第2話 いざあの街へ
第2話です!!よろしくお願いします!
「お前.....一体何者なんだよ……。」
「………………」
俺は、今俺を助けてくれた男に向かって無意識ではない瞬きを何度と繰り返す。
……こんなことがあっていいのか?
というか俺が殺される直前にこいつがでてくるとか、都合が良すぎやしないか?
などと、命の恩人に対してあらぬ疑いをかけながら。
だが、俺を殺そうとしたオークのリーダーを殺した男は、無愛想な顔、というか怪訝な表情でこちらを見てくるだけだ。
ただ淡々と。
まるで俺を値踏みするかのように。
もちろん俺もそれ以上の口は出さない――いや、出せなかった。
返り血が頬とそいつの得意武器の斧についた状況で見つめられているのだ。
当然運動能力は負けている。
そんな状況で俺が失言をし、この目の前にいる男が俺に襲いかかってきたら、俺に勝ち目はなく、スパッ、と首を切り落とされてゲームオーバーだからだ。
もちろんそこまで短気なようには見えないのだが、異世界に来てからの初めての人間だ。
少し慎重にいきたくなる。
どれくらいの時間が経っただろうか。(まぁ少なくとも太陽が上にあるのでそこまで時間はたっていない)沈黙を破ったのは斧使いの男の方だった。
「ったく、こっちが黙ってんだから、それはあまり話したくない、っていうことがわからないのか?青髪。」
「は?青髪?」
「何だ?その頭につけてるもんは髪じゃないのか?だったら何だ?紙ってか?」
斧使いの渾身の寒いギャグを入れた冗談を受け、俺はハッとする。
そう言えば、さっきカツラを脱いだんだった。
オークが持っていたことを思い出し、あたりを見てみるが、どうやら飛ばされた、もしくは返り血でグチャグチャになっているらしい。
まぁ異世界だし、なくても大丈夫だろう。
「あぁ。悪い悪い。確かに俺の頭にはしっかりと青色の髪がついてるよ。」
「あぁそうかい。それにしてもお前、俺がいたとは言え、あのオーク集団に無防備で相対してよく生き残れたな。相当運がいいらしい。」
「まぁ、本を投げて他のオークは足止めをしたからな。」
すると、斧使いは微妙な顔をしてこう続けた。
「だからそれがより一層危なかったんだよ。あいつらの部下の方はな、知性がない分、怒らせたらもう怒りに身を任せて襲ってくるんだぜ?今頃だったらお前は、リーダーと一騎討ちをする前に部下のオークによって食い殺されていただろうよ。」
斧使いはあくまで淡々と語る。
「おい、待て、ということはお前、部下のオークも……」
「もちろんだ。たまたま走ってたお前を見つけたから、部下のオークも全員殺しておいた。」
おいおい待て。
あのオークの部下って、かなりの数いたよな?
さっきのオークのリーダーを殺した手つきと言い、こいつ只者じゃないのではないか?
少なくとも、人間は辞めている。
だがしかし、口調を聞いてみた感じ、そこまで悪いやつではなさそうだ。
だったら、このまま道案内まで頼むとするか。
「……それはありがとう。ところで俺、あの遠くに見える街に行くの初めてでよ。」
俺は街を指差しながら男に尋ねる。
「あそこまで連れてってくれないか?」
すると男は、
「あぁ。いいぞ。」
と二つ返事で了承してくれた。そして、
「じゃあお互い挨拶をしておかないとだな。俺は【ハイル】。しがない冒険者だ。後そうだな。俺の【職業】を教えてやるよ。俺の職業は、【斧士】だ。お前は誰で、何の職業なんだ?」
と意味のわからないことを言ってきた。
俺は戸惑うが、ここは正直に話す。
「俺はヒカゲ……なんだけど、職業ってもんが一切わからないから教えてくれないか?」
まぁRPGとかをやってると自然とわかるし、さっきのオークのリーダーも似たことを言っていたので察しはつくのだが、さっきの短剣にさわれなかったこと然り、何かと細かいことは知っておきたいのだ。
だがしかし、斧使い、もといハイルの瞳には驚愕が宿った。
「は?職業を、知らない?お前、転生者か何かか?」
次はこちらの瞳に驚愕が宿る。
「何だお前、この世界って、転生者って概念、あんのか?」
「いやまぁ、あるにも何も、お前は知らないだろうが、ちょっといざこざがあってな。」
途端に若干だがハイルの顔が暗くなる。
……しちゃいけない話題だったようだ。
「ところで、ヒカゲ。お前はどの世界、というかどの地方から転生してきたんだ?」
そしてハイルが突然そんな質問を投げかけてきた。
と、ここで俺は考える。
そのまま正直に日本や地球、と言っても転生者が一般人にまで届くような規模となると普通な返しをされそうである。
だったら日本を暗喩しつつ、未だかつていないような国名をあげようと思ったのだ。
えーと、日本と言えば……
俺は考える。
侍、忍者……は多分日本人が伝えてる。かと言って東の国、というのも異世界ものにありがちな展開だ。絶対に誰かが伝えているだろう。
となるとどうするか……。
そこで俺はある案が浮かんだ。
「俺はな、漫画国からやってきたんだ。」
「は?漫画国?何だそれ?……聞いたことねぇな……。」
どうやら策略は成功したようで、俺はハイルを困惑させることに成功したようだった。
そう言えば、今更になって、俺はちゃんとした人間と会話ができていることに気づいた。
異世界では話し書きはどうなるだろうと思ったのだが、話すことに関しては関係のないようで安心する。
「まぁいいだろ。俺の出生国くらい。とにかく、俺に職業ってもんをを教えてくれないか?」
俺の言葉によって、熟考していたハイルは意識をこちら側に傾ける。
「……!。あぁわかった。じゃあ話すとするぜ。あの街、【ラユグトス】に着くまでな。」
こうして、俺とハイルは初めて歩みを進めた。
―――――――――――ラユグトス周辺―――――
「…………っていうことだ。わかったか?」
どうにかハイル先生の職業講座はラユグトスにつくまでに終わることができたようだ。
簡潔にいうとこんな感じ。
・職業には10種類ほどの通常職業とレア職業があり、それは生まれた時から決められていて、ギルドで調べられる。
・また、職業とは別に魔法適正というものもあり、自分の適性の魔法はある程度使えるらしい。(ちなみに基本職業の魔法使いは魔法の威力が上昇し、制限も緩くなるらしい。)
・通常職業は三段階までグレードアップができ、色んな派生職業がある。
・レア職業はグレードアップこそできないが、特殊能力を持っている。
・職業はあくまで戦闘用の職業であって、日常生活には支障をほとんどきたさないものの、職業には制限があって、その武器以外が持てない、などがある。
ということらしい。
つまり、俺がさっきオークのリーダーが持っていた短剣に触ることができなかった理由は武器制限があったから、ということだ。
かなりこの制約は面倒くさそうだ。
あと、他にも色々レア職業の話をされたが、おおまかにしか聞かなかった……というより、少し種類が多すぎて大方忘れてしまった。
まぁハイルも「何かの縁だ。レア職業になった場合は文献見ながら詳しく教えてやる。」って言ってたし、大丈夫だろう。
そんなこんなで俺とハイルは、最初の街、ラユグドスについたのだった。
――――――――ラユグドスのギルド――――――
「ここがギルドか……。」
俺は相当なくらい興奮をしていた。
なんせ夢見まで見ていた異世界のギルドに、今俺が足を踏み入れているのだ。
興奮しないわけがない。
「おい、ヒカゲ。ついてこい。」
ハイルはそんな俺を無視して、ギルドの奥へと案内していく。
ちなみにギルドは昼時だからかほとんど人がおらず、俺が期待していた初対面の人物に期待の視線が募る、という展開はかき消えてしまった。
そんな杞憂はあったものの、俺たちはすぐにギルドの最奥にある、ハイルによると能力査定所というところ(実際何か書かれた看板が貼ってあったのだが、読むことができなかった。ハイル曰く、「異世界人は職業が判明した途端に文字も読めるようになるから安心しとけ」ということらしい)にやってきた。
「おーい、誰かいるかー?漫画国ってところの異世界人がきたから、査定を頼みたいんだがー!」
ハイルは窓口に誰もいないことを確認して、盛大に怒鳴る。
「ちょいお前、流石にそれは無礼がすぎるんじゃ……」
「いやいや、こんくらいがちょうどいいんだよ。何てったって俺は、このギルドの常連だからな。」
そんなところで見栄を張られてもなぁ……。
だがそのハイルの行動は正しかったようで、窓口の死角から、まだ若い、ピンクの髪のザ・受付嬢という感じの女性が出てきたのだ。
「あ、ハイルさん、ごめんなさ〜い!ちょっと書類作りに困っちゃってて、本日はどのようなご用件で?……といってもさっき言われてましたね。」
「あぁ。それともう一つやってきたクエストの件でやってほしい手続きがあるんだが、まぁそれは後でいい。とにかく、こいつの職業を見てやってくれ。」
「わかりました。じゃああなた、お名前は……」
「あ、俺の名前はヒ……」
「こいつはヒカゲだ。」
言われた。
俺はハイルの方を軽く睨むが、やつはそんなことには目もくれず話し出す。
「金は出すから、最速で頼む。こいつはまだ、この世界に慣れてないんでな。」
「了解です。最速だと、20000Gとなりますね。」
それを聞いたハイルは躊躇なんてものはなく、即座にその分の金(後で日用品を見てみると、おそらく日本円と価値は一緒のようだった。)を出した。
10000Gと書かれた紙幣を二枚だ。
それを受け取った受付嬢の女性は、
「はい、ちょうどですね。では、準備しますので、しばらくお待ちください。」
と言い残し、またもや死角へと戻っていった。
そんな中俺は貨幣があることに驚き、どうにも異世界って感じがしないな、と感傷に耽っていたのだが、ハッと我に帰る。
いや、俺、何人に金出させてんだよ。
「ちょっと待てよハイル。それは俺が出すべきだろ?皿洗いとかでも何でもいいから、俺が支払うべきだ。」
しかし、俺の意見は、
「知るか。お前の都合なんぞ。」
と一蹴された。
「けどよ、なんか負い目を感じるっていうか……」
「いいよ。そんなもん。言っとくが、俺はこの冒険者という職業でかなりの額を稼いでいる。だから金銭的には困ってねーんだよ。」
「……そうか。わかった。」
それが建前であれどうであれ、理由をつけられたのならそれに従っておくのが筋ってもんだろう。
その後、しばらくすると受付嬢の女性が何やら大型の魔道具を持ってきて、俺は体全身をスキャンされた。
俺の体を光が突き抜ける。
「うわっ...眩しっ」
「じっとしててくださいね〜。この魔道具かなりガタがきてて、静止してないと上手くできなくなってるんですから。」
「もうそろそろ変える気にはなんねぇのか?これに限らず、他もボロボロだろ?」
と受付嬢に聞くのはハイル。
「いやいや、これに関してはいくら私が権力を持っていたとしても私の一存じゃ決められませんし、何より節約は大事なんですよ?どこぞの金持ちと違いましてね。」
「おうそうか。ちなみに俺は金を持っているが貴族ほどじゃないし、ガタのせいで正確性が欠けてからじゃあ遅いんじゃねえのか?」
「そうですね〜。検討しときま〜す。」
俺が2人の皮肉の言い争いを間近にみながら、スキャンはどんどん進んでいき、遂に終了した(終了時の音がまさしく壊れかけの洗濯機だったが、この魔道具大丈夫なのか?)。
だが、
「じゃあこれから1時間くらい検査結果が出るのに時間がかかりますので、少々お待ちください。」
「え?ウソだろ?」
俺はハイルの方を見る。
だがハイルは当たり前かのような顔をしながら、
「マジだ。何なら通常だと1日2日はザラだぞ?」
とえげつないことを抜かしてきた。
こうして俺は、ハイルと一緒に待ちぼうけをする羽目になってしまったのだった。
そうして1時間がたった。
俺はその頃には受付のお姉さん、もとい【シャウィー】さんとも話すようになっていて、(魔道具が結果を出すのであちらも暇らしく、ハイルとお姉さんがさっき言ってたクエストの手続きをしている時以外はハイルと3人で雑談に花を咲かせていたのだ。)初めに感じていたほど1時間は苦痛ではなかった。
「では、もうすぐできたようですので、結果を見にいってきますね。」
シャウィーさんは三度裏へ引っ込んでいく。
そこまで大きな死角には見えないのに、中は四次元ポケットにでもなっているのだろうか。
そんな俺の疑問をよそに、ハイルが話題を振ってくる。
「さぁ、お前の職業は何なんだろうな。」
「さぁ、何だろうな。少なくとも戦える職業だったらいいんだけど。」
するとその時だった。
「ウッソでしょ!?」
というシャウィーさんの叫び声が例の死角から聞こえてきた。
と同時に本人も出てくる。
だが顔は動揺の色が見られ、体の興奮も隠しきれていないようだった。
「一体何があったんだ?」
「そんな反応されると俺が怖いんだけど……」
俺たち2人の返答にシャウィーさんはやっと我を取り戻したらしく、ハッとなる。
「あ、失礼しました。私ということが。それが、ヒカゲくんの職業がかなりのレア職業でして……」
「何だったんだ?」
ハイルは食い気味のようだ。
だがそんな俺も、
「もったいぶらずに早くいって下さいよ。」
と急かす。
それに対してシャウィーさんは、
「えーと、それでは言いますね。」
と前置きを残したのちに、はっきりとこう宣言した。
「ヒカゲさんの職業は、ズバリ、あの【勇者】です。」
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