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規則を守って

「おい、今、敷居またいだな」


 学校の友達であるサトルの部屋は和室だった。

 入るなり、指をさしてきた。


「え、またいじゃダメなの?」


 サトルは常識だろうと言わんばかりに深く頷いてくる。


「この部屋は敷居をスライド移動で越えるのがルールだ。すり足を徹底しろ」


「そんなの聞いたことない」


「はい。やり直し」


 言われるがままに、すり足で入った。スライド移動して部屋に滑り込むことができた。靴下が少しだけダメージを負った。


 続いて、彼はサトルに命じられるままに座椅子を引いた。


「はい、イスを引く音が大きすぎる。イスに謝れ」


「……ごめん」


「靴下を履いたまま謝るのは禁止」


 わけがわからない。ルールを即興で追加しているように思えて、彼は少し苛立ったが、ひとまず言うことをきいてみることにした。


 部屋に行ってみたいとサトルに頼んだのは自分なのだから、よほど無茶なことを言われない限りは従ってみようと思ったのだった。


「じゃあ脱ぐわ」


「よし、脱いだら、靴下にこれまでのことを謝れ」


「……ごめん」


「靴下が何でできてるか知ってるか?」


「糸?」


「その糸の一本一本に感謝をこめろ」


「……ありがとう」


「その糸は大地から生まれた。大地に感謝をささげろ」


「……大地って、地球のこと?」


「他に何があるんだよ」


「いや」


「この部屋は二階だ。俺は大地よりも上にいることになる。だから俺に感謝を捧げろ」


「なんか抵抗あるなあ」


「いいのか? この部屋では俺に感謝しないと、すべてがこの部屋と同じになるぞ」


「どういうこと?」


「お前のせいで、全世界がこの部屋のルールに従うことになる」


「……全世界?」


「地球だけじゃない。火星にも敷居をスライド移動で越えるルールができる」


 しばらく無言になった。


 居心地が悪くなったサトルが「土星の環の上なんかも、スライド移動の対象に――」とルールを追加しようとした時、彼は被せて言うのだ。


「火星を守るため、お前を倒さねばならぬようだ」


「え、えっ、な、何者?」



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