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本物の喧嘩

 スタンプカードのようなものなのだと思う。


 無断で高価なカメラを買ったこと、1ポイント。無断で高価なレンズを買ったこと、1ポイント。無断で撮影旅行に行ったこと、1ポイント。何ポイントで噴火するのだろう。


 妻は私が工夫して撮った富士山の写真画像、そのV字型の影を指さして、「なんで連れて行ってくれないかなあ」と言った。口調こそおっとりしていたが、マグマが今にもせり上がってきそうなのは明らかだった。


 そもそも、美しい写真を自慢したい気持ちを我慢しきれず、妻に見せつけてしまったのが間違いだったのかもしれない。どのような言い訳をしようと、相談なしの行動への怒りたちが晴れることはもはやないのだ。


 しかし、次に発せられた妻の言葉にだけは、反論したくなった。


「本物じゃなくない?」


 ――本物とは何だろう。


 たしかに、一瞬を切り取った写真は、そのもののそれではないかもしれない。なんなら私の作品は、湖面に反射する富士をスプーンに映したものである。逆さ逆さ逆さ富士といったところだろうか。


 そうなると、偽の偽の偽くらいの多重ニセモノ状態なのかもしれない。しかし、知っているのだろうか。人間の眼の構造からいえば、本来は逆さまな映像を脳が処理して、解釈を付しているに過ぎないのだ。そうであるなら、妻の言う「本物を目に焼き付ける」という行為は、本当の意味で本物をとらえてはいないのだ。目と現実の光景とは本来違うモノを映しているわけなのだから。


 あるいは、私が取り組んだスプーンに逆さ富士を映して撮影するという行為こそが、真実に至る道なのかもしれない。可能性は低くとも、ないとも言い切れない。私はカメラを通して、そうした本物を探す冒険をしているわけだ。


 そういったことを妻に伝えたところ、「違うでしょ。その場所にたどり着くまでの気持ちとか、その場所で感じたこと。そういう肌と心の体験があってこそ本物でしょ。こんな意味不明な写真じゃなくて、あたしに本物をちょうだいよ」と言った。


「それで言えば、こうして意見を戦わせ合っている時間こそが、本物なのかもしれない」


 そう答えたとき、妻はついに噴火した。


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