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最高の【勇者】になるために  作者: レイ
第1章 ラユグトス編
10/12

第10話 ロッドの過去と、湖での戦い

 一旦、あたしの過去話を長々と、語らせてもらおう。

 あたし……ジニアス・ロッドの職業がわかったのは、齢にして10の時だ。

 あたしは全員がなんらかの突出した才能を持ち、このラユグトスの中では1番の出世世帯だと言われていた、ジニアス家の次女として生まれた。

 兄妹はあたし合わせて4人いて、兄さんや姉さん、それに弟は、順に経済、鍛治師、芸術の才能をどんどんと羽ばたかせていった。

 しかしあたしは、平均的な学力や運動神経はあったものの、特に突出した才能(魔法適性は5つと今となって思えば豊富だったが、それは他の兄妹も同じだったので当時の自分の中では突出している、とは思えなかった。)は持っていなかった。

 そんなあたしを、両親は異常だと思ったのか数々の職業について見て回ったのだ。

 もちろんあたしは、その両親の行動に感謝自体はしている。

 あたしだってこの家の子に生まれたのに、そんな悲惨な現実、認めたくなかったのだから。

 結局探しても探してもあたしに才は見つからず、あたしは部屋に引き篭もり、親は優しく接してはくれるものの、以前のような天才を迎えうような待遇までもはしてくれなくなった。

 そして兄、姉はもちろん、弟も勉強と地位の確立のために、この世界の半ば中心に位置する【中央都市】に行ってしまった10歳の頃、冒頭にあるようにあたしには【勇者】の職業があることがわかったのだ

 そんなあたしを、両親も、自分自身も喜んだ。

 このままだと、なんか、あたしの存在はこのジニアス家にはなかったようにされそうだったから。

 親はあたしのことを生涯可愛がってくれるだろうが、この世界にジニアス家としてのあたしの記録が残らないようにされそうだったのだ。

 そこは才能と才能が産んだ遺伝子だろうか。

 直感でわかった。

 もちろんあたしが死んだのちにこの世界にいないことにされるのはごめんだし、この両親もあたしが魔王を倒したらこれまでのことも称して、才能ある一族として讃えられると考えたのだろう。

 【勇者】とわかってからはすぐさま、1日のほとんどに近い時間をトレーニングと勇者資料の読書へと費やした。

 まぁ大抵は、親が決めてきた日程に従うだけだったのだけれど。

 そんな背景もあってあたしはこの町に残ったため、町内の人からは元からの家系と職業【勇者】であることから、あたしを【神童】と呼び始めた。

 あたしはこの家の落ちこぼれでだけどたまたま職業が【勇者】だった、運が良いだけの平凡な一般人なんだけどね。

 それでもあたしはそのイメージを崩さないように、【神童】として振る舞い続けつつ、日々日々トレーニングをしていった。

 そして勇者試験が受けられるになった17歳の時。

 あたしはもちろん、言わずもがな、勇者試験を受けるように志願し、町内の人たちに強い人を2人、旅に連れて行くと宣言し、町内の人にも、試験を受ける自分にも発破をかけた。

 勇者試験は一度失敗すると再試験のために1年明ける必要があり、二代目聖剣使いのバライト・レイフィスが亡くなって20年近くが経つ今、もうそろそろ聖剣が見つかってもおかしくないためなるべく早く勇者になる必要があるからだ。

 しかしその3週間後、受付の人から今回の勇者試験に当たって2人目の【勇者】が見つかって、その勇者候補も試験を受けるという話を聞いた。

 その時にあたしは自分の特別性が薄れた、なんかの怒りの感情なんかは湧いてこず、逆にほっとして、その勇者候補と友達になりたいと思ったのだった。

 なんせ私も、()()()()()()()()【勇者】になったのであって、特別な才があるとは自分でも思っていない。なんなら1人だと勇者試験でのプレッシャーがすごいのではないか、と試験当日に恐怖を感じていたくらいだ。

 それに知り合いの勇者はいた方がお得だし。

 そしてひょんなことから出会った勇者候補――ヒカゲ君の初見の印象はかなり卑屈、というものだった。

 だっていきなり「俺に質問の権利はないのか?」って聞いてくるんだよ?

 卑屈以外のなんでもないじゃん。

 けどそれは少し誤解だったようで、ヒカゲ君は、ただ単なるネガティブ思考だということにあたしは気がついた。

 その体で話して行くとかなりヒカゲくんとの会話は楽しく、簡単に勇者試験でも合格できそうだ、とも思った。

 だけど勇者試験が始まって、何事もなく過ぎ去った日の夜、あたしとヒカゲ君は魔物に襲われて、必死に逃げた先の湖で遭遇した。

 遭遇してしまった。

 【思考持ち(ハブレイン)】に。

 どうしよう。

 どうしようどうしようどうしようどうしよう。

 さっきの戦いとダッシュで体力なんてものはゼロに近いし、パンチやキックじゃあこの硬そうなモンスターウルフを倒せそうにない。

 ……ってことは、あたし達、

 りたいあ?

 その考えに至った時、あたしの中の感情は【神童】としてのプレッシャーからに恐怖と、焦りと、理不尽さと、その他色々のごちゃごちゃしたようなもので、一気に、ダムの水ように、決壊した。


 ―――――――――――――――――――――――――


 俺とロッドを、その白と黒のオッドアイを持つモンスターウルフのハブレインは湖の反対側で嘲笑していた。


「さぁ、我が同族たちよ。人肉狩りを始めるぞ。」


「ウォーン!!」


 そんな声が響き、モンスターウルフ達が呼応する。


「なぁ、どうするんだロッド!」


 多少焦っている俺はロッドに向かって詰問した。

 目の前にいるのはさっきロッドが話していたハブレインだ。

 それもモンスターウルフの。

 急いで逃げなければあっという間に食い殺されるだろう。

 しかし、ロッドは緊張と緊急事態のせいで錯乱したのか、俺を睨みつけながらこう言った。


「わかるわけないでしょそんなこと!!そんなにあたしを便利屋みたいに使わないでよ!」


 その目には涙が浮かんでいる。


「……どうしたんだよ!?急にそんなこと……!」


「そりゃあヒカゲ君はここの町出身じゃないからわからないよね!!あたしがどんな風に育ってきたのかを!!」


 「……!!」


 それを聞き、俺はたじろいだ。

 ……そんなもん今言われたって、それはどうにもこうにもなんねぇだろ!!

 実際、俺たちに向かって総勢20匹は超えるモンスターウルフ達が湖の周りをかけてきている。

 そんな俺たちの会話を聞きながら、さらに嘲笑するようにモンスターウルフの首領は言った。


「なんだ?仲間割れか?騒々しいな。」


 そうだよ仲間割れだよ悪いかよ!!


「何!?あたしは全知全能だって思われてるの!?いや、そんなんじゃない!!ただの平凡な一般人だよ!!」


 俺の横ではロッドがこれでもかというほどに喚き出す。

 そして大きく息を吸った上で、こう叫んだ。


「ヒカゲ君。あたしに結論が出して欲しいなら、こう言うよ。もう体力もない。よって走ることも魔法を使うこともできない。かといってただの格闘技じゃこの大勢のモンスターウルフを倒すのは不可能。だからもう、あたし達はリタイアするしかないん……」


 だがそれを言い終わらせる前に俺は彼女の口を塞ぐ。


「バカ!!聞こえるぞ!どっかでこれを監視している試験官に!!」


 確か説明を受けた時、リタイアしたいと口頭ではっきり言えば試験官が駆けつける、とギルドの職員は言っていた。

 さっきの発言を最後まで言っていたらどうなっていたか、なんてものは俺が口を塞いでしまったからわからないが、到底ロッドを落ち着かせないと彼女は錯乱したままの状態でまたリタイアすると言いかねない。

 しかしロッドは俺の手を平手で振り払って絶叫した。


「……!リタイア以外なんの方法があるの!?あるなら言ってよ!!この体力でできる悪あがきを!!何?勇者試験のプレッシャーに耐えかねて死でも選ぶっていうの!?……あたしだって考えた、この神童って肩書きなりに考えたよ!けどないじゃん!あいつ(モンスターウルフ達)の戦略は完璧で、あたし達をここまで体力的に追い詰めた後で殺そうとしてる!!じゃあ、他にリタイア以外に何があるっていうの!!」


 「……。」

 

 俺は無言で涙を流しているロッドの話を聞く。

 確かに彼女の言っていることは一理あるし、そのなりから、彼女が何かを抱えていて、とてつもなく悔しがっていることは一目瞭然だ。

 だがロッドの言っていることは俺の世界の常識ではまだ覆せる部分があるし、ロッドの過去話なんて、今は聞いている場合じゃない。

 そんなもんは、後でいくらでも、どのくらいでも聞ける。

 聞いてやる。

 俺は覚悟を決め、焦りの表情からから真剣な表情へとシフトチェンジさせた。

 もうモンスターウルフの距離も、俺たちまで50メーターあるかどうかわからない。


「おいロッド。俺はまだリタイアなんてしないぞ。俺はまだ、この状況でも諦めない。だからお前も、涙拭いて、すぐに俺と一緒に戦ってくれ。」


 そんな俺に対して、ロッドは甚だ疑問形で聞く。


「!!……どうして……?」


 その答えは、明らかに異世界に来たばかりの自分に言ったら鼻で笑われるようなものだ。

 だがそれは昔の話。

 今の俺は、躊躇なくロッドに言い放った。


「まだ俺の心の中に、諦めたくない、って意思がある。そして、その目標を達成したい、って決意もある。それだけだ。けどそれだけで俺たちは、何事も成し遂げることができるんだよ!」


「!!」


「かかれ!我が同胞達よ!!」


 その時。

 タイムラグなんてない、ちょうど俺がロッドに言い終えたその時だった。

 モンスターウルフが一斉に俺とロッドに襲いかかる。

 しかし俺は、その対策法をどうにか考えついていた。


「【多くの草の成長(モアグラス・グロース)】っ!!」


 俺は数多もの草の茎を成長させ、全てのモンスターウルフの手足をがんじがらめにし、全員捕まえたのだった。

 俺の元いた世界じゃあ、こういうのを根性論って言うんだよ!

 俺はほとんど信じてないけどな!!

 

「なんだと!?貴様にそのような体力など残っていないはず!!」


 俺の行動を見て狼狽えるハブレイン。

 それにさっきの俺の啖呵が効いたのか、錯乱が治ったらしいロッドも別の理由で目を丸くしていた。


「ヒカゲ君!!血が!!」


 そう、俺には残されていた体力なんてものは微塵もない。

 俺は一昨日のゴブリン戦同様に生命力を犠牲にし、激しい鼻血、そしてゴブリン戦では起こらなかった吐血と酸欠を起こしながら、地面に寝転んだのだった。


「ガハッ……ハァ……ハァ……。」


 こりゃあ明日から貧血確定だな……。

 もちろん俺の魔法にかかったモンスターウルフ達はその場から動けていないようだった。

 よし……。作戦は成功した。

 ……あとはこの無抵抗なモンスターウルフを倒した上で、ハブレインのモンスターウルフを倒せばOKってわけだ。


「……ガハッ。……じ、じゃあ俺はこいつら倒しとくから、ハァ……ハァ……。ロッドはあのハブレイン倒しといてくれるか?」


 俺は吐血と酸欠を引き起こしている体をどうにか動かして立ち、ロッドにそう伝える。

 するとロッドは涙を拭いて、キリッとした目つきで、こう言った。


「わかった。ヒカゲ君がここまでやってくれたんだもん。私だって良いとこ、見せないとね。」


「おう……よろしく。ロッド。」


 俺はそう返答し、ハブレインの方へ行くロッドを見送った後で、モンスターウルフの群れの方を見、目をぎらつかせながら拳を構えた。


「じゃあ……、これまでの異世界に対する()()()()()の恨みつらみ、お前らで晴らすとするよ。」


『ギャウィン!?』


 モンスターウルフ達はその声を最後に、俺の怒りの拳によって無抵抗のまま成敗されたのだった。


 ――――――――――――――――――――――――


 あたしは、重い体を引きづりながら湖の反対側にまで来ていた。

 妙に空が明るい。

 ……そうか、もうすぐ朝が来るんだ。


「やはり、貴様が来るか……。あのオスの方はもう体力が少ないようだったからな。」


「へぇ。部下がやられたのに逃げずに待ってたんだ。」


 あたしは目の前にいる【思考持ち(ハブレイン)】のモンスターウルフに対してそんな言葉をかける。

 だが返ってきたのはかなり意外な言葉だった。


「それはそうだろう。他の種族には関心がないが、私の同族達を置いて逃げることなど、群れのリーダーとしてあるべき行為ではないではないか。私はただ、その信念に向き合っているだけだ。」


「悔しいなぁ……。本当に【思考持ち(ハブレイン)】だよ。」


 わかっていたって、そんなこと、姑息な種族である人間でできる人物なんて一握りだ。

 例え才能を持っていたとしても、職業が【勇者】だったとしても。


「けど、ここは勝たせてもらうよ。……あたしだって、ヒカゲ君から頼まれているんだから。」


 そういえばヒカゲ君は、あたしに対して冗談で【神童】ということはあれど、基本的にはロッドの名で呼んでくれた数少ない人物の1人だった。

 彼が2人目の勇者候補だったことを、改めて嬉しく思おう。

 そんな思いを抱えながら、あたしは覚悟を決めた顔で【思考持ち(ハブレイン)】のモンスターウルフに対して向き直る。


「では、行くぞ!!」


 まず先行で駆け出してきたのは、【思考持ち(ハブレイン)】の方だった。

 さすがは四つ足。

 一般人なら視認できないほどの速さであたしとの距離を詰める。

 だけどあたしだって【勇者】だとわかってからの7年間、ぼーっとして過ごしてきたわけじゃない。

 あたしには【思考持ち(ハブレイン)】の動きが容易に観測できた。


「【火の玉(フレアスフィア)】!」


 あたしはこの道のりを歩くときにたまったなけなしの体力全部と少量の生命力を乗せて、【思考持ち(ハブレイン)】が通る場所を予測して放つ。

 これで少しの鼻血が出てしまったが、そんなものは関係ない。

 ヒカゲ君が身を挺してあそこまでのことをやってのけてくれたのだ。

 こんなものじゃあお釣りが来る。


「何!?」


 【思考持ち(ハブレイン)】のモンスターウルフはそれに気づき、どうにか失速して回避を試みるものの、あたしの放った【火の玉(フレアスフィア)】に命中したようだった。

 あたしなりにかなりの賭けだったけど、これが当たってしまえばもう怖くない。

 もとより、火を怖がらない動物はいないのだから。


「あ゙、あ゙、あ゙、あ゙ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 あたしの魔法が命中したモンスターウルフの頭領は、火の恐怖によってのたうち回っていた。

 さっきまでの威勢はどこかへと消えてしまっている。

 所詮思考を持っていても神経回路は変わらない、か。

 だが、奴は他の生物と比べると別格だった。


「水……水……みずぅぅぅぅ!!」


 奴は咄嗟の判断で湖に飛び込み、どうにか焼けこげるのを阻止したのだった。


「ハァ……ハァ……。鬼畜だな。貴様。」


 九死に一生を得て水面で犬掻きをしながら悠長に話す【思考持ち(ハブレイン)】。

 だけれど、彼は知らない。

 知恵を持つもの同士の決戦に置いて、最も重要なのは野生のものと変わらずに武力だが、次に勝敗を分けるのは、相手に対する情報の有無だ。

 そしてあたしは知っている。

 【思考持ち】は、ただ知恵を持つ手段を手に入れただけなので魔法などは一切使うことができない生命体だ。

 だけれど、目の前にいる【思考持ち(ハブレイン)】は知らない。

 あたしが、5属性をもの魔法を行使できることを。

 そしてそれには、水の魔法も含まれている。


「……!?貴様、まだ何か企んでいるな!?」

 

 あたしは生命力をこめると、何かを悟ったのか慌てる【思考持ち(ハブレイン)】を前に、かなりのニヤつき顔でこう言い放った。


「今までのあたしのプレッシャーと、期待と、その他諸々を、まとめてくらえ【思考持ち(ハブレイン)】!【水包み(ウォーターラップ)】!!」


「!!?」


 すると周りの水の形状が変化して【思考持ち(ハブレイン)】の周りに水がまとわりつき、私たちをあそこまで脅かした【思考持ち(ハブレイン)】は、溺れて湖の底へ沈んで行ったのだった。


 ――――――――――――――――――――――――


 俺は最後のモンスターウルフに渾身の右ストレートを決めて、本当の意味でモンスターウルフの集団に勝利したのだった。


「やっと……終わった……。」


 文字通り満身創痍が似合うこの体を、俺はシャトルラン終わりかのように地面へと寝転がらせる。

 もうできるだけ、動きたくない……。

 生命力まで過剰に使ってしまっているのだ。

 こうなって必然だろう。

 そのときだ。


「そっちも……、終わったみたいだね。なんか、色々、ありがとう。」


 鼻血を大量に出しながら、ロッドが帰ってきたのだ。


「……ロッドの方も……、終わったか。」


 俺は寝転んだまま聞く。


「うん。終わったよ。」


「……そうか。よかった……。」


 俺は精一杯の笑顔を見せた。

 するとそれに対してロッドは思い出したかのようにこう言った。


「そうだ。……聞かせてあげる。あたしの苦い過去の話。」


「あぁ……、そうだな。ここで残りの時間ぶっ倒れとくのも暇だし……、頼む。」


 俺がふと空を見上げると、登り始めの太陽が俺たちを明るく照らしていた。

 俺はロッドの過去話を聞きながら、試験の残りの2、3時間を過ごしたのだった。

あと1〜2話で、ラユグトス編が完結となります!

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