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dearest  作者: 葉鳥
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05.落ちたのはメルヘン(3)

 ぶつぶつと唱えられていた非常に怪しい名前の発音は、唐突に顔を上げたラウによって終わりを告げられた。


「じゃあ、サーラで」

「ちょっと待て」


 おい。また名前が変わってるんだが一体どういうことだ。

 私は純日本人、中でも和服の似合う顔立ちで、サーラとかいう横文字の金髪碧眼イメージとは重ならない。ちなみにコレ、私の中のイメージだけど。

 凡庸なる日本人、その名もサーラ。

 つまり違和感ありありで、こっぱずかしいと言いたい。


「……もう少し考え直してほしいわ」

「サーラで良いじゃないか。呼びやすい」


 私の抗議にラウはとっても不満げだ。そうしていると何だか幼く見える。今までそう年は変わらないかと思ってたけど、実はもう少し離れているかもしれない。

 まあ、とにかく、一番言いやすいものに落ち着くのがあだ名というものである。

 ラウの中ではサーラで決定したようだ。私も押し切ったしお互い様ということで諦めるか、と腹をくくる。

 ……あだ名は慣れれば問題ない。しばらくは大分こっぱずかしいだろうけど。


「話を戻すが、確かに私は結婚に乗り気ではない。だが乗らねばならない」

「私は乗りたくない」


 ぶーぶーとヤジを飛ばし、ラウに横目で睨まれる。怖い、王子様怖いです。

 何よう、至極真っ当で純粋な抗議なのに。

 私はふて腐れた。ここでの私の立ち位置は〝神の娘〟で〝時期国王の結婚相手〟。従えば無下にはされない地位が持てるだろう。でも嫌なものは嫌だ。ノーと言える日本人になりたいのだ。

 しかし〝神の娘〟でも〝王の結婚相手〟でもない私は最高に不安定な地位になる。無職の不法滞在者だ。これは非常に良ろしくない。

 ああ、もうどうすりゃ良いのよ。


「とにかく、しばらくは婚約者だ。その間に心を決めろ」


 ラウは気が済んだとばかりに、当初よりスッキリとした顔になった。こっちは頭がこんがらがる一方だというのに腹立たしい。

 ぎりり、とベットのシーツを握りしめた。


「その間に私は帰る方法を見つけたらいいのね?」


 飛行機以外。恐らくはメルヘンな方法を。


「それかおとなしく結婚するかだな」


 私と結婚するの嫌なくせに、あくまでそっちを推すか!

 敵ながらあっぱれである。まあ、立場に縛られたしがらみのアレコレが理解できない訳じゃない。ただ、私まで一緒のしがらみに入れないで欲しいだけだ。こんな状況に屈してなるものか!


「絶対に私が勝つんだから」

 よっし、と気合いを入れて「いつから勝負になった」というラウの声は聞こえないふりをする。

「で、式・三点セットの期限はいつまで?」

「あと一年二ヶ月と十六日」

「遠っ!!」


 もうすぐって、もうすぐじゃないよね、それは。

 むしろそれまでに帰れなかったら、もはや家出どころか明らかに失踪になるから。


「即位は宣誓して一年は間を置かなくてはいけない。その間に王として認められる働きをするのだ」


 当然といった風のこの少年の年齢が気になった。次の年で成人、約一年で王様のラウは何歳なんだ。少なくとも日本で言うお酒の飲める年齢ではなさそうだ。もしそうだったら童顔すぎる。


「ラウって今幾つ?」

「十三になった。成人は十四だ。お前は?」


 うわ、思ったより若い。ていうか幼い?

 堂々とした落ち着き具合から同年代にも見えても、顔立ちはまだ優しい。十五、六くらいだと思ってた。

 格好良いかって聞かれたら頷かざるを得ないのが悔しいところだが、どちらかというとまだ可愛いと表しても差し支えはないだろう。もっとも、厳めしく硬い表情と、でかい態度が全ての愛らしさをぶち壊しにしているのは言うまでもない。せっかく美少年なのにもったいないねえ。


「私は十六よ。たぶん、三つ上になる」

「ほう。もっと幼いかと思っていたが」


 今なんか失礼なことが聞こえた。平均的な日本人の私に謝れ。

 とりあえずは婚約者で妥協することにする。安定した衣食住が確保出来るに越したことはない。だが、目の前で大いに不遜な態度を取る王子の嫁になるのは御免だ。いやほんと性格合わないでしょ。

 そんなこんなで、絶対に一年二ヶ月十六日が経つまでには帰ってやろうと、私は固く心に誓ったのだった。







 後から聞いた話なんだけど、この国って本名はあまり名乗らない風習があるらしい。それも偉い人になるほどそういうの気にするって。教えられるのは家族とかよほど近しい人か信用できる人、王様でさえ無理に聞き出すことは出来ないらしい。

 ラウが教えてくれたあの長ったらしい名前は、ほぼ本名。王様になる時の正式名称。

 ああもうそんな面倒なの、私になんて教えなくたって良いじゃない。知って得するどころか損するわ。

 とかいうふうに呻いたりもしたけど、本名って知られると弱みを握られたかんじらしい。上から目線の王子殿下だけど自分の本名出して求婚──と言って良いのかは疑問だが──をしたんだから、一応私のこと対等に見てくれてたのかもしれない。色々問題ありな少年だけど、そういうフェアな姿勢は嬉しいよね。


 ま、いざとなったら名前を盾にしようと思う、そんな私は薄情者に間違いない。





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