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第18話 星海の聖女


 不吉な低い音響とともに、沖から風が吹きつけた。


 ウィスタとオリアスは、背後、つまり停泊している母艦隊の方を振り向く。

 その瞬間、転落した。立っていた艀船はしけが傾き、急速に流れ始めたのだ。

 オリアスとともに水中に落ちる。

 と、その背に誰かの手が回された。

 水面に出ると、横にリリアの顔があった。遅れてオリアスも顔を出す。


 「……リリアさま」

 「すまんな、もっと早く止められればよかったんだが……すべてを喋らせる必要があった。それより、備えろ。流れは沖合に向かっている。持っていかれるぞ」

 

 リリアのいうとおり、陸側から沖合に向かって強い流れができている。

 二人は祈りを送り、周囲の水を操作した。あわせて流れつつあった艀船の方向を変え、呼び戻す。主教たちから死角になる位置で艀船に手をかける。不自然に見えないよう、流れにまかせて沖合に移動する。


 波間から目を凝らすと、停止しているシアの母艦隊に異変が起こっていた。周囲に厚い雲が垂れ込め、雷光が立て続けに発生している。どの艦も揺れながら、ゆっくりと運動を開始していた。


 「……渦を作っているな。引き摺り込む気だ」


 これにオリアスが反応した。


 「引き摺り込む? どこに」

 「海底に決まってるだろう」

 「俺たちの国……シアの艦隊を、ぜんぶ、か?」

 「ああ。最初の計画がだめになったからな。第二計画というところだ。海上国家をひとつずつ潰していく気だろう。とことん耄碌もうろくしたな、あの男も」

 「くそっ」

 「……なあ、ウィスタ。鍵は、見つけたのか?」


 ウィスタはふいに言葉を向けられ、リリアの目を見返した。


 「……鍵、ですか」

 「おまえがこの男を助けるために、海底で、本来のちからを使ったのは知っている。おまえのことは、神殿を出てからずっと、追っていたからな」

 「……え」

 「それにあの、神殿の地下港のときも。見事だった。わたしが襲えば覚醒すると思ったが、あの時はまだ、自覚せず使っていたな」

 「……」

 「鍵は、なんだ。言ってみろ」

 「……それ、は……」

 「この男か」


 リリアはこの場と状況に似つかわしくない表情を浮かべた。ウィスタとオリアスは目を見合わせ、それぞれ何か言おうとし、中止した。


 「あはは。まあいい。とにかく、使えるようになったんだな?」


 ウィスタは小さく、頷いた。リリアはそれを満足そうに見つめている。


 「……そうか。よかった。ああ。よかった。嬉しいものだ……さて、では祝いに代えて、贈り物と、頼みごとをひとつずつ、手渡してやろう」

 「……えっ」


 ウィスタが改めて顔をあげる。と、水流が変わった。強い水が寄せてくる。慌てて回避しようとするが、できない。リリアが右手を水面にかざしている。彼女の操作によるものだった。

 沖合の巨大なそれとは別の、小さな渦がウィスタの周りにできている。引き込まれる。オリアスが手を伸ばすが、同じように流された。


 「ウィスタ。頼みごとを言うぞ。止めてくれ。主教も、あの馬鹿な巫女も、神殿で助力している巫女たちも、あの渦も。ぜんぶ、止めてくれ」


 リリアは大声を上げた。


 「次に、贈り物だ。おまえはきっと、星の巫女と、シアで呼ばれただろう。だが違う。はじまりの巫女のちからを継ぐものなど、いくらでもいる。わたしもその一人だ。だが、鍵が必要な巫女などいない。鍵で封じられたちからを持つ巫女は、巫女ではない。おまえは……」


 ウィスタとオリアスは、ほとんど水中に飲まれながら、リリアの言葉をなんとか聞き取った。

 リリアは口角をあげ、右手の人差し指と中指を額にあてた。田舎の港の若者のあいだで流行している、敬礼だった。


 「星海ほしうみの聖女。はじまりの巫女の、転生者うまれかわりだ。おまえこそが、すべての巫女の、始祖なのだよ。じゃあ頼んだぞ、聖女さま!」


 

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