は勇者試験だ。俺は信じてるぜ。お前が勇者になることをな。」


 ハイルは特訓が終わってギルドの地面に倒れている俺に激励の言葉を浴びせる。


「あぁ……。なってやるよ、勇者。見てろよ、ハイル。」


「あぁ。」


 ハイルはそんな俺を見て、笑っていた。

 その笑顔を見て、俺はハイルに向けて今まで悩んでいたことを打ち明ける。


「悪い……。ハイル。俺……、旅の仲間をどうするか決めかねてて……。もし良かったらハイル。お前に第一の勇者の指名を使いたいんだけれど、ダメか?」


 すると俺のその言葉を待っていたのか、ハイルは多少喜びの表情で、すぐさま口を開いた。


「何言ってんだ。いいに決まってるだろ?俺はこの1週間の特訓を通して、お前は努力もできる、仲間意識もある、そして機転も効く、最高の勇者になれるって俺は確信した。そんなやつについていけるのなら、俺は光栄だ。」


「……!!ハイル。じゃあ、これから、よろしくな。」


 俺はハイルに向けて拳を突き出す。

 それにたいしてハイルは、


 「あぁ。よろしくな。それにお前なら……、いや、何でもない。これはただの俺の私情だ。忘れてくれ。」


 と何か意味深なことを言いながら拳を突き返して、拳と拳が触れ合う。

 俺はハイルの意味深なことをいうクセについても、もう一切気にしなくなっていた。


「じゃあヒカゲ。まずは勇者試験、合格しろよ。」


「あぁ。わかった。絶対に合格する。」


「……健闘を祈る。」


 俺はハイルとそう誓ったのち、宿に帰って明日に備えるために、いつもより早く寝たのだった。

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