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dearest  作者: 葉鳥
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19.帰ってきた魔術師(3)



 飛び込んできたのはラウだ。走ってきたのか髪が乱れてる。


「見つかっちゃったか。上手くまいたと思ったのに」

「この馬鹿が。魔力が動けば分かるに決まってるだろう」


 魔力。ロイスは魔術師(仮)。魔術を使った、ということなのかな?

 私とそう変わらない(むしろ低いかもしれない)身長のラウがロイスを見上げ、しかめ面で言い捨てた。ラウからの扱いもなかなか辛辣だけど、ロイスのキャラクター性の問題だな。うん。


「サーラとお揃いにしてみようと思ってさあ。ああ、サーラ、仕掛けはないんだよ。髪に魔力の色が映るだけで」

「ごめん、さっぱり分からない」

「〝魔術師は力を使うと髪が黒くなることがある〟。そういうもんだって思ってよ」


 へらへらと魔術師は笑う。そいうもんなら、もうそれでいいや。これ以上追求するのは疲れる。そうしてるうちにロイスの髪はすうっと色を失った。不思議だ。この一瞬の毛染め技術が日本に伝われば、かなり重宝されるだろうに。


「あえて触れなかったけど、ラウ、走ったの?」

「どこかの誰かのせいでな」


 まだ乱れてる髪を直してやると、眉をひそめて身じろがれた。せっかくの好意なのになんだその態度は。めげずに続行すると仏頂面で動かなくなった。よしよし、それで良い。これでいつもの完璧王子様ですよ。

 しばらく静かだったロイスの「ぶっはー!」と吹き出す声が上がった。すかさずミカちゃんが手に持った扇で殴る音も。


「え、ラウって何? ラヴィエス殿下のこと? 良いんじゃない良いんじゃない」

「ロイス、殿下に向かってあなたはもう!」

「だってミカエラー」


 腹を抱える魔術師(仮)に、ますます仏頂面になる殿下。かつてなく空気の温度が下がってるから、今すぐその笑いを抑えてほしい。


「愛称があるのは良いことだよ。名前は大事だからねえ」

「あなたがそれを言いますの?」


 僕だからさ、とロイスは片目をつぶって笑う。うわあキザだ。ウィンクから星が飛んだぞ。それでもサマになってるんだから、なんか悔しい気もする。

 そして「これも説明するね」と解説を始める。


「魔術師ってさ名前が大事なわけなんだよ。これ盗られると魂握られちゃうから、絶対に本名は隠すの。それと貴族も同じ。みんな長ったらしい名前だけど、本来はもっと長い本名を分かりにくく縮めた通称なんだよ。本名を隠すことで暗殺とか傀儡とか防ぐ効果があるんだ」


 怖ーーー!

 コーラルさんの言うとおり「こっちではサーラで良いんじゃないの」に従おう! もうサーラで良いとかじゃなく、サーラでいよう!

 魔術師(仮)から隠れるようにささっとラウの後ろに隠れた。ロイスに名前言わなくて良かった!


「今は名前を盗るほど腕の良い魔術師はいないから安心していい。名前が長いのは今ではただの風習だ……からかうな、ロイス」

「えー、からかってないよ? でも怖がらせてごめんね」

「〝こんなの〟にも名前を盗るほどの力はありませんわ。怖がるだけ損です」


 なんだか三人に慰められてるよ私。そんな怖がってるように見えたのか……ラウの後ろからもぞもぞと移動した。


「じゃあ本名は誰も知らないの?」

「名付け親と立ち会いの魔術師以外はね。結婚したらお互いのを教えあったりもする人もいるよー」


 へええ。それは離婚できないなあ、とか思うのは私が俗世で汚れてるからなのか。

 で、さっきロイスが「名前は大事」と言うのをミカエラが揶揄した理由を教えてもらう。

 ラウ曰く、魔術師になるには名前を新しく付けて魔術師名とするそうだ。そして本来の名前は伏せておくのが定石らしいが、ロイスはそうではないらしい。


「ロイスが魔術師名なんだよね?」

「そうだよ。ロイスで協会に登録してあるからね」

「本名は?」

「ロイエンス」

「一緒じゃん!」


 ほぼ一緒じゃん! 二文字抜かしただけ。魔術師名ってそんなんで良いの? ラウとミカちゃんを見ると、二人とも無言で首を横に振った。


 「だって僕の名前、かなり知られてたからさあ。名前変えても知れ渡ってるから意味ないし。ちょっと面倒だったし」


 明らかに最後のが理由だ。ラウとミカちゃんを見ると、二人とも無言で首を縦に振った。

 突っ込みたいのが、知れ渡るほどの知名度ってどういうことだ。悪目立ちとか……してそうだよね、すごく。顔が無駄に良いのに、性格がこれだもんなあ。


「確かに、ロイスの名前は知れ渡っていましたわ。でも、慣例として魔術師名はちゃんと付けるべきでしょうに」

「その知れ渡ってたって、どういうことなの?」

「僕、元々貴族出身だから」


 ああ、なるほど貴族。王子っぽいしね、見た目は。ごめんごめん、すっかり悪い意味で目立ってたとばかり思ってしまったわ。


「そこのラヴィエス殿下と従兄弟なんだよねー」


 は?


「不本意だが事実だな。ロイエンス・リエ・ダルフェインは私の従兄弟だ」


 ええ?

 バッと音を立ててミカちゃんの方を向く「確かですわ」本気か!

 駄目だ、繋がらない。この笑顔を欠片も見せない仏頂面王子と、際限なく笑ってる魔術師(仮)が従兄弟。ああ、ロイスを初めて見たときに感じた既視感はコレか。確かに奇麗な顔の作りは二人ともよく似ていた。でも。なんか。認めたくない。

 二人の腕を掴んで引っ張り寄せて並べる。身長差があり、表情差もあり。これ基本のパーツが似てるんだろうなあ。色だってラウの濃い蜜色に比べてロイスは薄い金色だとしても、同じ系統。


「DNAの不思議……」


 どうしてこんなに違っちゃったの。足して二で割りたいと、非常に残念な気持ちで二人を見比べてしまった私に罪はないだろう。


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